雨・母・コンロ
昼頃起きると、今日も雪だった。
暦の上では春に入って暫く経つが、寒気はそんなの知ったこっちゃないらしい。
幸いにして、大学もバイトも今日はオフ。
わざわざ出かけるのもアホくさい。一日引きこもろう。
朝昼兼用のゼリー飲料を飲み込んで、ベッドに戻る。
布団にくるまってしばらくソシャゲのイベント周回してたら、インターホンが鳴った。
「お届け物でーす」
そういえば、母さんがいろいろ送ったって言ってたか。
居留守で再配達になるのは罪悪感がひどいので、かすかすの声で「はぁ……い」と返してから、なんとかベッドから這い出して受け取った。
予想通り、母さんからの補給物資だった。
開けると、大量の一人鍋用具材セットと、短い手紙が入っていた。
「ちゃんとしたもの食べなさい!寝る時は暖かくすること!」
チャットで言えばいいのに、古風なことするなぁ……。まあ母さんはそういう人だ。
せっかく送ってもらったからには、今夜は鍋だな。
その後もしばらくスマホをいじって過ごしていた。
日が沈む頃になるとさすがに腹が減ってきたので、鍋の準備に取り掛かる。
鍋とコンロを出してきて、ガスのカセットを入れる。
この鍋とコンロも、秋ごろに母さんが送ってきたものだ。
鍋に具材と付属の調味料をぶちこんで、指定された量の水を入れれば、あとは火をつけて煮えるのを待つだけでいい。
こうでもしないと俺がまともなものを食べないことは、母さんにはお見通しらしい。
煮えるのを待つ間、どうにも手持ち無沙汰になった。
「具材セットありがと。今温めてる」
鍋の写真つきで母さんにメッセージを送った。既読は一瞬で付いた。
一呼吸おいて、よくわからない猫のキャラがイイネ!してるスタンプが返ってきた。
ほら、こういう人だ。
鍋がぐつぐつ言い出した。慌てて火を弱める。
蓋を取る。美味しそうな出汁の匂いが部屋に広がった。
「いただきます」
軽く手を合わせて、俺はメインの肉に箸を伸ばした。
母さんが選んだだけあって、味は文句のつけようがなかった。
鍋はすぐに空になった。
コンロの火を止めて、一息つく。
量はちょっと物足りなかったけど、腹八分目とも言うし、本当はこれくらいが適量なのか?もしかして母さんは食べ過ぎ防止まで考えていたんだろうか。
後片付けの前に外の空気が吸いたくなって、ベランダに出た。
昼から降っていた雪は、雨に変わっていた。春は、意外と近いのかもしれない。
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