第10話 カガリの疑心



 目線「カガリ」 場所「城内」


 クラスメイトの見舞いが終わった後、カガリは城の中をぶらぶらしていた。


 傍にホノカの姿はない。


 彼一人だった。


 彼の前をミニベアが通っていく。


 その生物は元の世界にはいない。


 しかし、だからといってその場所を=異世界とは結び付けない。


 カガリはいつも自分の常識感をいつも疑っていたからだ。


 もっと情報を集めるべきだと思っていた。


 それに、


 兵士達の行動が親切すぎる。


 人は簡単に、誰かに見返りを求めずに行動する事はできない。


 カガリは、そう思っていた。


 それに、異世界「暫定」の人間に接するのがスムーズにすぎた。


 他の勇者の話など、あまり聞かないのに。


 だからカガリは、若干の不信感を抱いていた。


 ファンタジーには憧れていたが、彼は他の者達より冷静だった。


 だそのため、この世界の事を詳しく知るために、積極的に兵士に声をかけ、彼等の話を盗み聞いていた。


 その結果、気になる事があった。


 赤い城には、洗脳の魔道具というものがあるらしく、それが城の保管庫に保管されていると聞いたからだ。


 その話を拾えたのは、運が良かったからだとカガリは考えていた。


 たまたま盗み聞きを立てていた兵士の前に、たまたま宝物庫にあるはずの管理品リストが落ちていたから。


「誰だこんな所に、落とした奴」

「勇者様には見せられないものじゃないか」


 兵士はそう言っていた。


 だからカガリは注意していたのだった。


「俺だけは奴らの動向に注意してないとな」


 その事は、妹であるホノカにもまだ知らせない事にしていた。


「あいつに余計なことで悩ませたくないからな」


 兄として生真面目な妹を守らなければと思っていた。


 家族として、それは当然の事だった。


 それに、カガリは幼い頃からしきたりの厳しい家で、ずっとホノカと共に支えあって生きてきた。


 だから、何よりも大切な妹だと思っていた。


 カガリは、基本的な所はまじめに考えていた。


 しかしそれはそれとして、女好きであったために、たまに城の兵士にからんでは妹を困らせていた。


「そこのお嬢さん、俺とお茶しない?」


 目の前を通りかかった女性に、反射的に声を掛けてしまう。


「何やってるんですか、お兄様」


 しかし、そこに偶然ホノカも居合わせていた。


 しかめ面を見たカガリは硬直する。


「げっ、ホノカ」

「まったく、こんな時に。いろいろやることがあるでしょう。女性をナンパするのなんて、今やることですか」

「こればっかりは、やめられなくて。なんとか見逃してくれないか? 殺伐とした日常の華なんだよ~」

「だめです」


 睨まれたカガリは、ホノカに引っ張られてしまう。







「調理人」


 一方、城の厨房では、食材がなぜか消えていた。


 調理人が異常に気付く。


「おかしいなあ、計算が合わないぞ」


 毎食勇者達への食事提供後、調理人達は首をかしげていた。


 計算通りに料理を作って出したのに、なぜか計算が合わない。


 料理人たちは調べてみたが、原因がわからなかった。


 彼等は不気味がり上司に報告するが、上司はことなかれ主義だったので、もみけされていた。


 だから、ペルカはその事を知らない。


 ペルカがその事を知っていたら、後の結果は違っていたかもしれない。


「聞きましたか、料理長。城の備品や生活用品が盗まれているらしいですよ」

「本当か、気味が悪いな」


 その他には、盗難事件も発生していた。


 犯人はよほど知恵の回るものらしい。彼等はそう考える。


「犯人がはやく捕まればいいですけど」

「上司が動かないんじゃな」


 証拠になるものは何ひとつ残されてはいなかったため、解決は困難だった。


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