特殊能力とか疲れる

 「まさか、己の気配に気がつくとはな。」

「まぁな。血生臭い獣の匂いがプンプンしてたぜ。」

「フン。流石に雑魚だけでは無かったか。」

「なんか用か?急いでるんだ。」

「貴様に用は無い。用が有るのは、貴様の死体にだ。」

「あー、メンドクサ……」

ライガンが自身の身の丈と同じ位の大剣を、片手で簡単に軽々しく扱う。繰り出された突きをダイは盾でいなすも、先程までの魔族達とは一撃の重さが違った。

「フン!フン!!フン!!!」

「クッ……」

「受けるだけでは、終わらんぞ!」

「ウルセェな。」

「盾だけでは、何も出来んか?」

「剣だけでも、何も出来てないだろ?」

「軽口を叩く余裕はあるのか。」

「叩かなきゃ、やってられないんでね!」

勇者の盾で無ければとっくに壊れている様な重い連撃を受け続けながら、ダイタは思案する。コイツから逃げる事が出来ても、追われれば他の人を巻き込む。完全に撒く事は、出来なそうだ。最善手にして最難関が、盾でコイツを倒す事。無理難題に四苦八苦していると、またももう一人の自分が話しかけてきた。

(「困ってるな。」)

(「ウルセェ!」)

(「敵に集中しろ。」)

(「じゃあ、話しかけんな。」)

(「黙って聞け。」)

(「……」)

(「この魔族は強い。」)

(「知ってるわ!」)

(「いいから聞け!」)

(「…………」)

(「盾を使え。」)

(「???」)

(「勇者の盾だ、凄い力を秘めてる。」)

(「……」)

(「はず。」)

(「おい!」)

(「とにかく、求めろ!」)

(「…………」)

(「欲しがらなきゃ、手に入らない。」)

(「ムチャクチャな……」)

(「やってみなきゃ、分からないだろ?」)

(「やりゃいいんだろ?メンドクサェ……」)

ダイはライガンの攻撃を大きく弾き、距離を取る。そして、盾を構える。この行動を怪しんで、ライガンは攻撃を止めて見定め始めた。

「何をする気だ?」

「勝つ為の下拵えだ。」

「ハッ!盾だけでは、何も出来んぞ。」

「言われなくても分かってるよ。」

「……」

「来い来い来い!」

「………………」

「来い来い来い来い来い来い!!!」

「では、遠慮無く行かせてもらう。」

「お前じゃねぇ!」

ライガンは大きく踏み込み剣を構えて、ダイに向かって突き進む。ダイは変わらず盾に求めるが、何も起こらない。

「コレで終わりだ!」

「クソ!何も起きねぇ!!アイツの攻撃を弾ける力さえ有れば!!!」

「ハアアァッッー!」

「クッ!」

ライガンの一撃に身構え、しっかりと盾を構える。その瞬間、盾が大きく光り出した。そして、どこからともなく声がした。

「【G!G!G!ガードguardのG!!!】」

「「!?」」

ダイとライガンの二人共が驚くも、攻撃と防御は止まらなかった。そして先程までと同じ様に、ライガンの剣がダイの盾にぶつかる。すると、ライガンと剣は大きく弾き飛ばされた。盾でいなすどころか、大きく吹き飛ばしてしまった。何が起きたのかまったく分からないが、形勢が逆転したのは明白だった。ライガンの一突き一突きを、ダイは大きく弾き返す。

「なんだこの力は!」

「知らねー」

「盾にぶつけた剣の勢いが、倍返しされているのか?」

「さぁ?」

「グヌヌ……」

「諦めたらどうよ?」

「フン!だったら盾に当たらない様に、剣を振るだけだ!」

ライガンは右に左に上から下から、多種多様な剣を振る。しかし全く刃はダイに、届かない。明らかに盾の大きさ以上に守られている範囲が大きいのである。盾が光ってからは、変わらずライガンの剣は弾き返され続けた。流石に剣技にも疲れが見え始めた。

「いい加減やめたら?」

「引かん!」

「もう飽きたよ。」

「やめぬ!」

「あっそ……」

「貴様こそ、防いでばかりではないか。」

「まぁね。もっと力が有れば良いんだけどさぁ〜」

ダイが愚痴を言うと、盾が再び光り出した。また知らない声が辺りに響き渡る。

「【G!G!G!ガッツgutのG!!!】」

「「また!」」

ダイもライガンも驚いていると、盾の光がダイの身体を包み込む。そして染み込んでいくと、輝きを失った。

「何が起きたのだ!?」

「さぁ?」

「貴様の体であろう?!」

「分からんものは、分からん。」

「クッ……」

「確実なのは、力がみなぎってるって事くらいか?」

「なに!」

ダイタはいつの間にかライガンの懐中に潜り込み、盾の裏拳を顔に叩き込んだ。獅子の顔にシッカリと決まり、ライガンは吹き飛ばされてしまった。木々の中に姿が消えたが、ダイタはその場から動かなかった。少しすると、再びライガンが姿を表した。

「やっぱ、さっきの一撃じゃダメか……」

「当然!」

「メンドクサ…………」

「流石に効いたぞ、あの一撃!」

「なら、もっと食らわせてやるよ。」

「それはコチラの台詞だ!」

ライガンは剣を振り下ろし、斬りつけ、ダイに刃を打ち込もうとする。ダイは盾でシッカリと弾く。大きく弾いた時に生まれた隙をつき、盾を使った殴りや裏拳をライガンの体や顔に打ち込んだ。

「オラッ!」

「グフッ…………」

「もう諦めたら?」

「絶対に負けん!」

「あっそ。」

「隊長の誇りに賭けて、貴様を屠る!!!」

「吹けば飛ぶ様な物で、勝敗が変わるかね〜」

「ガルルゥ!」

「どっちが悪者だか、分かりゃしねぇ……」

「グアァオオォーー!!」

「ダル……」

出会った直後の戦闘と比べ、優劣は完全に逆転していた。かなり消耗したライガンを、ダイは次の一撃で仕留める事にした。ライガンの渾身の突きを盾で弾く。力を込めて弾いた事で、大きく仰け反らせた。そこでダイは走り出し、大きく地面を踏み込んだ。そして飛び上がり、地面に着いた所で、再び踏み込み飛び上がる。また地面に着いた所で踏み込んで、今までで1番の跳躍をした。三段跳びの最後の跳躍の頂点で体をグルリと前転させると、ダイは盾を正面にして全身を矢の様にした。そしてそのまま、ライガンに向かって飛び込んだ。

「なに!?」

「喰らえ!盾隕石シールドメテオ!!!」

獅子の顔の有る盾が勢いよく突っ込み、ダイの跳躍と重さで強化された一撃は確実にライガンの獅子の顔にぶち込まれた。スッと綺麗にダイは着地し、ライガンはそのまま仰向けに倒れた。近づいて見るも、生きているのか死んでいるのか分からない。が、動かないのは明白だった。

「……」

「あー、疲れた。」

「…………」

「まぁ、礼は言う。」

「……………………」

「お陰で強くなれたよ。ありがとう。」

「…………………………………………」

ダイはそのまま走り出した。先に逃げたスイナや、他の生き延びた人たちが気になったからだ。

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