第4話 男女の友情

僕は大学が医療系の大学で女性が8割ということもあり、女友達が多かった。

大学在学中は飲み会も多く、当時の写真を見返すと、男女で距離が近かったり、酔っ払って女性の先輩をお姫様抱っこするなど『チャラい』といわれても仕方のないものが多かった。もちろん『ワンナイト』のような男女の関係はそこにはなく、自分の中では隠すようなものはないつもりであった。

大学卒業後も男女7人程度のサークルのメンバーで年に何度か集まっており、コハルと付き合ってからも何度かその機会はあった。

もちろん僕はそのメンバーと色恋沙汰は全くなく、純粋に友達と思ってたが故に、集まりに行くことをコハルに隠すこともなかった。


一方のコハルは男友達は数人いるものの、就職前に通っていたのが美容系の専門学校で、周囲に男性が少なかったこともあり、基本遊ぶ友人は女の子であった。

時折飲み会の機会などはあったようだが、大学生のような男女での飲み会をすることはなく、男女がわざわざ集まって飲み会を開くことを引いた目で見ていた。


僕は恋愛感情とはかけ離れた女友達が多かったこともあり、男女間の友情については成立するという考えでいた。一方、コハルは友達と思っていた男性から突然告白される等のことも昔あったようで、純粋な男女間の友情なんてものはありえないといった考えでいた。

男女の友情について2人でこれほどのギャップがあれば、当然喧嘩に発展するのは安易に想像できる。


それはある女友達からの連絡から始まった。

その女友達は親友と呼べるほど僕と仲が良く、大学1年からの付き合いであった。数年前に僕の高校時代の男友達を紹介し、2人は婚約に至っていた。

コハルとも面識があり、僕たちの結婚後に4人で食事に行き、お祝いをしてもらったこともあった。

そんな女性からグループラインを通して連絡があった。


「そろそろソウタも引っ越すし、集まらない?」


この頃僕は地元への引っ越しが決まっていて、その送別会を開いてくれるとのことだった。

僕らのサークルのメンバーでの集まりはいつもその女友達からの連絡がきっかけとなっていた。

コハルと付き合ってから同棲、結婚の間に何度かその機会がありコハルもそれは知っていた。


グループラインの呼びかけに僕は返信していなかったが、コハルが僕の携帯を見た時に連絡に気づいた。


「リカちゃんから飲み会の誘いが来てるよ」


そう告げたコハルは既に不機嫌であった。


「あーなんか引っ越すから送別してくれるみたいなこと言ってたわ」


僕は当たり障りなく返した。


「飲み会の時さ、毎回リカちゃんからだよね。なんか理由つけて集まりたいだけなんじゃないの?」


これは…不穏な空気だ…飲み会への参加が怪しくなってきた。


「んー集まりたいのはあると思うけどね。でもほら、今回は送別してくれるってことだし」


しどろもどろに僕は返事をしたが、もうこのあたりで会話は噛み合わなくなってきていた。


「そもそも奥さんがいる人を毎回こうやって誘うのってどうかと思うんだよね」


コハルが言ってることはごもっともでしかない。今思えば少し嫉妬してるところがコハルの可愛いところで、僕が愛されてる証拠だ。

だが、飲み会へ参加したいという気持ちが前に出ている僕は余計なことばかり言ってしまう。


「でもまぁこいつらは大学時代からの友達だしさ、それにコハルもリカには会ったことあるでしょ」


その後間髪いれずに、怒りの混ざった声でコハルは返した。


「女の子を私の前で簡単に呼び捨てにしないで!会ったことあるし遠慮しなくていいでしょみたいな感じで誘ってくるのが一番ムカつく。」


これは…まずい!とっさになんとか収めようと僕は返す。


「リカ…いやあいつも悪気はないと思うよ!そんなやなやつじゃないしさ!新しい女友達ってわけでもないしさ、あいつらとの飲み会は大丈夫だよ!」


さてここで僕が火に油を注いでいることに男性読者は気づくだろうか。

コハルは僕の言葉を聞いて簡単には消火できないほど怒りが燃え上がった。


「はぁぁあああ?なんで私じゃなくてどっかの女の味方についてんだよ!!まずは私の不快な気持ちについて考えろよ!!」


喧嘩が多い僕らだが、コハルのここまでの怒りはそうそう見ることはない。

しかし馬鹿な僕は怒りをぶつけられたことで

(おれが女の子誘ったわけでもないし、友達と集まるだけでなんでこんな言われなきゃいけないんだよ)

と逆ギレエモーションを抱いてしまった。


「あーはい、わかりました。飲み会には行きません。」


そういって不満そうな態度をとる僕に当然、コハルの怒りの炎はさらに燃え上がる。


「そーゆーことじゃないんだよ!なんでわかんないの?飲み会に行く行かないの話じゃないの!これからもその連絡が来るたびに嫌な気持ちにならなきゃいけないわけ?」


喧嘩の時は相手の気持ちに寄り添いなさい!今の僕はこの時の僕にそう怒鳴りたい。

不機嫌なまま話す僕というバカヤローはこう返した。


「飲み会に行かなきゃいいでしょ?連絡はおれがしてるわけじゃないし、しょうがないじゃん」


そこからはコハルが涙を流しながらの喧嘩となった。


「ソウくんに飲み会行ってほしくないのはそうだよ。でもソウくんが私に言われて、いやいや飲み会を我慢してることが嫌なの。本当は飲み会行きたいけど、コハルに言われてるから我慢するかーおれ縛られてるわーみたいに思われるのが嫌!そもそも連絡がこなきゃお互いこんなことにはならないし、あと何より私より友達の味方するのはやめて!」


コハルが涙ながらにそう話してくれたおかげでコハルの抱えてる気持ちはこの時点で理解することができた。

だが大学時代からかなり仲良くしていた友達たちだ、そんな簡単に切り離すことはできない…コハルの言葉に言葉を詰まらせていた僕にコハルは続けて話した。


「ソウくんが友達を大好きで、男女で分け隔てなく仲良くしてるのも知ってる。でも私は女性と仲良くしてること自体が理解できないし、嫌な気分をずっと抱えることになるんだよ。ソウくんが今まで通り友達と連絡とって、会って、私の気持ちを無視するのか、それとも私との生活を優先してくれるのか、そうゆう話だと思う。」


その言葉を聞いた時、コハルとの結婚を決めた時のことを思い出した。おれはこの人を幸せにしたいと思ったから結婚したんじゃなかったか?この人のために生きる覚悟があったんじゃないか?なにを迷うことがあるんだろう。


「わかった。もう連絡は来ないようにする。おれはもうコハルと生きていくと決めたのに、ごめんね。」


そう告げるとコハルは涙を流しながら


「こっちこそ心が狭くてごめんね」


とだけこぼした。

コハルにこんなことを言わせてしまった自分の行動を心からくいた。

コハルのために日々を過ごす、その決断にはまだ覚悟が足りなかったのかもしれない。

改めて家族のために生きるとはどう意味か考える機会になった。


家族を置いて友達と飲みに行く、遊びに行く、それ自体は悪いことではないと思う。ただ、その時の家族の気持ちはどうなのか、どう感じるかは相手による。自分本位ではなく、妻が子供がどう感じているのか、自分だけでなから家族の価値観をしること、その気持ちを敏感に感じることも遊ぶ上での責任になるのかもしれない。

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