第1話 十話子
目線「
他の人間より赤みをおびた髪の毛を持つ少女がいた。
その少女の名前は
十話子は、他の人間との間に、うっすらとした線があるのを感じていた。
十話子の見た目は、日本人の平均の容姿からかけ離れている。
髪の毛は例も通りで、鼻は高く、身長も平均よりやや高い。
小麦色の肌に薄茶色の瞳は、十話子を日本の学校の風景にうまくなじめていないような気にさせた。
新しい学校に通うたび、クラスが変わるたびに、人から「外国の人みたい」と言われる。十話子はそれを、気にしないわけにはいかなかった。
「私自身は皆とどこも変わらないのに」
十話子は幼い人生の中で、定期的に訪れる変化に面しては、たびたび憂鬱になった。
そんな十話子の趣味は読書だ。
一人で静かに本を読みながら、空想の世界にひたるのが好きだった。
人と接することが億劫になってしまった十話子にとって読書は、人生に潤いをもたらす貴重なものだった。
好みは軽い文芸で、流行りの小説やライトノベルなどは目を通さない。
クラスの者達からは、読書が好きな文芸少女だと思われていた。
それで困る事はなかったため、十話子は訂正しなかった。
むしろすすんでそれを受け入れていた。
その方が、他社との間に開いた距離を正当化できたからだ。
「今日は何の本を読もうかな」
だからその日も彼女は、図書室に行こうと考えていたのだ。
しかし、放課になる少し前に、教師が「すまん言い忘れてた」と、その事柄を口にした。
「図書室は今、大規模な整理中だから、間違っていかないようにな」
目線「十話子」 場所「中学校 中庭」
がっかりした十話子は、仕方なしに中庭へ向かった。
彼女の通っている学校には、開放的な中庭があった。
ベンチもいくつかあるので、時間を潰すのには丁度良い場所だった。
そこは十話子にとって、図書室が利用できない時の、二番目の候補地だった。
色とりどりの花々が咲き乱れる中庭には、優しい光が差し込んでいた。
季節は春の終わり頃。
おだやかな陽気が示すのは、これ以上ないくらいの過ごしやすい環境だった。
そんな中庭のベンチに腰掛け、自宅から持ってきた弁当を広げる。
小さな四角い弁当箱につめられていたのは、どれも定番の品物ばかり。
ふりかけのかかったご飯と、おかずのたまご、ミートボール、ウインナー。
どれも十話子の母親が、手作りしてくれたものだ。
親の労力に感謝しながら十話子が箸をつけていると、中庭に誰かがやってきた。
それは、同じクラスの男子生徒だった。
花の匂いにつられてか、その周囲を蝶々がとびかっていた。
その少年は穏やかに微笑んで、指でつまんでいたものを宙に放つ。
黄色いチョウチョだった。
教室に迷い込んでたのを、助けてあげたのだろうか。
十話子は、彼の服に木くずがついているのに気づいた。
少年は技術室の管理係だったと思い出した。
次の授業は、技術の授業で木材を組み立てるものだった。
だから、授業の用意をしていたのだろう。
十話子は、ひそかにそんな少年の事を気に言っていた。
少年がまとう物静かな雰囲気が、見る者を安心させるような気がしたのだ。
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