第16話 襲撃



 目線「十話子」 場所「城内」


 カガリがクラスメイト達を集めて重要な話をした一週間後の深夜。


 城が何者かに襲撃された。


「侵入者だ!」

「気を付けろ」


 警戒の鐘がけたたましく城内に鳴りひびく。

 それは、十話子達が異世界に来てから時を告げる以外で鳴ったことのない鐘だった。


 城の兵士達は、侵入者の対応でどたばたしはじめる。


 あちこちで剣戟がして、魔法攻撃が炸裂すり爆発音もした。


 人の怒号は次第に膨れ上がり、危機的状況が起こっていると十話子達に、訴えかけた。


「進入者だ!」


「勇者様たちをお守りしろ!」


「くそ、野蛮な賊め!」


 部屋のドアを叩かれて、眠りから引き戻された十話子達は、城の奥へと避難させられた。


 大勢の兵士たちに守られながら向かったのは、王座の間だった。


 城の中心部にあるため、めったな事では侵入者はたどりつけないと。


 王座に座っていたペルカが立ち上がる。


「よくぞご無事で」


 心配そうな表情のペルカは、その手に何かを持っていた。


 それは十話子達の見たことのない品物だった。


「ペルカ様! 防衛網が突破されました。ここに賊が侵入してくるのも時間の問題と思われます!」


 部屋の中に、傷だらけの兵士が駆け込んで来て、事態が切迫している事を伝える。


 ペルカは大きく頷いた。


「勇者様の命が失われることがあってはなりません。ましてや、こちらの世界の事情にまきこんでしまっている現状、何とかここから脱出させなければなりません」


 そして、ペルカは王座の間の奥へ向かう。


 そじて壁に手を向けると、隠し扉が出現した。


「このお城はもう持ちません。ですから早く逃げてください」


 その言葉は悲壮感に満ちていた。


 危機的状況をあおるように、あちこちで爆発が起きる振動がする。


 建物が揺れ、あちこちから埃が落ちてくる。


 そんな城から十話子達を逃がすために、ペルカ達は最後まで城に残るといった。


「私達の事は、どうかお気になさらず。貴方方は生き延びてください」


 瞳からあふれる涙をぬぐったペルカは、別れを惜しみながら、十話子達に指輪を差し出す。


「お守りです。どうかこれを一緒に持って行ってください」


 十話子達はそれを受け取った。


 しかし、それは洗脳の魔道具の指輪だった。


 指輪をつけたものと、つけさせたものに、確かな信頼関係がある場合はーー。


 指輪をつけたものが洗脳されてしまうというもの。


「強力な力が秘められているため、必ず勇者様の力になってくれるはずですから、今ここでつけていってください。無事に外へ出ても危険があるかもしれません」


 十話子たちは互いの顔を見やって、指輪を見つめる。


「なんという事だ! 第一部のクライマックス的展開じゃないか。ここでこの異世界で最初の大きなトラブルがっ、もがっ」

「山田うるさいし」

「静かにしててだし」


 一人山田が騒いでいたが、すぐに他の生徒が口をふさいだ。


 最初に十話子が指輪をはめる。


 それに続いて、カガリ、ホノカ、ネズもその指輪をはめた。


 しかし、その指輪が効力を発揮する事はなかった。


 洗脳の魔法が行使された証として、光るようになっていたが、それは何の反応も示さなかった。


 ペルカは、僅かに目を見張る。


「では、さっそく脱出の準備を」


 しかし何も言わずに、隠し扉の方へ十話子達を導いた。


 十話子達が、何かを言いかけるが、その前に状況が変わった。


 部屋の中に入り込んできた侵入者の賊が、城の兵士と戦い始めた。


 武器は様々で、魔法を使うものはいない。


 兵士は押され、賊のほうが優勢だった。


 勢いをつけた賊の一人が放った弓の矢が、十話子達の方へ向かっていった。


 それをペルカが「あぶない!」とかばう。


 背中に矢を受けたペルカはその場に倒れるが。


 十話子達は、助け起こそうとはしなかった。


「そろそろ芝居は終わりにしたらどうだ」


 その場に、カガリの言葉が放たれる。


 荒れていた部屋の中はすぐに静かになり、ペルカが起き上がった。


 ペルカは顔をしかめて、疑問を告げる。


「私達、そこそこ上手くやれていたと思っていたんですけど。どうして洗脳されないのですか?」


 ペルカと十話子達の間に、信頼関係はなかった。


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