#3【裏切り】約84%の死

 「どうして!!!」

「キャーーー」

「シンドルヤナイカ!」

骨場の絶対的な勝利が、突如として覆された。亡骸と拳銃が下に下がり、モニターが上がり部屋が明るくなった。その途端、眼鏡の男は犬音に食ってかかる。

「ウソヤナイカイ!!!」

「本当です、信じてください!」

「ジジイ、シンドルヤナイカ!」

「自分じゃないです。外池さんが確認してるじゃないですか!」

「コノオバハント、グルナンチャウカ!?」

「違いますよ!」

「ジャアナンデ、シンドルンヤ!」

「それが分からないから、驚いてるんじゃないですか!」

二人の喧嘩に、眼鏡の男の仲間らしき派手な女が口を挟む。

「まー、私のせいなんだけどね。」

「「「!?!?!?」」」

全員が驚き、眼鏡の男が聞く。

「ホウジョウ、ナニシタンヤ?」

「えー、上光あげみつさん、その人の味方するの?」

「チャウワ。」

「そー、私の能力、発動しただけだけど?」

「ソウヤッタンカ。」

「まー、ね。」

犬音は、ホウジョウに厳しく尋ねる。

「何をしたんですか!」

「えー、言わない。」

「どうして!」

「はー、だって敵に手の内晒す?」

「北条さん!あなたのせいで、人が死んでるんですよ!」

「さー、他人だし。」

「なに!」

怒る犬音と悪びれない北条の間に、上光が割って入る。

「ヒトノイノチヨリ、ジブンノイノチノ、シンパイシタラドウヤ?」

「………………」

「イイカエサンノカ?」

「あなた達に、話が通じない事が分かりました。」

部屋を沈黙が包む。全員が言葉を発さずに、少し時間が流れる。しばらくすると、制服の少女が疑問を発した。

「そういえば、いま弾の無い場所は何処なんですか?」

「「「!?」」」

全員が一斉に思い出す。骨場が死んだという事は、空砲は別の場所だからだ。犬音と上光、少女はその場で考える。外池は走る。北条は叫ぶ。

「あー!上光さん、ボタン押して!!!」

「アッ?!アレ、ドコヤ?」

上光が体中を探す間に、外池は磔台に駆ける。あと一歩で挑戦という所で、ボタンを押す手が向けられる。押したのは、犬音だった。

「ひっ、どうして押すの!?」

「押して、当然です。」

「ひっ、なっ、なんで?」

「北条さんと上光さん、二人の能力が分からないからです。分からないまま挑戦すれば、確実に死ぬ。」

「「「………………」」」


 部屋が静まり返る。北条と上光だけは、ニヤついて余裕をかましている。どうやって弾の位置を変えたのか分からないければ、骨場の二の舞は間違いなかった。膠着状態が続き、とうとう北条と上光は同じ部屋に消えた。外池さんも、自分の部屋にこもった。残ったのは、犬音と制服の少女だけだった。

「………………」

「あの……」

「えっ?」

「私……沙耶石さやいしって、言います。」

「……あぁ、どうも。犬音です。」

「記憶、戻ったんですか?」

「いや、服に書いてあって。」

犬音は服をめくり、名前の刺繍を沙耶石に見せる。

「どうなるんですかね……」

「さぁ……」

「いま、挑戦、出来ないですかね?」

「自分がボタンを押せば、取り消しで空砲が来る。けど、あの二人が持つ能力が分からなければ、骨場さんの様に…………」

「ですよね……」

「どうすれば、いいんだ………………」

「私たち、生き残れるんですか?」

「それは、全員が協力するしか。」

「ですよね。特に、私なんて……」

「なにか、有るんですか?」

「それは……ちょっと…………」

「言いたくなければ、別に良いですよ。」

「どうも………………」

「みんなで、助かりたいなぁ。」

「あの人たち、お金目当てですからね。」

「二人で3億、か。」

「流石にボーナスの30億は、狙えないですよね。」

「どうだろう。他人の命より、お金だろうし。」

「裏切る……かも…………」

「無くはないかもね、考えたくないけど。」

「私、死にたくない……」

「それは自分も。」

「協力します!助かりましょう!!!」

「そうだね、頑張ろう!」


「ねー、どうする?」

「ドウシタモンカ……」

上光と北条も、悩んでいた。早く他の参加者を消したいが、上手く行く方法が思いつかなかった。

「まー、私の能力は、〈二倍にする〉なんだけど。」

「ナニヲ、バイニスルンヤ?」

「えー、前に押した人のボタンの数。」

「ダカラ、ジジイガシンダンカ。」

「そー、あの犬音って奴の後に押したから、二倍になって、二つ戻った。」

「ソンデウタレタカラ、クウホウハマウエカ。」

「あー、上光さんの能力は?」

「オレハ、〈一つ進める〉ヤ!」

「えー、良いヤツじゃん。」

「ソヤ、コレデイケル。」

「おー、どうすんの?」

北条は、上光の作戦を尋ねた。

「ホウジョウ、オマエヤレ。」

「えー、死ぬじゃん。」

「オレガボタンオスカラ、ダイジョウブヤ。」

「でー、どうすんの?」

「オシタラ、イヌネヲオサエツケル。」

「あー、取り消させないって事ね。」

「ソノアイダニ、イケ!ソトイケ、ッテイウオバサンニハ、キヲツケヤ。」

「そー、分かった。」

「ヤルカラ、ジュンビセイ。」

「おー、二人で3億、山分けしようね。」

「オオォ。」


「ひっ…………」

水滴の落ちる音にすら、外池は怯えていた。おそらく自分しか、空砲の位置は分からない。弾の場所を変える力は無いが、チャンスやタイミングが有れば、生き延びられる。

夫と子供のために、生きなきゃ。パチンコなんて、するんじゃなかった。負けを取り戻す為にした借金が膨らみ続け、誤魔化しきれない額になっていた。このゲームで勝って返済するつもりが、こんなにも危険だと思わなかった。

ボタンを握る手は、さらに強くなる。何度も押すが、答えは同じ。2度の振動。誰かが進めるか、挑戦しない限り、位置は変わらない。

「ひっ……、同じだ………………」


「協力します!助かりましょう!!!」

「そうだね、頑張ろう!」

犬音と沙耶石の会話を盗み聞く、北条と上光。誰も挑戦していない時点で、空砲の位置は犬音がずらしたままなのは、明白だった。北条の目の前で上光がボタンを押す。コレが作戦開始の合図だった。

「オラアァー!」

「キャーーー!!!」

「危なっ!」

上光が犬音に飛びついた。羽交い締めにして、身動きを取れない様にする。そのまま取っ組み合いになるも、犬音は床に押さえつけられる。

「なっ、何するんです!」

「ワルイナ。ボタン、オサレルトコマルンヤ。」

「なぜ!?」

「ダマッテ、ミトキィ。」

上光が、磔台を指さす。見ると、北条が挑戦しようとしていた。犬音は必死に止めようとする。

「北条さん、待って下さい!」

「えー、なんで?」

「いま自分が、ボタンを押しっぱなしなんです!能力を発動したままなんです!!このままだと、確実に死にますよ!!!」

「えー、怖ーい。」

「だから、待って下さい!」

「まー、大丈夫だから。」

「どうして!?」

「えー、だって、進んでるから。」

「進んでる!?!?」

「そー、上光さんの能力でね。」

「能力!」

犬音は、上光を見る。

「ソウヤ、オレノチカラハ〈一つ進める〉ヤ。」

「だから今、空砲は。」

「マウエヤ。」

「なら、安全なのか?」

「ヨカッタナ、シニンガ、デナクテ。」

「まぁ。じゃあ、なんで押さえつけるんですか?」

「………………」

「???」

二人が話している間に、北条は磔台に乗った。部屋が暗転し、再び挑戦部屋の様相を呈する。モニターと拳銃が現れる。


《挑戦者が決まりました。》

《生き延びる事が出来るのか。それとも死か。》


北条は、上光に声を掛ける。

「じゃー、先に行くね。」

「オウ!コイツラ、コロシテカライクワ。サキニ、イッテテクレ。」

「おー、またね。」

「……………………」


《では、開始です。[ルーレットリボルバー]!》


北条の額に、赤い点が灯る。ギギギと自動で引き金が引かれる。安心しきって、目を開けたまま北条は構えている。バンッと、破裂音が部屋に響く。そして、ゲームマスターの音声が、流れる。


《参加者、死亡。》


北条の頭には、風穴が空いた。肉片と血が飛び、確実に死亡したのは、間違いなかった。部屋が明るくなる事で明確になる結果に、犬音は驚き怒る。

「どうして!」

「アタリマエヤ。」

「上光さん、なんで?」

「ナンデモナニモ、カネノタメヤ。」

上光は犬音を放し、死んだ北条の近くに寄る。

「テヲクンダツモリハ、ナイ。カッテニ、イイナリニナッタダケ、ヤ。」

「上光!!!」

「オッ、ヤルカ?」

「貴様ー!」

犬音が殴りかかるも、簡単に避けられる。再び殴ろうとするも、逆に上光の拳が撃ち込まれる。その威力で吹き飛ばされ、壁際に転がった。すかさず沙耶石が近寄り、声を掛ける。

「犬音さん、大丈夫ですか!」

「えぇ、まぁ。」

「鼻血が……」

「えっ?」

犬音は、服の袖で鼻を拭う。上光は椅子に腰掛け、二人に話しかける。

「サッサト、チョウセンシタラ、ドウヤ?」

「どうせ、進めてるんじゃないですか?」

「サー、ドウカナ。」

「北条さんを、どうやって騙したんですか?」

「カンタンヤ。アイツノメノマエデ、ボタンヲオシタ。ソシテ、オマエヲオサエツケルマエニ、マタオシタ。ソレダケヤ。」

「取り消したのか。」

「イマ、クウホウハ、ドコヤ?」

「ちょうど、真上!」

「ラシイデ、オクサン。」

上光は、犬音たちよりも、後ろに声をかけた。二人が振り返ると、外池が立っていた。手には、ボタンを握りしめていた。

「ひっ、本当だ……」

「待って!待って下さい!!!」

外池は、犬音の静止を聞かず、磔台に手をかける。そして、挑戦を開始した。部屋が暗転し、銃が下から上がり、モニターは上から下に降りてくる。三度目の音声が、鳴り響く。


《挑戦者が決まりました。》


「外池さん、ダメです!」

「ひっ、コレで、コレで助かる。」

「上光は、弾を進められるんです!!」

「ひっ、それって……」

「自分はボタンを押せてない!つまり、能力が発動されてたら、確実に死にます!!!」

「ひっ、ヒイィー!」


《生き延びる事が出来るのか。それとも死か。》


「ひっ、死にたくない!」

「ボタン、ドウヤッタカナー?」

「ひっ、死にたくない!!」

「オシタカノー?」

「ひっ、死にたくない!!!」

「オシテナイカノー?」


《では、開始です。[ルーレットリボルバー]!》


「ひっ、助けて!助けてーーー!!!」

外池の叫び声が、部屋に響く。その声を遮る様に、銃声も轟く。無音の部屋の中、ゲームマスターの音声が広がる。


《参加者、死亡。》


弾丸は、外池の希望と生命を断ち切った。

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