敵襲とか億劫…
長老の話は未だ続いていた。自分が生まれてから長老になり、歴代の勇者祭りについて事細かに語っていた。ようやく近年の話になりつつあった。
「去年の勇者祭りは、凄まじかった。優勝候補筆頭が当日になって辞退するという波乱からはじまり、東イチの筋肉を持つクニンキと西の大魔法使いウホマの頂上決戦!魔法の如き拳と科学的な合理的魔法。ぶつかった衝撃で我が家は半壊してしまいました。」
ほとんど誰も聞いていない長話を背景音楽として、みんな飲み食いしながら開始を待っていた。スイナは観戦席から大きく手を振り、応援する。ダイタはチラリと見ると片手で軽く振り返し、向き直る。周囲には強豪に見える者たちが揃い、異様な雰囲気だった。剣や杖、槍に弓に鎌、見た事の無い武器を手にする者、ダイの様に素手の者や徒手空拳の使い手と思しき人もいた。誰しもが、今か今かと開始を待ち望んでいた。
「話が少し長くなりましたが、そろそろ開会の宣言に参ります。私の後ろに立派に構える勇者の像。こちらには勇者本人が使用したとされる剣と盾が有ります。それぞれ手に付けられてる物ですね。優勝者にはコレらを持ってもらい、様々な行事に参加してもらいます。さてと、では取り外しますね。」
そう言って長老が近づこうとした瞬間、像は急に爆発した。何の前触れもなく爆発した勇者の像に、祭りの場にいた全ての人が驚いた。そして直ぐに爆発の原因が判明した。空に沢山の紫色の玉が浮いており、それがいくつか落ちてきていたのである。流星の様に見えるが、明らかに異質な存在。詳しい者からすれば、魔法で作られているのは明白だった。
「なんだアレ!」
「危ないぞ!」
「逃げましょー」
「なんだ?余興か?」
様々な声に応えるが如く、姿を表す存在がいた。人間の体に獅子の顔を持つ者が、勇者像の有った場所に姿を表した。
「私は東部征服軍先遣隊隊長、獅子面のライガン!今よりここを魔王軍の支配下とする!抵抗する者は、切り捨てる!!!」
その声に、祭り会場に集まる人々は驚くばかりだった。
「魔族だ!」
「魔王軍だと?」
「復活したんだ!」
「逃げろ逃げろ逃げろー」
「戦える者は行けぇ!」
「助けてくれ〜」
右往左往し逃げ惑う者がほとんどで、戦う者は少なかった。ライガンの部下であろう様々な魔族が至る所から現れて、人々を襲う。なすすべなく倒れる者や敗れたり庇って命を落とす者で、地面が埋まり始めていた。
(「あー、ダッル……」)
人々が辺りに転がる中、よくよく見ると無傷にも関わらず倒れる者がいた。亡骸のフリをして事なきを得ようとする少年、ダイタがいた。
(「何でこんな事に……」)
(「そりゃ、勇者の生まれた場所だもんなぁ。」)
一人で頭の中で考えていると、同じ声がした。
(「誰だよ?」)
(「誰って、俺だよ。お前でも有るけど。」)
(「メンドクサ……」)
(「そう言うなよ。一心同体なんだし。」)
(「とうとう、頭がイカれたから……」)
(「イカれちゃいない。いたってマトモさ。」)
(「じゃあ、何でもう一人の自分が急に出てくるんだよ?」)
もう一人の自分が、指をさす。
(「そりゃ、お前がこんな危険な状況なのに、相変わらず怠けてるからな。」)
(「怠けちゃいないが?」)
(「いいや、怠けてるね。この戦いを終わらせるだけの力を持ってるのに、寝てるだけだもんな。」)
(「つかれるから嫌だわ……」)
(「ほら、怠けてる!」)
(「分かったよ、認めるよ。」)
(「じゃあ、戦おうぜ!!!」)
ダイは、もう一人の自分に向かって首を横に振る。
(「それはムリ。」)
(「なんで?」)
(「武器が無い。」)
(「いや、有るだろ?」)
(「無いね。」)
(「よく見ろ。目の前にあるだろ。」)
(「???」)
頭の中の世界から現実に目を移し、辺りをチラリと見回す。すると、何やら光る物があった。見覚えの良くある、盾だった。勇者がかつて使ったとされる、銀色の盾。真ん中に獅子の顔があり、周囲には幾つか玉が埋め込まれていた。ダイは頭の中の世界に戻り、もう一人の自分に怒る。
(「武器って、盾じゃねぇか!」)
(「盾も武器だろ。」)
(「防具だろ!」)
(「使い方次第だな。」)
(「なんだそれ、無責任な。」)
(「戦いで怠ける奴の方が、無責任だろ。」)
(「もう良いわ。やる気なくしたから。」)
(「そうかい。じゃあ、可哀想だな。」)
もう一人の自分が、今度は現実を指さした。見ると、魔族の隊長に挑む者が居た。
「我が名は、ウシュウユ!」
「…………」
「貴様を倒す!!」
「……………………」
「この勇者の剣で!!!」
「……」
「うおおおぉぉぉ!!!!!!」
「くだらん。」
見覚えのある剣を構え、ウシュウユは立ち向かう。が、ライガンの大剣の薙ぎ払いで簡単に吹き飛ばされて、見えなくなってしまった。先程まで居た場所には、折れた勇者の剣が転がっていた。
(「どうすんだよ……」)
(「アイツの事など知らん。」)
(「知らないって…………」)
(「とにかく。お前が戦わないと、さっきの繰り返しぞ。」)
(「そうは言っても、武器が。」)
(「盾があるだろ。」)
(「だからぁ〜」)
ダイタは、もう一人の自分の言葉に呆れた。もう一人のダイタは、構わず話を続けた。
(「お前に、良い事と悪い事。両方を教えてやろう。」)
(「もう一人の俺の癖に偉そうだな。ダル。」)
(「まず、良い事。とある国の言葉の【攻撃は最大の防御】だ。」)
(「まぁ、分からん事もない。」)
(「良い言葉だろ?」)
(「言葉ではあるけど、良い事であるか?」)
(「悪い事はな。」)
(「なんだよ?」)
もう一人のダイが、別の方向の現実を指さした。
(「お前の幼馴染のスイナ、襲われてるぞ。」)
(「早く言え!!!!!!」)
ダイはすぐに立ち上がり、スイナの方へ走って向かう。
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