第2話 駅と群れ
気づいた時にはどこかの駅のホームだった。
如月駅という看板が目に入る。
「あ、着いたのか。駅員さんがおろしてくれたのかな、、」
と、尻を払いながら立ち上がる。
どれくらい乗っていたのだろうか、学校を出る時は真上だった太陽が今は影を長く作り出している。
あの猫はいなくなっていた。
如月駅という名は今まで1度も聞いたことがない。県外なのだろうか、少なくとも近所ではないだろう。
そんな正体も分からない駅だがとても綺麗だ。この世のものとは思えないほどに。実際そうだろうがこの際どうでも良かった。
建材は木なのか?クロアゲハのような深みのある真っ黒な壁。周りは木で囲まれており、薄暗いがそれは圧倒的な存在感を放つ。
「今日は黒いものをよく見るなあ」
なんて、呑気なことを考えながら駅のゲートをくぐると目の前に広がるのはほとんど傾斜に反って並んだ建物群。
瓦屋根の和風なものから白壁、トタン、軒先テントやのれんが付いたものまで、まるで砦のようにそびえ立つそれに優は目を見開き、頬が引つる。
一種の恐怖と興奮が混じったその表情は傍から見れば狂人に過ぎないと改めて思う。
そんな群れの前にどうしようもなく立ち尽くしていると、つむじ風が体に当たった。
小石が混じっていたせいかズボンのポケットが少し切れた。
風の反動でポケットに入れていたあの黒い封筒が落ちる。
飛ばされないように慌てて拾いつつ中身をもう一度確認した。
中の紙、"真っ直ぐ"というのはそのままの意味で受け取ってもいいのだろうか。
にしても、まっすぐも何もそびえたっているそれに進む道どころか入口すら見つからない。
実際には窓やらドアやらあるのだがそれが見えるのは上空、とどきそうではない。とどいたとしても開くかは不明だ。
そう頭を抱えていると、ギギギという音と共に自分の腰ぐらいの高さであろうか木戸が少し遠いところで開いた。
開いたはいいがすぐ閉まろうとする。
木戸に向かって走った。閉まりかけていた扉をこじ開け間一髪入ることが出来た。
──そこは民家だった。壁だけの。
体力がないので少し走っただけですぐ息が切れる。
肩を上下させながら周りを見渡す。
切り取られたのは台所か。
ガスコンロと壁にかかっている調理道具たち。
微かに味噌の香りがするのはコンロにかかっている鍋の中身か。
「もう夕方だからなあ、お腹空いた、、」
自分の腹の状況を理解すればするほど、更に酷くなる。
呼吸するたび味噌の香りが体を駆け巡り、それに答えるように腹が鳴る。
そしてまた空腹に溜息をつき、腹がすく。
なんと負のスパイラル。
食べる訳には行かないので鼻を塞ぎ足早にその場から立ち去ろうと、コンロ横の扉に入った。
そこには空気が一気に晴れたことを感じさせる広い空間。広すぎる。人気はなく、涼しい。
片側2車線道路と同じくらいの道幅、寺町の観光地のように整備された石の床。
それらがひたすら続いている。先が見えない。
これが"真っ直ぐ"ということなのだろうか。
上を見あげるとここに入る前に見た建物群とどこに繋がっているのか冒険心くすぐる階段、梯子、扉。
そしてこれまた終わりがない。顎をつり上げるようにして上を見あげると、遠くの方に微かに光が見える程にこの群れは空を独占していた。
道を挟み上空、のれんのような布や洗濯物、渡り廊下などが今にも落ちてきそうな具合に横断しあい渋滞している。
上を見上げた状態で眺めていると、体を伸ばしたせいか盛大に腹が鳴る。
腹がよじれたような音に誰もいないのに恥ずかしくなってその場を立ち去ろうと急ぎ足になる。
入ったばかりの時は建物の圧で大きなところしか見ておらず気づかなかったが、建物の中は片付いているような散らばっているような、なんとも怪しげな雰囲気が漂っていた。
木棚に小さい箱が無造作にしまわれていたり、綺麗な形の小瓶が机上に整列していたり、、
人気は無いのに、生活感がある。
考えれば考えるほど分からなくなっていく群れに胸を踊らしながら歩く。
少しづつだが道が狭くなっていくように感じる。
小石混じりの床でスニーカーが擦れる音に飽きてきた頃終わりが見えた。
少しづつ狭くなっていった建物群の先にひときわ明るく見える吹き抜け。
そこが終着点の様だ。
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