第5話

 彼を見た最後の日。

 わたしと小鳥の間を空けた彼は、親方にこう言った。


「親方、あの……できれば、僕の作品をここに置いてはもらえないでしょうか?

この子を見ていたら、何だか寂しそうで。そう思ったらうずうずして。時間はかかりましたが、この子の相棒を作ったんです。売り物なんで、変な話ですけど」


 そうして彼の鞄から取り出されたのが、今やわたしの隣人となったカラクリ人形である。


 まるで、彼の分身のような人形。


「え? あ、ああ。別に構わないが。でも、いいのか? その女の子の人形を持って行って、自分の店で並べた方が良くないか?」


 親方の申し出に、彼は首を振った。

一縷の望みも砕かれたような気がして、わたしの心は沈み込んだ。


「ここに置いてください。だって、この子には……このお店が似合うから」


 彼の言う台詞にどういう意味があるのか、わからなかった。

 ただ、選ばれなかったこと、そして、これで本当にお別れなのだということは理解した。


 最後に、彼がドアを跨ぐとき、一度だけ立ち止まった。

 そして、わたしとその隣に座る彼お手製のカラクリ人形の方へ振り返り、ふっと表情を緩めた。

 でもそれは一瞬で、すぐに自信に満ちた顔つきになり、まっすぐ前に向き直ると、外の世界へと旅立った。


 ドアが閉まるとき、カランカランとベルが鳴った。


 彼の門出を祝うように。

 彼との別れを惜しむように。


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