第2話 異世界召喚



 場所「中学校 教室」


 放課中、中庭でご飯を食べた十話子は、図書室に行かずに、教室へ戻った。


 持参していた本はあるが、タイミング悪く読み終わっていたため、手持ち無沙汰だった。


 だから十話子は、教室をぼうっと眺めて過ごす他なかった。


 この学校では昼放課の終わりに、ちょっとした連絡がある。


 次の授業の前に、自分のクラスでそれを聞いてから、移動教室の際には移動していくのだ。


 だから、十話子を含めた生徒達が教室に戻ってきつつあった。


 十話子が確認したところ、室内にいる人間は、十数人ほど。


 クラスメイト達は、のどかな方かの時間を、思い思いに過ごしていた。


 お喋りをしたり、勉強を教えあったりなどなど。


 しかし、その安寧は突如破られる。


 教室の床に突如発生した光る円陣によって。


 円の周囲や中には、見たことのない文字や、シンプルな図形がたくさん描かれていていたが、十話子にはそれが何を意味するのかは分からなかった。


 しかし、


「これは、魔法陣!」


 と、叫ぶ雑学好きのクラスメイトがいたので、十話子はそれ以降魔方陣と呼ぶことにした。


 眼鏡をかけたおかっぱ頭の少年だ。


「昭和かよ」「うける」と女子生徒達に見た目をからかわれていたため、十話子には少しだけ親近感がわいていた。


 その当のクラスメイト、山田は興奮した様子で叫んでいた。


「まさか、王道の集団異世界転移事件が起こるのか! 物語の導入としてセオリーであるあの!」

「山田ぁ、意味不明な事言ってんなだし!」

「何か知ってるなら何とかしろだし!」


 しかし、クラスの雑学少年は、うろたえているままだった。


 知識があるだけで、対処法などは分からないようだった。


 クラスの中は混乱に陥っている。


 生徒達は教室の外に出ようとするが、足がすくわれてしまうため、移動がままならない。


 気づけば、床が音を立てて振動していたからだ。


「きゃっ」


 十話子も、足元をすくわれて、倒れてしまう。


 教室で光魔方陣。この光景がなければ、誰もが普通の地震だと思っただろう。


 だが、魔法陣の出現と同時に揺れだしたので、どう考えても普通の地震ではなかった。


 揺れは激しくなるばかりで、建物がきしむような音がした。


 十話子は崩落を危険視して、壁や天井を見つめるが、ひび割れなどはできていない。


 そのかわり、十話子が見ている景色の中に不自然なヒビが入っていった。


 上下左右、材質も何も関係なく大きくなっていくヒビは、ガラスが砕けるように見えた。


 まるでそれは、景色を一枚の絵にしてから破ったかのようなヒビだった。


 そこで十話子は、


 一際大きな声で騒いでいる存在に気づいた。


 それは、オカルトが苦手な少女だ。


 この教室の生徒ではない少女。

 年齢も学年も一つ下だった。


 染めたオレンジ色の髪はたくさんの人の中でもよく目立った。

 あどけない顔つきの少女は、本来の年齢よりもさらに年下に見える。


 彼女は悲鳴を上げながら、兄の袖にしがみついている。


「おおおお、お兄様っ! 何なんですのこれは!」

「おちつけ、ホノカ。俺にもぶっちゃけよく分からんが」

「それじゃ、落ち着けませんわよっ!」


 兄の方も、比較的よく目立つ容姿だった。


 カガリという名前の少年は、染めた金の髪色で、金属類のアクセサリを身に着けていたからだ。


 妹にしがみつかれている兄カガリは、その妹を引きずって廊下に出ようとした。


 だが、揺れでままならない。二人とも床に倒れこんでしまう。


 十話子が次に目にしたのは、中庭で見たクラスメイトだ。


 少年は、技術室での作業を終えて、教室に戻っていた。


 教室の入り口近くで、尻餅をついている少女を助け起こしているところだった。


「大丈夫?」

「えっ? はっ、はい」


 助けられた少女の名前はネズ。


 おさげで地味な容姿の少女だが、地元のニュースで人助けをした事で、地域新聞に載った事があった。


 ネズは、ほんのりと頬を赤く染めて、自らを助け起こした少年を見つめていた。


 教室のあちこちでそれぞれが行動を起こしている中、魔法陣の光は徐々に強くなっていく。


 そこでようやく十話子は、危機感のようなものが働いた。


 教室の外に避難しようと考えたが、時すでに遅かった。


 目に見えない力の塊のようなものが、十話子にぶつかってくる。


 説明しがたい何らかの衝撃を受けて、十話子は気を失った。


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