第3話
「ところでよ、何の依頼行ってきたんだ?」
酒を飲んでいると紅刃がそう問い掛けてきた。
「俺か?青鷺火の狩猟。鐘時さんところの店に出すやつ」
「おっ、マジか。明日は
紅刃は嬉しそうにそう言う。青鷺火は裏の世界では希少食材の一つだ。
と言うのも妖怪の生まれというのは怨念であったり物に魂が宿ったりとその生まれ方は様々であり、青鷺火も普通の鳥のように繁殖等で増えるのでは無くいつの間にか生まれているという感じなのだ。
それに青鷺火は美味いし。
鐘鳴亭も裏の世界では随一の料理屋だ。翔矢も贔屓にしている。
「紅刃はどうなんだ。何やってきたんだ?」
「あたしか?あたしは狒々の討伐だな。アイツらうざいったらありゃしねぇ!」
そう言いながら紅刃は顔を顰める。
狒々は老いた猿がなる妖怪だ。特徴としては人程の大きさから2メートルを越える体調の人喰い猿だ。基本は単独行動だが元は猿、偶に群れで動く奴らもいる。
紅刃の話しからしてその群れに当たったのだろう。なんとも運が無い事だ。
「たかが猿の癖して常にイキってこっちをおょくってきやがる」
「あー、確かにな。アイツら知能は高いけど性格がドブみたいだしな」
狒々達は猿の頃から比べれば強くはなっている。それこそ一般人なら簡単に殺せるぐらいには。
だが所詮は妖怪化した猿である。鬼である紅刃には遠く及ばない。退魔組合の人間でも負けるものは少ないだろう。
しかし、狒々は嫌われている。その理由が性格だ。
狒々は自分達が神だ!とでも言わんばかりの横暴さと傲慢さを兼ね備えている。その思考から出てくるのは他者を見下すような暴言やおちょくり。しかもしつこいと来た、嫌われない理由が無い。
しかも、自分より格上であろう存在、天狗や鬼、九尾、神であろうと関係無しに手を出すおバカだ。
裏の世界では知性を得た猿(笑)と呼ばれている。猿系の妖怪からは猿妖怪の面汚し呼ばわりである。
「思い出したらイライラして来た!」
そう言って紅刃は勢い良く酒を呷った。
「やっぱり、嫌な事があったら酒に限るな!」
「お前ら鬼種は何があっても酒だろうが」
「違いないな!アッハハハハ!!」
紅刃は豪快に笑う。
そんな翔矢達に話しかける人物が一人。
「楽しそうじゃないか」
その知った声に二人揃って顔を向けるとそこには笑顔を浮かべた初老の男性が立っていた。ただ背中には黒い羽根が生えている。
「おう、ジジイ」
「どうもエロジジイ」
「お主らのワシへのその認識なんなんじゃ?」
そう言いながらも初老の男性、烏天狗の鬼一法眼は翔矢達の酒飲みに混ざる。
「いや、今までの貴方の行動を振り返ってくださいよ」
「お前にはジジイで十分だろ」
「わしのガラスのハートに傷が――」
鬼一は胸に手を当ててわざとらしい仕草をするが。
「義経さん」
「正直すまんかったと思う」
翔矢が人名を出した瞬間その仕草を辞めて真面目な顔になる。鬼一にとっては苦い記憶なのだろう。
こんなのでも実力は高く憧れる奴らも多いのだがその実態を知ると途端に尊敬から軽蔑の眼差しへと変わる。
「それならこの体を元に戻してくださいよ。ねぇ、師匠?」
その声に鬼一の体がビクついて汗を流す。
「……ムリです。すいません」
「ちっ!」
鬼一の答えに舌打ちをするのは女性。ベリーショートの黒髪に和服を来ていた。腰には車太刀と呼ばれている反りのある短めの刀を下げている。
「こんばんは、義経さん」
「よう!義経」
「二人ともこんばんは」
彼女は義経記で有名な源義経だ。彼女は本来男であり更に既に死亡している。
ならなぜ生きていてなおかつ女性になっているのか。それにはもちろん理由がある。それが鬼一の仕業である。
彼、鬼一は義経の死の間際、義経を回収しその体を治した。その理由は『弟子にもっと長生きして欲しかった』と語っている。
ここまでは美談で終わるだろう。しかし、鬼一はここでやらかした義経を治療する際に傷を治すだけでは助からないという事で妖怪の力を与えられ義経は半妖になった。そして女性になった。この事にたいして鬼一は『すまん!いやぁ、わしの邪念が少し混じってしまったようじゃ。昔から男にしとくには勿体ないと思ってたせいかのぅ』
この後一命を取り留めそれを聞いた義経は鬼一をズタボロにした後一年ほど部屋に閉じこもった。
これには流石に名高き鞍山の大天狗である鬼一と言えど仲間の天狗からも軽蔑の視線を向けられた。
この時から鬼一の評価は妖怪としての格は高く戦闘はできるがエロ烏である。という烙印を押された。
哀れなり鬼一法眼。これが名高き天狗にして僧侶の姿なのか。
「私も混ざって良いかな?」
「どうぞ」
「人が居た方が楽しいからな!」
翔矢と紅刃は快く義経を迎える。
そのまま四人は酒を飲みながら話に花を咲かせた。
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