第2話

 生配信され、俺達の生活を世界中の人間に視聴される。


 そして一ヶ月後に行われるアンケートにより、視聴者の心を掴んだ者こそが生き残れるというわけか。


(うん、無理だな)


 俺は自分の死期を察した。


 だって無理じゃね?


 まず前提として俺男なんだぜ?


 魅力的な女の子を決める大会に、男の俺が勝ち抜けるはずがない。


 例え男だとバレなかったとしても、喋らずに人気集めろなんて無理な話だ。


 結論


(俺、死んだ!!)


「大丈夫ですか?」


 涙を流す俺にハンカチを渡してくれる天使こと、美咲ちゃん。


 君はまるで荒野に咲く一輪の花のようだよ。


 俺の辞世の句が決まった瞬間であった。


 それにしても……


「えっと……デスゲームなのにどうしてフォローしてくれるのか……ですか?」


 超能力者かな?


「正直に言うと……あまり良くない気持ちも含まれています」

「……」

「生き残る為には、より好意的な印象を与える必要があるます。ですので、私のこの行為はいわば偽善と呼ばれる行動として捉えて下さい」


 そう……だよな。


 今この場で大事なことは、どれだけ自分が素晴らしい人間であるかを画面の向こう側に伝えることとなる。


 確かに表立って相手を蹴落とすといった行為は今後現れないだろう。


 だが、それ以上に恐ろしいことも生まれる。


(他人の好意が全て偽物に見えちまう)


 より深く心に刻む。


 俺は正真正銘、デスゲームに参加させられたのだと。


 騙し、騙され、自分の持てる全てを使って生き残り、殺す。


 胸が苦しくなる。


 俺はまだ死にたくない。


 だからこそ、俺は他の連中を殺してでも、生き残らねばならない。


 俺が男だろうと、何の才能も無かろうと、関係ない。


 人を殺す覚悟はもうできた。


「葵さん?」

「……」


 いや、嘘だ。


 俺はそんな大層な人間じゃない。


 自分が生きる為に他人を殺すなんて選択が出来るほど……俺は人生に楽しみを得ていない。


 女装してる瞬間は楽しかった。


 あの時だけは、まるで今までの自分と違うようなそんな気分になれたから。


 でも、逆を言えば俺は普段の生活に嫌気がさしていた。


 多分俺は……変わりたかったんだと思う。


 何もない俺が、何かを得たかった為に作り出した新しい自分。


 だけどそれはただの逃げだ。


 別に女装したところで俺は変わらない。


 変わったのは姿だけだ。


 結局俺は何も持たず、何も生み出せず、ただ淡々と生きていくだけの人生を歩む。


 そんな俺が生き残る必要などあるのだろうか?


「……」

「な、なんでしょう?」


 この子は多分……俺とは違う。


 最初から俺に優しく接し、あまつさえ彼女は人に優しくすることは自分の為と言い出したのだ。


 笑えるね。


 そんなこと言えば、この善意が偽物だと世界中に言い放ってるようなものだ。


 そんなデメリットをわざわざ背負う理由は二つ。


 一つは死ぬ気なこと。


 これは絶対にあり得ない。


 彼女は生き残ると今でもその瞳が訴えかけてくる。


 何かを叶えたいと願う意志が、何の願いのない俺だからこそ分かる。


 じゃあ何か。


 そう、答えは簡単。


 超のつくほどのお人好し。


 生きたいのに見捨てられない。


 そんな矛盾というか、人間らしさを彼女は持っているのだ。


 そんな子は、デスゲームにあまりに似つかわしくない。


 似つかわしくないのなら


「あの……どうしたんですか?」


 俺は美咲ちゃんをジッと見つめる。


「……」

「何でもない?ならいいんですけど……」


 俺は誓う。


(この子を絶対、生き残させてやる)


 こうして、葵の命をかけたデスゲームが始まった。


 ちなみに、これから何度も使う言葉を言っておこう。


 これは、ただのアイドル選抜である。


 ◇◆◇◆


「私は成瀬美咲という名前です!!今年で15になりました!!趣味は歌うこと、特技は踊ることです。これからよろしくお願いします!!」


 自己紹介が始まった。


『とりあえず、お互いの名前くらいは覚えておきませんか?』


 という美咲ちゃんの素晴らしい発想によって始まった。


 思わず拍手する俺だが、周りからはどこか冷たい目線だけが返ってきた。


(な、なんか空気悪くね?)


 だけど当の本人である美咲ちゃんは気にしていない様子。


 じゃあ…いいのかな?


 それにしても苗字、成瀬っていうんだ。


 一応心の中で美咲ちゃんなんて軽々しく言ってるけど、成瀬さんとかにした方がいいのかな?


 いや、気にする方が気持ち悪いな。


 変わらず美咲ちゃんでいこう。


「それでは次はわたくしの番ですわね!!」


 ここでお嬢様(仮称)が我先にと前に出る。


「わたくしの名前は宮本アイリーン。お母様が米、お父様がジャパンのハーフですわ!!」


 おお!!


 ということはあの髪は地毛ってことか。


 すげぇ、リアルに金髪の人初めてみた。


 後で写真撮らせてもらお。


「次に移る前に、わたくし宣言させてもらいますの」


 宣言?


 アイリーンさんは自信満々に


「ここで生き残るのはわたくしアイリーンのみ。どうせこの一ヶ月を過ぎたところで、あなた達に希望はありませんの。だからさっさと諦めることを提案致しますわ」


 丁寧な言葉遣い(?)とは裏腹に、完全な挑発行為をするアイリーンさん。


 でも俺としてはこの子バカなんじゃないかと思う。


(だってデスゲームを諦めるって=死だろ?)


 そんなことする人間なんているはずがない(どの口が言う)。


 どうやら頭弱々っぽいし、警戒する必要はないだろう。


 ……え?


 こんな面白そうな子死んじゃうの!?(情緒不安定)


 嫌だな〜、俺この子絶対好きになれるのに。


「じゃ、じゃあミナミ諦めちゃおうかな」


 皆の視線がその子に集まる。


「あ、そ、その、あんまり見られると恥ずかしいですぅ〜」


 ……なんだろう、凄く心がモヤモヤする。


 これって恋?


 それとも怒り?


「ミ、ミナミの名前は北野ミナミって名前です。き、北と南で覚えやすいなぁ〜みたいな名前ですね、はい〜」


 どんどん声が小さくなっていく。


 なんだろう、急激に親近感が湧いた。


 俺もこんな喋り方良くするな。


「あ、あの、ミナミのことはもういいので、次にいって大丈夫ですぅ〜。どうせ一ヶ月経てばもう会うことなんてありませんし。あはは……はぁ」


 クソでかため息を零すミナミという女の子。


 小柄でツインテール、しかも髪には赤いメッシュが入った見た目だけでも属性盛り盛りみたいな子。


 しかも中身までこれときちゃ、なんか色々とくすぐられる人間は多いだろうな。


 だけど


(なんか……違う気がするんだよな)


 似てるからこそ分かる。


 この子は多分、もっとああした方が


「可愛い」


 ヤッベ!!


 俺は慌てて周囲を確認するが、誰にもバレていない。


 いや、目の前のメンバーにバレていなくてもネットで見ている人間にはバレる可能性が非常に高い。


 ここはどうにかして誤魔化しを


「あー、じゃあ次は僕の番でいいかな?」


 お、男の声!!


 まさかこいつも俺と同じ女装


「キラリーン、僕の名前は小美森四季。得意なことはアニメキャラとかのモノマネです!!短い間ですが、どうぞよろしくね!!」


 男子……ではないようだ。


 ではなかったが


(これ、中々のレベルじゃね?)


 顔も可愛くて声真似が出来るとかハイスペ過ぎない?


 てか、ここに集められたメンバーって妙に顔が良い人ばっかりだな。


 何か理由でもあるのだろうか?


「じゃあ次の方どうぞ」


 まるでアナウンサーのように綺麗な声で次へと促す。


 変幻自在な声、俺とは真逆の立ち位置だな。


「……次、私?」


 めんどくさそうに大きなため息を吐く美人。


 顔だけなら俺をここに運んできた女装男子といい勝負だ(まだメイプルを男と信じてる変態)。


「天野夜空、二年」


 そう言って話を終える。


「え!?終わりですか!?」


 美咲ちゃんが驚いた様子で尋ねる。


「そうだけど?何か文句ある?」

「いえ……そういうわけでは」

「じゃあ別にいいでしょ」

「そうだけどその……」


 美咲ちゃんは分かりやすく戸惑う。


 その様子をみた夜空は、またしても大きなため息を吐いた。


「……はぁ。そもそもさ。ここにいるメンバーって蹴落とし合うんでしょ?自分を良く見せようとするのは良いけど、その演技胡散臭くて気持ち悪いんだけど」


 夜空は少し声を低くしながら喋る。


「馴れ合いするならここに来るなよ」


 そう言って近くの椅子に座り、突っ伏してしまった。


「うっわ、何あれ性格悪そー」


 それを見て真っ先に声を出したのは、なんか色々ド派手なギャルだった。


「じゃあ次ウチの番ね。名前は港岸玲奈。ママが付けてくれた超イカしてる名前だから忘れないでね!!」


 そう言ってみんなにウインクしてみせる。


 なんか俺こういう人苦手なはずなんだけど、この子は妙に嫌悪感が湧かなかった。


「正直デスゲームって言われも、ウチってあんまし頭がよくないから分かんないけどさ」


 玲奈は笑って


「正々堂々、負けた時も後悔がない勝負にしようね!!」


 こうして俺はあまりの陽によって消滅したのだった。


 葵 享年 十七歳 

 死因 太陽に近付き過ぎた


「ほらウチの自己紹介は終わったから、次は恵那の番だよ」

「……りょ」


 そう言って、さっきまで目を閉じていた女の子が目を開けた。


「佐渡恵那、母が付けてくれた名前だけど、特に思い入れはなし。どうせ嫌でもこの一ヶ月で名前を覚えるから覚えてもらわなくて結構」


 どこかで聞いたことのあるような自己紹介だ。


「私はなんと言われようとアテナを生き残らせる。意地汚いところを出せるよう努力すーー」

「ストーーーーーーーーーップ!!」


 会話を止め、恵那の頬を引っ張るアテナ。


「まーた恵那は変なことばっか言って!!しかもめちゃくちゃ私のパクリじゃん!!あれだよあれ、ちょはく権の侵害!!」

「ほっへをひっはらはいで」


 なんだか仲良しだな。


 もしかして知り合いなのだろうか?


「実はウチと恵那は中学から知り合いなんだ。でも、今回は友達とかそういうの関係ないから。勝負は勝負、しっかりと戦おうね!!」

「………………………分かった」

「ホントに分かった?」


 うーむ、なんだか今までと違い一気に空気が和むな。


 デスゲームだから身構えていたが、よく考えれば別に悪人がいるわけじゃない。


 みんながみんな、必死に今日を生きているのだ。


 なんだかこうして見ると、やっぱり俺って場違いなんだな。


 そう、色んな意味で。


「最後に葵さん、お願い出来ますか?」


 こうして最後のバトンが回ってきた。


 さて、どうしよう。


 俺、喋れない。


 乃ち、即詰み、なり。


「……なんですのこのお方。もしや、わたくしの高貴さを前に言葉が出なーー」

「ち、違うと思います!!」


 例のコミュ障、ミナミちゃんからもの凄い速さで否定が入る。


 ちょっと意外だ。


 言われたアイリーンさんも少しビックリしていた。


「あなた、小動物みたいな見た目ですのに、中々ですわね」

「あ、き、気を悪くさせてしまったならごごごめんなさい!!」


 うん、やっぱりコミュ障である。


「だ、だけどあの、喋らない……というキャラ付けと言いますか、いやもしかしたら本当に喋れないのかもですけど、そういうこだわりがある方なのかなって思って……」

「……なるほど。つまり彼女はいち早く人気を得る為の前準備を既に進めていたと。葵さんだったかしら?あなた……」

「……」

「やりますわね!!(クソデカボイス)」


 なんか何も喋らずに納得する理由が出され、それが受け入れられてしまった。


 俺自身は全く何も考えていないが、なんか良い感じに誤魔化せそうなため


「……」


 グッド評価を付けておいた。


 それにしてもやっぱり


(ミナミちゃん、なんかな〜)


 ……いや、この考えは無くしておこう。


 あくまで俺は美咲を勝たせると決めた。


 例え今後他の子達に情が湧いても、結局誰かが死ぬんだ。


 ならば、迷っていては俺の命は本当の意味で何も無くなってしまう。


 本命は一つ、これから大事にしていこう。


 こうして紆余曲折ありながらも自己紹介を終えたところで


『それでは皆様、お部屋の方へとご案内します』


 ゲームマスターの声が響き渡った。

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