第4話
朝の日の出と共に翔矢は目を覚ます。大きな欠伸をし、布団から出て大きく背伸びをして身体を伸ばす。
「……朝か」
そのまま自宅の二階にある自室から出て一階の茶の間に降りる。そこで翔矢は違和感を覚えたが直ぐに納得した。
「かあさんは修練場か」
翔矢の義母である茨木童子はいつもは翔矢より早く起床し茶の間でお茶を飲んでいる。翔矢はそんな茨木童子がいないのに不思議に思ったが昨日、紅刃が茨木童子の酒を盗ったから今頃修行という名のイジメを受けて居るのだろう。
「見に行くか」
そんな事をポツリと零しながら翔矢は朝支度を整える。
朝の支度を粗方終えた翔矢は銀日に声を掛けた。
「銀日、朝飯頼むー」
「ホー」
翔矢の呼び掛けに答える様に銀日はひと鳴きして出掛ける翔矢を見送った。
そして家から出た翔矢は羅城門の中心地にある修練場、またの名を喧嘩場に足を進める。
しかし、家から修練場まではおよそ5キロメートルにも及ぶ距離がある。馬鹿正直に歩いて行けば時間がかかりすぎる。
だが、翔矢は純粋な人ではなく妖怪との混血だ。混血と言ってもなんの妖怪との混血は翔矢自身も知らない。しかし、翔矢の義母曰く『鬼に近い匂いはするが何かわからんな』との事なので鬼種に近い種族ではあるのだろう。
それ故かは分からないが翔矢のパワーは並の鬼達を凌駕する。まぁ、義母である茨木童子には全く敵わないのだが。
「ふっ!」
その類まれなる力と翔矢の体術の師匠による体の効率的な動かし方を学んだ翔矢は瞬く間にその場から消え失せ上空を飛んでいた。自身に吹き付ける風を霊力で遮断しながら突き進む。そのまま跳躍からの着地の瞬間再び大地を蹴って再加速し飛ぶ。
そんな事を繰り返しながら突き進めばあっという間に修練場に着いた。
「よっと、と。……凄い音したな」
修練場から響く破砕音に紅刃生きてるかな?なんて考えながら修練場に翔矢は足を踏み入れる。
「そこだーー!」
「やれーー!」
「ぶっ飛ばせーー!」
修練場ではそこかしこから鬼達からのヤジが飛んでいた。その矛先は。
「ギニャーーーー!?」
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!?」
身体中に傷を作りながら転がる紅刃とボロボロで空中を舞う鬼一だった。
「……エロジジィもそう言えば飲んでたな」
そして
「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇ!!」
その二人を容赦なく追撃する人物は黒髪の短髪に赤い瞳、頭から突き出す黒い二本の角、動きやすいように改造された和服を来ている。その女性こそ翔矢の義母にして鬼達の纏め役、茨木童子である。
「ギャァァァァア!?」
「グワァァァァ!?」
吹き飛ばされていた二人の近くに茨木童子の拳が突き刺さり再び二人は宙を舞った。
「翔矢様」
「ん?」
そんな状況を苦笑いしながら見ていた翔矢に話し掛ける人物がいた。黒髪に三白眼の黒目、山伏が着るような服を着て、背中には雀の翼を付けた女性。
「夜霧さん」
茨木童子の式神である、妖怪夜雀の夜霧であった。
「おはようございます」
「おはよう」
丁寧に挨拶をしてくる夜霧に対して翔矢も挨拶を返す。
夜霧は茨城童子の式神だ。茨木童子に仕えている。
「茨木様が後でお話があるそうです」
夜霧の言葉に翔矢は焦る。
―――許されてなかった
昨日の酒飲みはお前もと言う事だ。このままではいまも修練場をボロボロになりながら転がっている二人に翔矢も加わると言う事だ。
このままではまずいと感じた翔矢は修練場の観客席の最前列まで歩いていく。
「かあさーーん!!」
大きな声で翔矢は義母である茨木童子を呼ぶ。
それに反応して茨木童子は動きを止めて翔矢の方を向く。
その顔はまさに般若。普段の飄々とした茨木童子とはかけ離れたその顔に翔矢は肝を冷やす。
「翔矢かぁ?丁度いいお前も来い」
それは死刑宣告。
やはり、鬼から酒を盗るという行為は命懸けだな。なんて他人行儀の事を考えながらも翔矢はこの地獄に放り込まれないように立ち回る。
「深海酒、5本」
その発言に茨木童子は表情を一変させる。今までの恐ろしい顔はどこえやら、笑顔を浮かべる。
「よし。お前は良いぞ」
翔矢はその発言にほっとする。だが財布が痛い。深海酒は一本200万もする高級酒を5本もだ貯金からもお金が飛ぶだろう。
懐が寒くなる。だが命には変えられない。
「翔矢、た、助け……」
助けを求める紅刃に翔矢はいい笑顔と共にサムズアップする。翔矢の財力では紅刃まで助ける事は出来ないのだ。
そして翔矢は近くの席について観戦する。
「は、薄情者ぉぉぉぉ!!カヒュッ――」
紅刃は翔矢に恨み言を吐くと同時に茨木童子に蹴り飛ばされ空を舞った。
それを見て翔矢はやはり無断で物を取るのは良くないなと思った。
「わ、ワシの秘蔵酒の翡翠でどうじゃ!?」
鬼一は翔矢が酒で許された為かそれを真似ようと酒を渡すと言ったが。
「蒼氷、獅子殺し、ロゼット」
「さ、流石に勘弁して――」
「なら、死ねぇ!!」
「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!?」
茨木童子は更に高級な酒を要求しそれを鬼一が断るや否や。その拳を鬼一の顔面にめり込ませた。
鬼の前で酒を渋るなど自殺行為である。南無三
退魔組合の混血 エドアルド @zazaba
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