4.ランドルクの本性

 財政面を考えた姫の考えも一理あった。

 財政は姫が言うほど切迫はしていないが、王の長期不在と言う状況の中、少しの揺らぎでも、国を滅ぼしかねないのをアンジェリナなりに意識しているのだ。

(明るく振る舞っていても、本当は国王代理の責務を感じているんだ……)

 アレクが、優しい目でアンジェリナを見つめる。

 元気いっぱい、わがまま放題のアンジェリナだが、アレクは騎士としてアンジェリナ姫を『ただ一人の姫』と心に決めていた。

『ただ一人の姫』

 騎士が、自分の命を掛けても守ることを誓う女性のことだ。

 アレクはアルティライト国の姫としてのアンジェリナには忠誠を誓っている。

 しかし、姫個人には『ただ一人の姫』だと心に決めているとは伝えてはいない。

 それは、騎士が求婚や愛の告白に使う言葉だからだ。

 身分違いの上に、まだまだ子供の姫にアレクは告げるつもりはない。

(姫の成長を、どんなに輝く姫になるのかこの目で確かめたい)

 アレクは、その言葉を胸の奥へしまった。


 そんなことは、気にもとめずに姫は、まだブツブツと竜退治にかかる費用に考えを巡らしていた。

「……姫は、きっとそう言うと思っていたので、もう一つドラゴン討伐の案を考えてたのですが……」

「ランドルク、良い案があるの?」

「はい……」

 ランドルクが、じっとアレクを見る。

 それを見て姫は、ニヤリとした。

 アレクは、背筋がゾクッする。

 嫌な予感……。

「わかった! アレクを派遣するわ。一人ならお金かかかんないし。アレク、この前山賊団壊滅してくれたのよ!」

 すでに、アンジェリナの頭の中では『格安』という言葉が小躍りしている。

「この前って…まだ、一週間しかたってないじゃないですか 勘弁してくださいよぉ……」

 アレクは、真っ青になった。

「アレク殿、職務とは関係ないとは思うが貴殿の力が必要なのです! ぜひともお力をおかし下さい!」

 ランドルクは、本気だった。

 騎士アレクは強い!!

 父の跡を継ぎ、ウェザーワース領へ帰るまで彼と一緒に仕事をしていて、アレクの実力をよく知っていたのだ。

 十二歳でドーム山の魔竜を倒したという話しが、信じられるだけの力があることをランドルクは、自分の目で何度も見ていた。


「ランドルク! いえ、ウェザーワース候、頭をお上げください。貴殿は国を支える諸侯の一人。私などに頭を下げないでください。微力でよろしいのなら、私の力などいくらでもお貸しいたします!」

 ランドルクの真剣な申し出に、真摯に答えるアレク。


「うふ、決まり~!」

 アレクが、しまったと思った時にはもう遅かった。

 けらけらと笑う二人の姿があった。

 もちろん、アンジェリナとランドルクである。

 二人はアレクが情に脆いこともよく心得ていた。

「アレク! お前人が良すぎるんだよ。この分じゃ姫にずいぶん扱き使われてるんだろう? 目に見えるようだなぁ」

(そうだ。ランドルクはこういう人だった……)

 アレクは、以前姫の護衛騎士隊長を引き継ぐときも、こうしてランドルクに泣き落とされたことを思い出した。

 あの時も、ウソ泣きだった!

 ランドルクは、真面目で有能な騎士隊長だったが、仕事を少し離れると『おちゃめ』な、お兄さんだった。

(今年で二十五歳になるのに……ずるいぞ。姫の性格は絶対ランドルクの教育に問題があったんだ!)

 アレクは、前任の護衛騎士隊長ランドルクを恨みがましく睨んだ。

 そして、色々と過去にだまされた記憶が蘇えって、最近では癖になっている大きなため息をついた……。


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