第3話 異世界フェルナンド



 目線「十話子」 場所「異世界フェルナンド フェルナスの街 赤い城」


 十話子が意識を取り戻した時、最初に見たのは荘厳なお城の内装だった。


 だから、一瞬外国に来てしまったのだと、彼女は思った。


 しかし違った。


 どうやら十話子達は、自分達がいた教室から、異世界の建物へ移動してしまったらしい。


 それが分かったのは、元の世界ではありえない生物がいたからだ。


 目の前を、不思議な生き物が通っていく。


「くぅ、くぅ」


 ミニチュアのクマみたいな生物だ。


 クマみたいな、というのは実際には違うということ。


 基本的な見た目は同じだが、デフォルメされたキャラクターのような体形でに刀身だった。全長は幼稚園児ほどしかない。


 雰囲気としては、獰猛さは感じられず、愛らしさのほうが強い。


 それだけではない。


 最も異なる点は、背中に羽が生えている事だ。


 そのミニチュアのクマには、半透明な羽があった。


 十話子は自分の知識を改めて疑ってみたが、よく思い返しても、心当たりはなかった。


 だからクラスメイト達は、


「かわいいし~」

「ゆるキャラみたいだし~」

「ふむふむ、これは! 見るからに異世界ファンタジーでよくあるマスコットだな!」

「くぅ?」


 などとミニチュアのクマに反応していた。


 十話子より早く起きた者達は、その生き物に介抱されていたようだ。


 起きてる者達には、水の入ったコップと濡れた布を差し出し、倒れている者には怪我がないかチェックしたり、体が痛くならないように姿勢を変えたりしている。


 十話子は、ここで言葉にならない違和感を感じた。


 異世界に召喚された者は十数名ほどいた。


 ちょうど十話子が確認した、クラスの人数とほぼ一致していた。


 ほぼ、という事は違うという事だ。


 なぜか、一人足りなかった。


 だが、この場に移動したのは、十話子のクラスの者達だけのようだ。


 クラスメイトの会話を聞くに目覚めてから、移動した人間とかはいないらしい。


 混乱の中で、中心的存在になっているのが、例の兄弟だった。


 二人とも、すでに起きていたようだった。


「なんだ? 一瞬で変な場所に移動しちまったみたいだけど、何が起こってるんだ?」

「お兄様、私怖いですわ。何なんですかこれ。何かの撮影なんですか?」


 辺りを見回すカガリと、青ざめた表情で兄にすがりつくホノカ。


「クマみたいな生物がいるけど、こいつらが俺達を呼んだってわけじゃねぇよな? お前らしゃべれるか?」


 カガリはクマのような何かに問いかけるが、話しかけられたものは首をひるだけだった。


 言葉は喋れないようだった。


 鳴き声は、「くぅ」とたまに口にするだけだった。


 のちに知る事だが、十話子達が召喚された場所は、異世界のフェルナスという町。

 その町にある赤いお城の中だった。


 移動先の部屋は、大広間として使われる場所で、重要な儀式などをおこなうための部屋だった。


 一番早く目覚めた人間は、部屋の中に光る魔法陣があったと言っていた。


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