第9話 目覚めぬ少女
目線「十話子」 場所「医務室」
訓練を終えた十話子達は、とある場所へ向かった。
それは。
城の医務室だ。
十話子達は、医師に向かって気になる事を尋ねる。
「まだネズは起きないんですか?」
「ええ、一度も。起きる気配もないようです」
それは未だ目覚めないクラスメイトの事だった。
大変な状態ではないらしいが。
まだ目覚めの兆候はないらしい。
もうしばらくは、眠ったままだという。
この見舞いには、クラスメイト達はほとんど顔をだしていた。
それに加えてホノカもいる。
この場にいないのは、服を着替えている山田だけだった。
医者は十話子達へ告げる。
「異世界から召喚されてきた者が気絶したまま目覚めないという事は、実は珍しい事ではありません」
このような事はまれにあるらしい。
召喚魔法が行使された時、世界を超える影響で、ほとんどの者は気絶してしまう。
世界と世界を超えるときに、その間に存在する魔力のかたまりに衝突するためだ。
膨大な魔力に体をぶつけた衝撃で、意識が落ちてしまう。
大抵は十話子達のように、すぐ目覚めるのだが、まれに数週間前かかるものがいるという。
だが、それは永遠ではない。
「時間はかかりますが、必ず目覚めるでしょう。安心してください」
医者の言葉に、十話子達はほっとした。
眠っているクラスメイト、ネズの世話はミニベアが行っていた。
白い帽子を被ったミニベアが。
ミニベアの姿はみな、似たり寄ったりに見えるが、よく見ると体格や体つきが違うことが分かった。
このあたりでミニベアの見分けがつくようになった十話子達は、それぞれの個体の名前についてたずねた。
すると医者は、少しだけ驚いたのち、白い帽子のミニベアの事を「ファイブ」だと教えた。
医者は「そんな事を聞いてきたのは、あなたたちが初めてです」と言った。
ミニベアは、城の中に全部で十匹いるらしい。
なぜか全てのミニベアには、首におそろいの装飾品がつけられていた。
「十匹ですか、意外と少ないみたいですわね、お兄様」
「そうだな。見分けがつかないせいか、もっといると思ってた」
ファイブは、どこかで摘んできたお花を、きれいに切りそろえて、ベッドの脇の花瓶に活けていた。
クマの手であっても、その作業は手際よかった 。
「かわいいクマちゃんが、かわいいお花ちゃん活けてるし~」
「メルヘン~、山田には分からない世界だし~」
花言葉に詳しいクラスメイトが、その花に興味を示していた。
しかしその世界には、花言葉というものが存在しないため、残念がっていた。
異世界の文化の違いにがっかりしたクラスメイトは、もし元の世界に帰れないなら、この世界で植物学者のなり、花言葉を広めたいと考えていた。
ほっこりした心持ちの十話子達は、ファイブにネズの事をお願いして、部屋の外へ出ていった。
「うちのクラスメイト達の事を頼んだぞ」
「私達もお兄様も、ここに来れない日があるかもしれませんしね」
ファイブは任せておけとでも言うかのように、胸を叩いて「くぅ」と一鳴きした。
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