幕間・お布団の中で……。

 これはまだ学校が始まる前。1日1回キスをすると決めてから、四日目にあったことだ。


×


 昼下がり、何故だかどうしても眠くなる時間がある。

 何度も理由を調べている気がするけど、絶対に覚えないと言うことは大したことがないということだ。

 ともかく、15時を回って私の眠気は限界を迎えたため、勉強机から離れ、引き寄せられるようにベッドへ。

 夜中に入る時よりも、朝方抜け出す時よりも数倍心地良く感じる。

 夜はなかなか寝付けないくせに。こんなんで大人になったとき大丈夫なんだろうか。社会に出たら治るのか。漠然と意味もないことを逡巡しながら、瞬きと共に眠りへ落ちた。


×


 暑い。

 なんだか覚えるのあるその温度で目が覚めた時、既に日は暮れていて、部屋の中も真っ暗。それでも、私の他にもう一人、この空間にいることをすぐに察知した。

 嗅ぎ慣れたシャンプーの香り。深い寝息。無意識に絡めてくる足。

 同じベッドの上に、同じ布団の中に、久穏がいる。

 狭いシングルベッドから落ちないようになのか密着してくるせいで、汗ばむ程に暑い。だのに布団を持ち上げると流れ込んでくる冷気で寒くて、結局頭まですっぽりと被ってしまった。暖かいけれど、きっとすぐに苦しくなる。

 それからどうしようかと悩みながら、闇に慣れてきた瞳で久穏の瞼を眺めていると、一瞬ピクンと動いてから、徐々に持ち上げられていく。

「……ひかり?」

「なぁに?」

「…………勉強すゆって言ってたのに、耀、寝てた」

「つい、ね。ごめん」

 普段のキレのある口調ではなく、舌っ足らずな物言いが幼さを醸し出していて……可愛い。

 何気なく髪を撫でると、眠たそうにしながら彼女も手を伸ばし、私の頬に添えた。

 久穏の瞳はとろんと寝惚けていて、現実と微睡まどろみの間にいる。

「不思議」

「なにが?」

「いつもと変わらない距離なのに、布団の中にいるだけで、いつもより耀を、ずっと近くに感じる」

「……」

 私が思っていたことをそのまま言われて驚いていると、その隙に彼女の頭が微かに動いて——

「「っ」」

 ——あっという間に、唇を奪われる。

「「……」」

 途端に跳ね上がる心音も、荒くなる呼吸音も聞かれたくなくて、私は慌てて寝返りを打った。

「おやすみ、耀」

 私の背中に額をくっつけて久穏は言う。さらにおずおずと伸びてきた左手が私の左手に重なって、軽く握られた。

 ——前までなら、別にどうってことなかった。泊まる時はいつも一緒のベッドで寝てるし、寝る時に体を寄せてくるのも久穏の癖だと知っている。

 つまりは慣れたこと、なのに。なのに、どうしてだろう。

 今は触れてる箇所全部が熱くて、どうしようもなく、意識してしまって。

 感覚がどんどん鋭くなる。眠気はどんどん覚めていく。

 動きたいけど、動きたくない。暑苦しいのに、どこか心地良い。

 ゴールのない逡巡を繰り返していると、親から夕食の声をかけられ、ようやく私は布団を蹴り上げ、久穏から離れて深呼吸をする。

「おはよう耀。よく眠れた?」

 久穏は瞼を擦りながら、小さく笑ってそう言った。彼女も暑苦しかったんだろう、赤く染まった頬や耳、そして白い首筋に纏わりついた黒髪が妙になまめかしくて、情けないくらいに、瞳が泳いで——

「まあね。いこ、ご飯冷めちゃう」

 ——私は再び久穏に背を向けて、早足でリビングへ向かった。

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