長老の話とか気が重い…

 村の近くの森を抜けると、そこは開けた平野になっていた。ダイタが森を抜けた時には幸い、既に救援が来ているのは遠目からでも明白だった。しかし魔族の残存戦力の全てが、そこに向かっているのも見えた。

(「不味いな……」)

(「もう一人のオレ!」)

(「このままだと、村の二の舞だ…………」)

(「どうする?……」)

(「……………………」)

(「急いで、スイナ達の所に行かないと!」)

(「いや待て!」)

(「なんで?」)

(「行った所で、どうしよう無い。」)

(「は?見捨てんのか!」)

(「違う。」)

(「じゃあ、どうすんだよ???」)

(「このまま真っ直ぐ行って、敵を迎え撃て。」)

(「いや、無理だって!」)

(「出来る!」)

(「無理無理!!」)

(「隊長を倒したし、行ける!!」)

(「無理無理無理!!!」)

(「盾を信じろ!!!」)

(「でもよぉ……」)

(「さっきみたいに、求めろ。」)

(「数が違いすぎるだろ…………」)

(「欲しがらなきゃ、手に入らない。」)

(「……………………」)

(「さっきはそれで、隊長を倒しただろ?」)

(「だけどさぁー」)

(「いいから行け!」)

(「分かったよ!」)

(「考えながら、走れ!!」)

(「ダル……」)

(「それゆけ、ほれゆけ、やれゆけ!!!」)

もう一人の自分に背中を押され、とにかくダイタは走った。道中で、盾を飛ばして魔法の弾と魔族の軍勢を刈り取る事を、思いついた。

「来い!」

「………………」

「来い来い来い!!!」

「……………………………………」

「盾が飛んで、敵を切り裂けー!」

「…………………………」

「求めても、ダメじゃねぇか!!!!!!」

思いつかないまま敵と味方の中間地点に到達してしまった。人々は逃げる為に後退し、魔族たちは襲い掛かろうと進む。

「なんか居るぞ!」

「人間だ!」

「一人で戦う気か?」

「やっちまえ!」

「ひねり潰せ!!!」

「待て、盾持ってるぞ。」

「ライガン様が追ってたはずだ!」

「負けたのか?」

「まさか?」

「追いつかなかっただけだろ?」

「代わりにやっちまえー!」

「「「うおおぉぉぉー!!!」」」


 ダイタは必死で考える。もう一人の自分も考える。

(「えーと、盾を大きくして防ぐとか?」)

(「それじゃ、守れても変わらないぞ。」)

(「また盾に力をもらって、強くなって戦うとか?」)

(「数が多すぎる。」)

(「文句ばっかり、ウルセェな!」)

(「事実だろ?」)

(「邪魔くさ……」)

(「あっそ。」)

「もう、アイツらの足取りを重くして、みんなが逃げられる様になれば…………」

ダイタの嘆きは、心の声ではなく口から漏れた。その瞬間、盾は大きく光り出した。

「!?!?!?」

「【G!G!G!重力gravityのG!!!】」

「なんだ!?」

ダイタは困惑するも、盾の力が発動したのは間違いなかった。しかし何も起こらなかった。盾と自分と周囲を見渡すも、目に見える変化は何も無かった。

「盾よー?」

「…………」

「どうなってんだ?」

「……………………」

ダイタは盾に語りかけるも、反応は無い。何が起きたのか、さっぱり分からない。魔族たちを除いては。

「なんだ?」

「変だぞ!」

「足が重い……」

「ぬかるみか?」

「沼地か?」

「いや、乾いた地面だ。」

「じゃあなんだ?」

「分かんね。」

「もうここから魔法玉、落とそうぜ〜」

「それ良いな!」

「やれー!」

「「「うおおぉぉぉー!!!」」」

またも盛り上がる魔族たち。だが、こちらも何も起こらない。

「どうした?」

「分からん。」

「魔法玉、動いてないぞ。」

「何してんだ?」

「早くやれー!」

「なんか、動かないぞ。」

「というか、大きくなってないか?」

「ほんとだ。」

「威力を上げるのか?」

「うん?」

「確実に仕留めたいよな〜」

「おぉ、デカイデカイ!」

「大きすぎじゃね?」

「もしかして……」

「どした?」

「逃げろー!」

「は?」

「え?」

「大きくなってるんじゃない!」

「ん?」

「落ちて来てるんだー!」

「「「うおおぉぉぉー!!!」」」

沢山の魔法の玉は、何故かドンドン魔族の軍勢に降り注いだ。自分たちの攻撃で自滅していき、全ての魔法の玉が落下した時には、生き残った存在はダイタには見受けられなかった。あまりの光景にダイタと、もう一人のダイタは呆然とした。

(「………………」)

(「………………………………」)

(「まぁ、お前のお陰だ!」)

(「なんだコレ。」)

ダイタが不貞腐れて座っていると、後ろからスイナと多くの人たちがやって来た。ほとんどの人は目の前の惨状に目を奪われる中、スイナだけは目もくれずダイタに飛びついた。

「ダイー!」

「離れろ。」

「よくやったね〜」

「頭を撫でるな。」

「ヨシヨシ〜」

「頬擦りするな。」

「怪我してない???」

「してるわ。というか、最初に聞くだろ。」

「大丈夫そうね!流石、私の幼馴染!!!」

「もういいわ……」

スイナの言動に、ダイタは諦めた。ベタベタとまとわりつくスイナを無視して、再び目の前の惨状を見つめていた。他の人たちはドンドンと進んでいき、村まで戻って怪我人や生き残りが居ないか探しに行った。しばらくして、ウロウチョ長老が現れ、ダイタに話しかけた。

「ダイタ、無事であったか。」

「長老〜」

「お前が魔族の軍勢を、全て倒したのか?」

「まぁ、半分そうですかね……」

「なんと!」

「とりあえず、終わったと思います。」

「では、皆の居る所で怪我の治療を。」

「分かりました。」

「ワシは村が心配なので、見てくる。」

「気をつけて〜」

「落ち着いたら、ワシの家に来てくれ。話がある。」

「ええぇぇ……」

ダイタが嫌そうな顔をするのも気にせず、長老はお供を連れて村の方へ向かう。再び二人きりになったダイタとスイナは、避難所へと向かう。戦いが終わった事で、痛みや疲れがドッと襲ってきた。

「大丈夫?」

「まぁ、な……」

「やっぱり、私が居ないとダメね〜」

「かもな……」

「……………………」

「なんだよ?」

「珍しく、素直じゃん……」

「本当の事を言って、放り出されたら困るからな。」

「やっぱり要らないんじゃん!」

「要る要る!!!」

「もう知らない。」

「スイナが居ないと、生きていけないから!」

「ええぇぇ!」

「頼む!!!」

「もう、しょうがないなぁ〜」

スイナの顔は真っ赤になり、照れていた。二人はゆっくりと歩き、ようやく避難所に着いた。ダイタの怪我の程度は比較的に軽かったので、すぐに治療は済んだ。


 ダイタとスイナも村に帰って来たが、ダイタの家の前で何やら揉めていた。

「いいから行くわよ!」

「ええぇぇ〜……」

「『来い』って言われてるでしょ!」

「『落ち着いたら』って言ってたし、明日で良くね?」

「そう言って、行かないつもりでしょ。」

「だって、メンドクサイし……」

「やっぱり!!!」

「行く行く。今度、行くから。」

「ダーメ!今すぐ行くわよ!!!」

「ダッル…………」

「さぁ、行くわよ〜」

スイナに引きずられ、ダイタは嫌々歩いていく。着いた先には、村の中では比較的に大きな家だった。表には〈ウロウチョ〉と名前が出ていた。戸を叩くと、中から声がした。二人は中へと入っていった。

「話って何ですか?」

「チョット待て。」

長老は本棚から、一冊の本を取り出した。大きく、分厚く、古い本であった。机の上に置くと、開いてペラペラと目当ての場所を探し始めた。ダイタは興味なさそうに、スイナは興味津々で、本を見ていた。

「凄い古い本〜」

「勇者が生きていた時代のものだからな。」

「えっ!勇者って本当に居たの?」

「なんじゃ、知らんかったのか???」

「作り話だと思ってた。」

「これには、勇者の旅の事とか書いてあるんじゃ。」

「へー!」

「まぁ、脚色や誇張も多いんじゃが……」

「ふーん。」

「有った。これじゃ。」

長老は目当ての箇所を指で示して、二人に見せた。そこには、勇者の旅の後日談が書いてあった。スイナは、つらつらと読み上げる。

「『勇者は魔王を倒した際に折れた剣を仲間のドワーフに託し、故郷に帰った。ドワーフたちは剣を修理して、勇者が取りに来るのを待った。』と。コレが何?」

「勇者の剣は、未だドワーフの里に有る可能性が高い。」

「確かに!」

「ダイタよ、剣を手に取り魔王を打ち倒すのだ!」

長老は大きな声で、宣言した。それを聞いたダイタは、たった一言だけ発した。


「ヤダ。」

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ものぐさ盾オトコ(防御は最大の攻撃系怠け者with武闘派美少女幼馴染) 1輝 @KAZUKI_Nola_KKYM

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