#5【結末】約84%の死:END

 ゲームマスターの死亡宣告が、部屋に響き渡る。

「シンデナイヤロ!」

「どういう事だ!?」

「………………………………」

上光、犬音、沙耶石の三人が三様の反応をしていると、警報音が大音量で流れ出した。ゲームマスターが映っていた画面には、〈error〉の文字が浮かんでいた。そして、機械音声が部屋に聞こえ出した。

「[エラーが発生しました。エラーが発生しました。弾丸が発射されましたが、参加者が死亡しませんでした。]」

「ナンデヤ!タマハ、ウゴカシタンヤカラ、デンハズヤ!!!」

上光の言う通り、空砲が真上に来たはず。しかし、ゲームマスターからは死亡の宣言。犬音が困惑していると、モニターと拳銃が収納されていった。代わりに、とてつもない数の機関銃が現れた。弾丸を発射する砲身が大量に有り、その砲身の塊が上や下から出現した。

「ナンヤコレ!!!」

「[規定により、参加者を射殺します。]」

確実に殺す為、逃げ場など与えないほどの武器が、上光の眼前に広がる。ガチャガチャと自分の腕を固定する金具を揺らし、必死で逃げようとする上光。

「オカシイヤロ!オレハイキテル!!カッタンヤ!!!」

「[他の参加者は離れてください。まもなく、射撃が開始されます。]」

「フザケンナ!インチキヤ!!ヤラセヤロ!!!」

「[射撃開始、5秒前。]」

「クソー!クソー!!!」

「[4、3、2]」

「イヤダ!シニタクナイ!!!」

「[1、0。]」

「アアアァァァッッッッ!!!!!!」

大量の弾丸が横殴りの豪雨のように、上光の体にぶち当たる。上光の悲鳴は、耳を塞いでいたからか、射撃音にかき消されたのか、それとも声を発する暇も無かったのか、はたまた声を出すための喉が撃ち抜かれたのか、犬音と沙耶石には聞こえなかった。どのくらい連射されたのか分からないが、とうとう砲身が回転する音しか部屋には流れていなかった。大量の弾丸が発射された事による硝煙の煙で、上光の居た場所は見えなかった。徐々に消えていくと、犬音と沙耶石の視界には人体は見えなかった。有るのは、床と壁の一面に広がる真っ赤な血と肉だけだった。肉塊というよりも、ただの肉片が飛び散り、へばりついていた。

「…………オェッ」

「大丈夫ですか?」

沙耶石が光景に耐えられず、吐瀉物を撒き散らす。犬音はすかさず介抱しながら、部屋を見渡す。硝煙の煙が減ったはずが、増えている様に見えたからだ。少しずつ近づく煙を、二人は吸い込んでしまった。

「ケホケホッ……」

「ゴホッ……ガスか!」

「………………」

「沙耶石さん!大丈夫ですか!!!」

「………………………………」

「くそっ、このガスはなんなんd……」

二人は意識を失い、床に倒れ込んだ。


 「……さん!犬音さん!」

「…………ぅうん?」

「起きてください!」

「アレ?寝てました???」

「気がついたんですね、良かった〜」

犬音と沙耶石の二人は、ガスの作用で眠らされていた様だった。辺りを見渡すと、眠る前と同じ場所では有った。しかし、綺麗さっぱり掃除されたのか、床も壁も磔台もシミひとつ無い状況だった。

「どうやら、眠らされてる間に清掃されたみたいだ。」

「あんな物が有ったら………………オェッ!」

「大丈夫?無理に思い出さなくて良いから。」

「はい……大丈夫…………です………………」

「それにしても、なんで上光さんは、死んだんだろ?……」

「……私の……せいだと…………思います。」

沙耶石の言葉に、犬音は驚いた。

「えっ!どうして!!!上光さんは、自分からボタンを奪って北条さんと組み合わせて、二つ戻したのは間違いないけど……」

「確かにそうなんですけど……」

「けど?」

「……………………」

沙耶石は無言で握った手を、犬音に差し出した。ゆっくりと拳を開くと、そこにはボタンがあった。

「コレは?」

「…………です。」

「ええぇぇっっ!!」

「ごめんなさい!」

「いっ、いつの間に……」

「さっき、あの上光って人と犬音さんが話してる間に、コッソリと……」

「そうだったのか〜」

「本当にごめんなさい!!!」

犬音は沙耶石からボタンを受け取り、ポケットにしまった。

「いやまぁ、でも、結果的には助かったし。」

「……………………」

「ちなみに、沙耶石さんのボタンの能力は、何だったんですか?」

「私の能力は、〈スカ〉です。」

「スカ?」

「えぇ。何も無いって、意味です。」

「つまり、ハズレというか、無能力って、事?」

「そうなりますね……」

「ええぇぇ…………」

「たぶん、力の無い人も居ないと、ゲームが面白くならないと思ってるんですかね。」

「でしょうね。」

二人は、それぞれ近くの椅子に腰掛けた。

「それにしても、犬音さんが全員で助かろうって言ってくれて良かったです!」

「まぁ、無能力で勝ち抜くのは難しいでしょうからね。」

「みんな殺し合えば、最も不利でしたから。」

「でも、結局、似た様な状況になってしまいました……」

「そうですね……」

「骨場さんに、外池さん。悪い事をしたなぁ……」

「犬音さんは、悪くないですよ!」

「いや、もっと北条さんと上光さんを説得したり、警戒するべきでした。あの二人も、助けられる道があったはずなんです。」

「………………」

「………………………………」

「犬音さんは、優しいですね。」

「えっ?」

「普通、あんな悪い人の事、後悔しませんよ!」

「そうかな〜」

「もっと、早く会いたかったです。」

「え?」

沙耶石の言葉に、犬音は驚いた。

「私の家、貧乏なんです。だから、小さい頃から、親に万引きとかやらされてて……」

「………………」

「周りの人は、全然、助けてくれなくて。助けてもらえないなら、独りで生きていこうと、悪い事に手を染めて……」

「沙耶石さん……」

「スリとかして、お金を稼いでたんですが、ついこの前、裏社会の人に手を出しちゃって…………」

「…………」

「それで、このゲームに参加させられちゃって…………」

「そうだったんですか。」

「もう、こんな事になるなら、悪い事は辞めます。」

「それが一番です!」

「賞金を渡して、犯罪とはサヨナラします。」

「じゃあ、僕の賞金あげますから、コレでやり直して下さい!」

「いや、ダメですよ?」

「へっ?」

「だって、犬音さんの記憶を取り戻さないと!」

「……あぁ、確かに!」

沙耶石は立ち上がると、磔台を指さした。

「じゃあ、行きましょうか!」

「えっ、でも今は1発撃ったから、空砲は真逆だと思いますけど。」

「それは、大丈夫です!」

「???」

犬音が疑問に思っていると、沙耶石はまたボタンを取り出した。

「これは?」

「このボタンは、骨場さんのです。」

「えっ、どうして!」

「骨場さんが撃たれた後、床に転がってたんです。たぶん、持ったまま挑戦してたんでしょう。だから私、拾っちゃったんです。」

「なるほど。」

「人のボタンだし使えるとは思ってなくて。囮にでも使おうと持ってたんです。でも、使えるって分かったんで。」

「コレが有れば、大丈夫ですね!」

犬音の前で、沙耶石はボタンを押した。骨場のボタンで有れば、能力は〈弾倉の180度回転〉。つまり、空砲は真上に来ているはずだった。

「私が、先に挑戦しますね!」

「えっ!?」

「そうすれば、犬音さんは自分のボタンで戻して、助かりますし!」

「なるほど。」

「じゃあ、先に行って、待ってますね。」

「うん。」

二人とも、躊躇いなく磔台に近寄る。沙耶石はゆっくりと、拘束器具に身体を寄せる。犬音はすぐ近くの椅子に、腰掛けた。挑戦開始を見るのは5度目だが、今まで1番安心して見る事ができた。いつも通り、上からモニター、下から拳銃が姿を表す。モニターには、カボチャ頭のゲームマスターが映る。


《挑戦者が決まりました。》


《生き延びる事が出来るのか。それとも死か。》


《では、開始です。[ルーレットリボルバー]!》


ギギギと音を立てて、拳銃の引き金が動く。犬音は沙耶石に、軽く手を振る。

「私と犬音さん、2人で勝ちましょう!」

「えぇ、先にいってて下さい。」

そして、破裂音が部屋に響き渡る。沙耶石の挑戦を安心しきって見ていた犬音の顔に、何かが付いた。触ると、赤い液体だった。この部屋で見慣れた液体、血だった。恐る恐る沙耶石を見ると、そこにはグッタリとした人体があった。



ゲームマスターの宣言が、部屋に響き渡る。しかし、その言葉は有り得ないはずの言葉だった。結果が信じられない犬音は、モニターに叫ぶ。録画であることは分かりきっていたが、泣き、怒り、絶望した者には関係なかった。

「どうしてだよぉー!おかしいだろ!!!なんで、なんで彼女が死んだんだ!ありえない!!!どうしてどうしてどうして!!」

ゲームマスターは、淡々と話を続けた。

《参加者が、1人となりました。これにて、ゲームは終了となります。》

「おい!おかしいだろ!!おい!!!おい!!!!!!」

《生き残った方には、賞金を差し上げます。》

「金はいいから!彼女を!!沙耶石さんを!助けてくれよ!!!」

《成功者が1人の為、特別賞金として、30億となります。》

「助けてくれよ!!!頼むよ…………」

《おめでとうございます。》

「………………………………」

《では、次回のゲームで、お会いしましょう。ご視聴ありがとうございました。高評価、チャンネル登録、よろしくお願いします。》

「う゛わ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ゛っ゛ー゛ー゛ー゛!゛!゛!゛」

崩れ落ちる犬音をそのままに、部屋は暗転した。暗い部屋の中に、叫び声は流れ続けた。

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