迷子と迷宮(3)
「ベルンは一体、どこから来たの?」
「さて、何処でしょう。当ててみてください」
「わかんない。だってそのお面のせいでお顔が見えないもん」
「お顔がわかれば、出身国もわかるのですか?」
「目の色とか、あとは骨格とかでだいたいわかるよ」
なるほど、そういうものですか。ならなおさら、この仮面を付けていて正解でしたね。
いくら幼子が相手とはいえ、万が一が起こり得ないとも限りません。私がファンタジアで名の知れた魔法使いだとバレてしまっては、国から追手が来てしまうでしょう。というかバレなくても今頃はきっと、捜索隊の一組や二組が編成されているはずです。
うーむ。やはり念には念を入れるべきですね。
「残念ですが、やはりこの仮面は外せません。私のことは、故郷を持たない通りすがりの旅人とでも思っていてくださいな」
私は人差し指を唇に当て、シーッとジェスチャーをしてみせます。オマケにウインクも付けてあげましょう。……仮面付けてるので意味ありませんが。
「じゃあ私も、『シーヴァ』のこと教えてあげない! べーっ」
そう言って、ミカは私の前に出て走り出します。トテトテトテと元気よく、真っ暗な先を突き進む彼女の背中を、私は急いで追いかけました。
「ちょっと待ってください! それと、どうかシーヴァの情報は開示していただけませんかぁ!!」
「悪い魔女には教えないよー」
ミカは愉快そうにケタケタと笑いながら、さらにぐんぐんと進みます。
正直、またまた困ってしまいました。
と、いうのも。彼女の国である「シーヴァ」は、私の目的地でもあったのです。
一旅人にとって、情報は金です。北の国シーヴァが、一体どのようなところなのか……塔から持ってきた書物の情報だけでは、少し正確性に欠けてしまいます。ここはぜひ、現地人の話を聞いておきたいところなのです。
と、いうわけで。
「やっぱり教えてくれませんか!? ミカァァァァァ」
私はそう叫びながら、力いっぱい地を蹴り走り出しました。
「───本当に、出口なんてあるのでしょうか……」
「だから言ったじゃん! ぜんぜん出られないって」
私は額の汗を拭いながら、純粋に思い浮かんだ疑問を思わず口にしてしまいます。隣ではミカが口を尖らせ、「私の言ったとおりでしょ」となぜか自慢げに繰り返しています。……普通に鬱陶しいです。
もうかれこれずっと足を動かしている気がするのですが、一向に光が見えません。これは少し、まずいかも。
「ねー、ここさっきも通らなかった?」
「ずっと同じ洞窟景色だから、そう思ってしまうだけです。気の所為ですよ」
「なんでわかるの?」
「目印を撒いているからです。ほら」
私はポケットの中から数枚の銀紙を取り出し、ミカに見せてやります。銀メッキでキラキラと光るこの紙は、この山脈に入る以前に私が食したチョコレートの包紙です。
決してミカにナイショで食べていたとか、そんなんじゃありませんよ? 私はそこまでケチじゃないです。
ミカはしばらく銀紙を見つめると、バッと顔を上げ私の顔を睨んできました。いや、だから本当に違うんです。チョコレートはあなたと出会う以前に全て食べてしまっていて───
「ポイ捨て、ダメ」
私とミカの間で沈黙が起こります。
「……そりゃ、ど、どうもすみませんでした……?」
腰に手をあて人差し指を立てたミカに、私は理不尽にも怒られてしまいました。「非常時なんだから仕方ないじゃないですか」なんて正論も六歳児の前では無力らしく、私はベシッとデコピンを食らいます。
……まぁ、「私にもチョコレートを食わせろ」なんて駄々をこねられるよりはよっぽどいいかと、ヒリヒリ痛むおでこを撫でながら私は納得することにしました。
子供って、難しいですね。
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