雑魚戦ダリィ

 「なんだ、この人間!強いぞ!」

「どんどん倒されてるぞ!!」

「敵わねぇよ!」

「強いヤツ呼んでこい!!!」

様々な魔族が、徒手空拳により吹き飛ばされる。中心で嵐を巻き起こしていたのは、一人の少女だった。逃げ遅れた人達を助けようと、単身で敵を捌いていた。人を助けながら、見つからない幼馴染を探す為に戻ってきたのだ。

「ダイは、何処行ったの。よ!」

「グハッ……」

「邪魔ね!」

「フギィ……」

目の前に立ちはだかる敵に、殴りと蹴りを叩き込む。格闘の極意が身に染みている、身のこなしであった。しかし、とうとう囲まれてしまった。あまりの数に手出しが出来ず、辺りを警戒する事しか出来なかった。魔族達は一斉に襲いかかり、少女を倒そうとする。一体ずつ拳と脚であしらうも、遅れてきた巨体の魔族に気付くのが遅れ、木槌の重い一撃がぶつかりそうになった。ドカーッンと大きな音と共に土煙が舞い、辺りは見えなくなった。土煙が収まると、見えてきたのは少女と木槌。そしてその間に挟まる、勇者の盾を構えた少年だった。

「ダイ!」

「スイナ、何してんだよ?」

「何って、困ってる人とダイを探しにきたのよ!」

「あんだけ祭りは大丈夫って言うなら、さっさ逃げろ。」

「試合と戦場は違うして、相手は魔族なのよ!」

「知ってるよ、メンドクサイ……」

「何よ!心配したんだから!!!」

スイナは涙を、ポロポロとこぼす。

「泣くなよ。悪かったよ。」

「ウゥ……」

「逃げたら、好きなだけ泣けよ。」

「わ゛がっ゛だ!゛」

「ココは任せて、先に逃げろ。」

「でも!」

「大丈夫だから。お前に、スイナに死なれると、オレが困るから。」

「ダイ〜」

「誰が毎朝、起こしてくれるんだよ。」

「それは自分で起きなさいよ!」

二人の人間が喋るのを見ながら、魔族達は何も出来なかった。

「あの一撃を止めたぜ……」

「しかも、何も無いみたいだ。」

「人間にも化け物がいるのか。」

「隙だらけに見えて、立ち入れねぇ……」

魔族が怯えている中、二人の話は続く。

「もー、良い加減に一人で起きなさいよ!」

「えぇー、ダル……」

「私が起こさないと、起きないし。」

「メンドクサイんだもん。」

「だもん。じゃないの!」

「もう、一緒に住めば良くね?」

「いっ!一緒に住む!?えっ……と、えぇ〜」

スイナは明らかに照れており、モジモジし出した。

「そろそろ、逃げてくんない?」

「急すぎるよダイ〜」

「話、聞いてる?」

「大胆だな〜」

「もしもーし!」

「みんなに、話しないといけないね?」

「話す前に、話を聞け!」

ダイはずっと受け止め続けていた木槌を押し返し、勢いそのまま魔族を吹き飛ばす。流石にスイナも冷静になり、逃げる構えを見せる。

「そろそろ逃げないと……」

「オレが守るから、サッサと行け。」

「信じてるから。」

「疲れるけど、やる事やったら逃げるから。」

「待ってるから!」

「いいから早く行け。」

スイナは脇目も振らずに、走り出す。目の前の魔族だけを蹴散らし、他の逃げた人たちの方へと向かう。背後をダイタが必ず護ると信じていたからだ。

「一人だけ残ったぞ!」

「やっちまえ!」

「武器、持ってないぞ!」

「うおぉー!」

魔族が口々に叫ぶも、ダイは怯まない。怯むどころか、やる気も無くメンドクサそうだった。そこにすかさず剣が振り落とされたが、ガキンという金属音と共に防がれた。ダイの左腕にしっかりと装着された盾は、いとも容易く防御する。そして、一撃を見舞った魔族には、盾ごとダイの拳が叩き込まれた。

「盾で殴ったぞ!」

「武器なのか?」

「いいからやっちまえ!」

「「「うおぉー!」」」

何度も撃ち込まれる剣を盾でしっかりと防ぎ、隙が生まれれば蹴りを叩き込む。近寄る敵には、盾を使った殴りを打ち込む。ただでさえ強い拳に、盾の硬さと重さと鋭さが混ざり強烈な一撃となった。振り落とされた木槌は、今度は避ける。避けた勢いを利用してグルリと回り、遠心力も加えた盾の裏拳を放つ。巨体な魔族も、コレには太刀打ち出来ずに倒れ込んだ。そうこうする内に、ダイの周りに魔族は居なくなった。


  あらかたの敵を倒し、一人ポツンと立ち残る少年ダイ。立ち塞がるものが無くなった今、先に逃げた幼馴染のスイナを追いかけて走る事にした。走りながら、もう一人の自分が話しかけてくる。

(「やっぱり、やれば出来るじゃん。」)

(「ウルサッ……」)

(「怠けてただけだな。」)

(「違うわ。無理矢理、盾で戦っただけだ……」)

(「使えただろ?」)

(「拳を守る籠手としてな。」)

(「あとは、どうするんだ?」)

(「スイナを追う。襲われてなきゃ良いが……」)

(「どうだろうな〜」)

(「てか。もういいだろ。消えろよ。」)

(「もう一人の自分に、冷たくないか?」)

(「当たり前だろ。普通は話しかけてこないんだよ!」)

(「あっそ。」)

(「それに戦ったんだし、良いだろ?」)

(「分かった分かった……」)

(「本当にメンドクサイ。」)

(「最後にいいか?」)

(「何だよ?」)

(「左後ろに気をつけろよ。」)

(「は?」)

もう一人の自分の忠告に驚きながら、左後ろに注意を向けると、突如として大剣が現れた。すんでのところで避ける事が出来たが、あのまま走っていれば間違いなく串刺しであった。立ち止まり攻撃のあった場所を警戒すると、獅子の顔を持つ人体が現れた。魔族の隊長のライガンであった。

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