迷子と迷宮(4)

「我が眼に映る全てを見透せ───『ガイド』」


 魔法の発動と同時に、頭の中にこの洞窟の内部構造が入ってきます。


 私は脳内で道順を確認すると、ガイドを停止させミカの方に向き直りました。


「大体わかりました。これでこの迷宮から抜けられるはずです」


「……今のが、魔法?」


「はい。今私が使ったものは、見たものの全てを " 解析 " する白魔法『ガイド』です。私ったら、この手の便利な魔法が使えることを忘れてました」


 私は手を頭にあて、たはーとおちゃらけてみせます。何分習得したのはいいものの、今までその真価を発揮する機会に恵まれてこなかったものでして。


 気を取り直し、私は「ガイド」で確認した通りに歩き始めます。


「ベルン、『白魔法』ってなに?」


 歩き始めてすぐ、ミカが私に訊いてきました。


「ミカは、魔法についてどの程度知っていますか?」


「なーんにもしらないよ」


 ───となると、下手に詳しく説明するのは悪手かもしれませんね。ここは基本的なことを簡単に、易しく、噛み砕いて説明するのがベストのようです。


 私はミカに、「私」を知ってもらうという意味もこめて、魔法のなんたるかを教えることに決めました。


「『魔法』とはですね、簡単に言えば『目に視えない力の働き』を指す言葉です。そしてその種類は主に三つ、『白魔法』『黒魔法』『銀魔法』です」


 私の言葉に、ミカは何も言わずコクコクと頷きます。……こう、真剣に聞いてもらえると、なんだか変にくすぐったい気分になりますね。もちろん、いい意味で。


 私は更に続けます。


「で、ですね。『白魔法』というのが、さっき私が使ったような自分自身に作用する魔法のことで、特徴としては術者本人にしか作用しないといったところです」


「じゃあ、黒魔法は?」


「『黒魔法』というのが、術者の指定した対象にのみ作用する魔法のことです。例えば、今みたいに指先に火を発生させたり、何もないところから水を精製したり、手足を使わずに敵を押し倒したり……って感じですね」


「つまり、あぶない魔法ってこと?」


「危なくない魔法なんてものはないんですけど、───そうですね。その考え方で正解です」


 私はミカの頭をポンポンと撫でてあげます。


 ミカは満足したようで、再び駆け足で私の前を走り出します。


 あまり先に行かないようにと声をかけようとしたところ、ミカはピタッと動きを止め、百八十度回転してまた私のもとへ駆け寄ってきました。


「───じゃあ、『銀魔法』は?」


 思い出したようにそう言うミカは、私に「教えて教えて」と催促します。


 まぁ、銀魔法なんてそうそうお目にかかれるものでもありませんし、省略していい気もしたのですが。


「仕方ないですね」


 その純真な瞳と、道中の暇に免じて教えてあげましょう。


「『銀魔法』───それは世界に作用する魔法です」


「……世界に?」


「えぇ。神々が世界を創造する際に使用したと語られる魔法のことで、その魔法を習得できた魔法使いは、世界でもたった五人だけと言われています」


 しかも、そのうち二人は死亡が確認されていて、一人はここ数十年生存が確認されていない。


 実質、この世界で銀魔法を行使できる人間は二人だけということになります。


「しかも、白魔法や黒魔法同様『銀魔法』にも様々な種類があるのですが、彼らが習得できたものは一人につきたった一種のみ。数ある銀魔法の中で一つしか、覚えることができなかったのです」


「そんなに難しい魔法なんだ」


「それはもう、本当に」


 私はしみじみと言います。


 そんな私の顔を見て、ミカはある質問を私に投げました。何の混じり気もない、純粋な疑問なのでしょう。


「ベルンは使えないの? 銀魔法」

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