第3話 東京に向かう 関東支部

 安住登也と明美、正男、美登里の四人は東京に向かっていた。途中、名古屋駅で乗ってきた男女の二人組が正男たちと通路を挟んで隣の席に座った。他にも乗客は大勢いたが、なぜ、その二人に目を奪われたかというと女性の服装だった。年齢は二十代後半ぐらいで、安住と明美ぐらいに見えたが、女性は黒のジーンズに黒のセーター黒いマフラーを首に巻いて、黒の毛皮のコート。そして黒いニットの帽子をかぶっていた。つまり、黒づくめなのである。

 一方、男性の方は濃いグレーのセーターに黒のダウンジャケット。それにジーンズという出で立ちで、特に違和感はなかった。

 とにかく女性の黒づくめと、美しいのが印象的だった。


 その二人は何か仲良く話していたが、女性の方にLINEか何かが入ってきたのだろうか、小物入れからスマホを取り出した。

「あ、LINEが来た……え! 九州に行くって……」

「ええ? 今から?」

「いや、ちょっと連絡してみる」

女性は客室から出て行った。


 安住から東京に着いてからのスケジュールをもう一度聞かされた。関東支部は東京の品川にあるそうで、ホテルも品川に取ってあるということだった。

 今日の予定としては品川駅に着くのが昼頃なので、品川駅周辺で昼食を取ってから関東支部会館に向かう。品川に着く時間は昼頃で、まだチェックインの時間まで少しあるということだ。関東支部での今日の話は、それほど時間がかからないだろうから、一旦、ホテルに帰ってチェックインし、その後、晩ご飯にしようということだった。

 一通り予定を告げると安住は、また手帳を広げ、メモをしたり何かを確認していた。明美は本を読んでいた。美登里も本を読んでいる。美登里が読んでいる本はホラー小説のようだ。黒っぽい表紙に『〇〇島』と書いてあるのが見える。ホラー小説以外の何ものでもない。黒っぽい表紙に『〇〇島』という恋愛小説はあまりないだろう。

 美登里は見た目もかわいく性格もすごくいいが、なぜ……これほどオカルト趣味、ホラー趣味なんだろうと思う。


 隣の席の女性が帰ってきた。

「明日、九州に行くって」

「え、そしたら今日一日で用事を済ませる感じか……」

「……」

「え、まさか、おれたちも九州に行くの?」

「かもね」

「……いやいやいや……いやいや、違うだろう。今、名古屋から東京に向かってるんだよ。それだったら明日九州で落ち合うとかでよかったんじゃない?」

「だよね」

「タイミング悪すぎでしょ」


 なんか大変なことになっているようだが、正男たちには関係なかった。隣を見ると美登里がひざに本を置いて眠っていた。本が落ちたらいけないと思い、ひざの上の本に手を伸ばす……

ふと、美登里が目を覚ます。

「……エッチ。ひざ触ろうとした」

「ちがうよ」

「嘘よ……ありがとう。本なおしとくね」

京都弁で『しまう』は『なおす』である。美登里は微笑んで、本を手提てさげバッグに入れ、また目を閉じ眠ってしまった。安住も明美も眠っている。


 何気なく先程の二人の方を見ると、こちらも男性の方は文句を言っていたが、眠ってしまったようだ。

 女性は外の景色を見ている。その姿が何か映画のワンシーンでも見ているかのように美しく絵になっている。

 線の細い、その女性は色白で、黒いロングのストレートの髪が綺麗だった。『ファッションモデルのような女性だなあ』と思って見とれていた。

 女性がこっちの視線に気づいたのか、ふと正男の方に振り向いた。目が合うと、『?』というような表情で、少し首をかしげて、正男に視線を送る。

 あせって首を振る正男。心臓がドキッとしたのがわかった。それを見て女性は微笑んだ。

 そして、彼女は、また外に視線を向けたかと思うと、ニット帽を目深まぶかにかぶり眠ってしまった。


 東海道新幹線は途中大きな町もいくつか通るが、田んぼや畑、山の中という風景の中を走っていく。『新横浜駅』に近づく辺りから都会を感じる風景に変わってくる。町の大きさというよりも、建物が線路の近くに迫ってくる感じが、ここまでの風景と違う。

 そして『新横浜駅』から『品川駅』に向かうと高層な建物が増え、そうでない建物も線路に迫ってくるように建っている、更に建物の密度が違う感じがする。『品川駅』から見える風景は……山手線から見える、その風景だ。

 正男たちが降りる準備をしようとして、ふと隣を見ると、既に隣に座っていた二人の姿はなかった。もう出口付近に行ってしまったようだ。

 品川駅に着いた。



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