第20話 吉村さんとぼくだけでは、もったいないよ。

「しかし、どうでしょう。あのまま嘱託として惰性とは言わないまでもだらだらと続けるよりも、今されている紙芝居の講座や慰問活動のように、必要とされるところに出向いて、山上先生の御経験が生かせる形へとシフトできた上に、私生活でもお孫さんの世話をしっかりできるようになったことで、いい意味でリフレッシュできているなら、そのほうが、むしろ良かったと言えるのかもしれませんね」


 しばし沈黙が続いた後、大宮氏が山上元保母の現状を総括してみせた。


「そう言われてみれば、時代に合わないと言われるような場所にいつまでもしがみつくよりも、必要とされる人たちのところに出向いてできることをしている今の母のほうが、実際、生き生きしていますね。世代のギャップに悩みながらよつ葉園で保母を続けるよりも、はるかにいい状況だって思います」


 保母としての山上敬子を母に持ち、そのもとで生まれ育った娘が述べる。

 それに続き、彼女の夫もまた、娘婿としての意見を述べた。


 実は、義母が大槻さんから退職を勧奨された日、偶然にもぼくは用事があって有休をとっていて、仕事に行っていませんでした。

 家に帰ってきた義母から、大槻園長に定年で退職するよう求められて、結果的に定年退職届という書類に署名捺印したと聞いて、ああ、来る時が来たのかと、そう思いましてね、ぼくは、言いました。

「おばちゃん、もう潮時じゃ。これで、よかったと思うよ」

 義母は、すでに淡々とした表情になっていました。

「やっと、これで私も、帰るべき「家」に帰れることになったみたいね」

「ぼくも、そう思う。吉村先生も、そう思っておられるのでは?」

「実は、今日帰り際に、吉村先生から言われたのよ。山上先生、これでようやく、先生がお帰りになるべきおうちに帰ることができますね、って」

「吉村先生にお会いしたことないけど、ぼくと吉村さんの意見がまさかまさかで、ズバリ一致するとは、なぁ・・・」

 義母は、少し改まって、こんなことを言って来ました。

「この2年間、特に正義君と吉村先生と色々話してきた。多少表現などが違うこともあったけど、二人とも、同じような意見に至ることが多かった。私が保母として勤めて約40年間の集大成を、こうして若い人に伝えられたから、もう悔いはありませんよ」


 しかし、ここで終わりというのも、それはそれで、何かと思いましてね。

「それはいいけど、よつ葉園を辞めて落ち着いたら、おばちゃんがこれまで保母としてやってきたことを生かせる活動を何か始めたら、どうかな? 吉村さんとぼくだけに話して終りというのも、なんかもったいない気がするけどなあ・・・」


 その場では特に具体的な話にはなりませんでしたが、退職して半年過ぎた頃、知合いの公民館の館長さんからお声がかかって、紙芝居をするようになりました。

 そこから、慰問の話も来て実際出向いております。

 何より、紙芝居の合間に披露させていただいている、保母時代のよつ葉園の子どもたちのエピソードを、楽しみに聞きに来られる人もいらっしゃいますからね。

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