第3話 ノアール

吹き抜けになっている円形の広場に駅と同じか真っ黒な木とツリーハウス。

と、ここに来て初めての生き物。

、、猫だ。


裏道にいたようなしっぽに宝石飾りの着けた黒猫が数匹。


彼らに囲まれながら優はツリーハウスにかかったはしごを登っていった。


ここには手紙の、それに加え建物群の主がいる。

特に何も知らされてはいないがそう感じるのだ。


─男だろうか女だろうか。

─怖い人だったらどうしよう。


はしごに足をかける音が一つ一つ耳にやたらに響く。


登りきったあともドアノブを握ろうとする手を出したり、引っ込めたり、、


しばらく悩んだ後、意を決してドアノブを回す。そして引く。開かない。

押してみる。やはり開かない。


せっかく勇気を振り絞ったというのに出鼻をくじかれた気分だ。


もう諦めてノックすることにした。


ドアノブを握るのにあれだけ悩んだのは何だったのか、行動に移すのは早かった。


コン、コン、コン


「はい、開いとるよー」


関西弁混じりの爽やかな男の声。


「開かないからノックしてるのっ!」


空腹と疲れからイライラしていたため少しキレ気味に返事を返す。


「あー!!」


たった1文字なのに凄く嬉しそうなのが伝わってくる。

声が一段と明るくなったと同時にドタバタと向かってくる音が聞こえた。


かなり遠い所にいるのだろうか、時間がかかってるように思う。

声は近くて聞こえたのに不思議だ。


しかもいくら木が大きいからといってもたかが知れている。

そうにもかかわらずまだ足音。


何か倒したのだろうか、ガラスの割れる音も聞こえてきて不安になる。


助けるなんてことは出来ないので扉の前でそれも小声で「大丈夫ー、、?」なんて言って待つ。


開いた。

それも横に。


まさかの引き戸。


唖然として視線はかつてドアノブの形をしたものがあった場所でとまる。


「おーい?」


やっと顔を上げる。


そこにいたのは、つややかな黒髪をハーフアップにした男。

黒髪と白い肌によく似合う深紅の目と唇。


そんな男が心配げにこちらを覗き、口を開く。


「よぉきたなあ!優!!」

と言っていきなり抱きしめてきた。


ぐううううう


盛大に優の腹が鳴る。


男はくすっと笑って「お腹すいたやろ、入りぃ」


と、中に迎え入れてくれる。


えらく馴れ馴れしい。

どっからどう見ても怪しいのだがこんな恥ずかしいとこ見られといて逃げるのも、

かと言って逃げようとしてもここは明らかこの男の思うがままのような、、


半強制的に中に招かれる。


入ってみるとこれまた唖然とする。

もうこの世界は一般常識など到底叶わぬような設計をしているのだろうと半ば諦めて戸をくぐる、


戸をくぐるとそこは狭いと思っていたツリーハウスとは一変、小高い緑の丘だった。

丘のほとんど頂上部分にはこじんまりとした一軒家。

そこに繋がる石の道。


「ちゃんと着いてきてや、ここ危ないから」


ただの丘なのに不思議なことを言うなと思い尋ねる。


「なんで、、、ですか?」


「ただの幻影やから踏み外したら落ちるよ」


と言って石をぽんと出し、床に落として見せてくれた。

言われた通り、石は地面をすり抜け消えたように思えるが、実際は草が幻である。


「普段は僕以外絶対入らんのやけど優は特別やからなあ」


と言ってすたすたすたと床石に従って丘を登っていく。

後から優は着いていく。



「はい、いらっしゃーい」

「ここが一応の僕の家だから適当に座ってて」


植物に溢れかえった部屋に白い木の机と2つの椅子、

扉が壁1枚に2、3枚。


周りを見渡し、椅子に座る。


間もなくして男がパンとスープを運んできてくれた。


「こんなもんしかないけど食べ」

「あんま美味いないかもやけど、、」


「ありがとうございます。」


硬めのパンととろみのあるスープ。質素な組み合わせで味はあんまりしなかったけど腹が減っていたので美味しかった。


ある程度腹が脹れてきたところに、


「僕の名前はノアール、ここの、一応ボスやっとります」

「もの食べたけん、ほないこか」


自己紹介だけしてがたっと立ち上がる。


「え、どこ行くんですか?」


「いいもん見せたるけん楽しみにしといてー」


と嬉しそうににまにまする。

ノアールは俺の手を引いてまた来たツリーハウスの広場に戻った。


さっきまで閑散としていた建物郡は別の場所かのように人でいっぱいだった。

楽しそうな人の声、提灯には灯りがともり、そこらかしこからご飯のいい香り。


一気に温度が上がるのを感じた。

ぶわっと全身の毛が逆立つようなそんな興奮。


ノアールはそんな俺の顔を見ながらまたにまにま。


「ええやろ、すごいやろ!!」

「僕の国すごいんやで!」


何回も見た光景であるはずなのに嬉しそうに子供みたいに自慢する。

「あっちはな!こっちはな!」そう言って何が売ってるとかどういう店なのか指さす。


「案内したいけん行こか!」


また俺の手を引いて進み出そうとしたところ、


?「ちょっ、どこ行くんですか!」


くせ毛で目の隠れた細身の男にとめられる。


「あ、ワグ!見てや、優来たー!」


と言ってノアールはまた俺にくっつき頭に顎をのせてくる。


ワグと呼ばれたお兄さんは俺に向かって挨拶をした。


「優様、初めまして。うちのノアール様がすみません、私はワグノルというものです。ノアール様にお仕えしております。SDのようなものとお考え下さい。」


よろしくお願いしますと会釈をされ、返す。

凄く礼儀正しそうな人だ。主人と違って、、


「して、どこに行くのですか?ノアール様。」


「優にこの国の案内をしとうてな!」


「仕事、、まだあるでしょう。」

嬉しそうな主人に対して容赦無い。


「あとなんですか?その喋り方」


「しゃべり方はな親しみやすいかと思って、、変?」


「はい」


「じゃあ戻すね!」

「ではいってきまーす」


「はい、ストップー」

「仕事してください」


ワグは仕事をほったらかして行こうとするノアールの上着を引っ張り止める。

ノアールはそっから逃れようとする。

ワグもかなり力が強いようで2人ぎりぎりと踏ん張る。


「やっと優来たんだよ!いいじゃん今日くらい!」


ノアールは国のトップだとは思わないくらい駄々をこねる。この国はこんなのがトップでいいのか、、


「ダメです、いつもしてないじゃないですか!仕事してください。案内は私がしときますので、!」


頑固で埒が明かないと思ったのかノアールが先におれた。


「もう!分かったやってくるから。すぐ帰ってくるからね!待っててね優!」


と言って消えてった。


ワグはため息をひとつして、

「それでは行きましょうか、優様」

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