つる草・神・積み木

アサガオのプランター、体操服、美術セット、算数セット、どっさり出された夏休みの宿題、その他持って帰らないといけない諸々。

終業式が終わった後、僕は途方に暮れていた。

なんでちょっと前から少しずつ持って帰らなかったんだ。

と、今になって後悔しても遅い。

どうにかして、これ全部持って帰らないといけないんだ。

まず、ランドセルに入るものは入るだけ入れた。教科書、ノート、宿題、算数セット、筆箱、リコーダー。全部無理やりぎゅうぎゅうに押し込んだ。

担いでみる。ランドセルだけでも、絶対にこれまでで一番重い。

体操服袋はいつもやっているようにランドセルに引っ掛けた。

水筒は首から下げる。

さて、残りはアサガオと美術セットだけど……。

アサガオは、絶対両手で持たないと危ないと思う。

美術セットの持ち手になんとか腕を通して、プランターを両手でしっかり持つ。


重い。重いけど、なんとか全部持てた。

左右で重さが違うから体があっちこっちに引っ張られる。

ちょっとでも押されたりしたら、ジェンガか積み木みたいに、全部ひっくり返して転んでしまいそうだ。


一歩一歩、慎重に、慎重に歩く。

天気がいい。日差しが強い。汗だくになる。だけど両手がふさがってるから水筒のお水が飲めない。頭がくらくらする。どこかで休まないと。


いつも近道にしている神社まで、なんとかたどり着いた。

学校よりも背の高い大きな欅があって、境内全体が木陰になっているお陰で、道路に比べればすこし涼しい。

平らなところにアサガオと美術セットを置いて、腰を下ろす。

水筒を開けて、一気に水を飲む。

ごくごくごく。ごくごくごく。

しっかり冷たいままのお水がおいしくて、全部飲んでしまった。

頭がくらくらするのはだいぶ収まったけれど、すっかり疲れてしまっていて、どうしても立ち上がる気にならなかった。


どこかでセミが鳴いている。

欅の葉っぱが、上の方でざわざわ言っている。

アサガオの葉っぱがゆらゆら揺れた。

ずっとここに座っていたかった。


気づけば、空は赤くなっていた。

少し眠っていたらしかった。

疲れはすっかり取れていた。

そろそろ帰らなきゃ。

アサガオと美術セットを持って、僕は早足で歩き始めた。


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