辛辛魚完食伝説記~中編~

続いて、ライブ配信がどのように進行したのかその経緯を時系列に記す。


1:00 :見てくれている視聴者たちに彼女が「こんにゃじは~」と儀式を行う。

その際に辛い物を食べるときに「空腹でヤバイと思ってちょっと腹を満たしてきた」と吐露する。

まず、彼女が「こんにゃじは~」と儀式を行ったことは、激辛通が激辛食品を食べる上で欠かせない行為であり、視聴者も概ね理解していた。もはや、常識ということだ。

また、この言葉は日本語で”こんにちは”と意味するものが有力ではあるが、一部界隈では世界破滅における何かの呪文だという説やマラガシ語(マダガスカル共和国の公用語)で『私はあなたを尊敬する』という別の言葉ではないかという説が飛び交っているが、今回は視聴者に挨拶しているという意味で間違いないだろう。

また、激辛を食べる際にちょっとだけ腹を満たしておく行為も激辛を食すプロとして流石である。しかも、それが無意識に行えている時点でハーバード大学に首席で推薦合格出来る程、天才的な頭脳の一部が垣間見えた。


9:00 :液体スープと辛辛パウダーを、先に入れた。

この2つは、お湯を入れてから4分後に後入れで、混ぜて食べるというのが、本来の食べ方であるが、彼女はあえて逆のやり方をやることで、誰もやったことがないことを自ら進んで行うというアピールになる。中々できることではない。ただし、これは彼女のミスといった見解が高く、私が唱えている説は少数派ではあるが、いずれにしよ真偽は定かではない。


16:40 :大事なパウダーを入れ忘れる。

パウダーのことを忘れていて、お椀によそって食べようとしていた彼女を、応援に駆け付けた友人が「粉入れた!?」と、注意喚起を促し、無事にスープが赤くなった。もし、この一言いちげんが無ければ、【あの伝説の完食動画】は生まれなかったであろう。


19:10:「辛い!」と訴え始める。

食べ始めてから、40秒ほどが過ぎた。順調に辛辛パウダーの付いた麺を、ダイソンの掃除機のようにむさぼるが、啜るのを一区切りやめたところで「辛い!」と言い始めた。久しぶりに食べる激辛要素が、一気にきたことで舌がちょっと堪えたのであろう。ただ、彼女曰く「獄激辛の10分の1くらいで、余裕だ」ということであった。流石である。獄激辛を完食した彼女の言葉1つ1つが重く感じる。しかし、スープは飲み干せる気がしないという、彼女らしからぬ言葉も出てきてしまっていた。

激辛は身体だけでなく、心も蝕んでいく危険な食べ物ではあるが、かなり早いタイミングで来たようだ。やはり、一筋縄ではいかない恐ろしい敵を、彼女は今まさに真剣に正面から対峙しようとしている一方で、傍観者の1人である私は応援コメントするくらいしか出来なかった。


20:55:彼女が大好きな刻みネギを、入れて味変を行いはじめた。

さて、そのノートを手にしてるあなた、この行為が行われた理由が分かるだろうか?それは、すぐ近くにある。彼女の好きなネギを、このタイミングで入れるのは【あれ】のダメージを軽減しようとする無意識な本能にすぎない。でも、一度真剣に考えてほしい。もちろん辛さにかかわらず、ネギは麺との相性が非常に良いのは知っている。だが、投入のタイミングが妙に早かったのではないか?もうちょっと食べすすめても良かったのではなかろうか?と不自然に思われた方も多いと思う。

そう!それこそが!


彼女の『方程式』の一部に、もうハマっていた証拠なのだ!


普通の人なら早いタイミングのネギの投入も、彼女はあえてそうすることで、”ネギを含めないと食すことができない”いわば苦戦しているという状態を作り上げ、激辛ラーメンが得意なはずの理想イメージを、覆して破壊していたのだ。

世間では、これを「ギャップ萌え」と呼んでいる。

もし、理想イメージが石や岩で、『方程式』がハンマーだとしよう。ハンマーを振り回し破壊したら、岩はどうなる?もちろん、大きな衝撃波ダメージが与えられ、粉々になるはずだ。それを、ライブの視聴者に向けて行っていたのだ……。大きな犠牲を厭わずに。


何と、末恐ろしいVtuberであろうか。やはり、彼女は只者ではなかった!これで、チャンネル登録者3000人程度の人数は、あまりにもあまりにも酷い仕打ちではないだろうか!

一応、『無意識な本能』という言葉を表現チョイスした。他にいい言葉が見当たらなかった。しかし、これだけは言える!そのように見せるために計画された彼女の戦略ストラテジーであるということだけは!

それに気付き魅了された私は、吹っ飛ばされ四方の壁が藻屑もくずとなった。

だが、想定外の事態が1つ。入れたネギの量が少し多かったらしい。


24:20:「辛い」だけではなく、「痛い」とも訴え始める。

舌に多くの衝撃波ダメージや今までの辛さが蓄積し、全身が悲鳴を上げた。彼女の生命ライフが、じわじわと削られてる証拠だ。だが、負けるな!確かに、生命ライフは、減っているが0にはならない。屈してはいけない!ここで、踏ん張らなければ、いつ敵と戦うことになるのかという話になる。


27:22:辛辛魚の大半が激辛スープになった。麺は、1割ほど。

食べ始めてから約10分後、麺はほとんど食べたことになる。何という事だろうか!体調が思うように良くなく苦戦しているとはいえ、ものの10分で麺が残っていない状況は、すごいという言葉しか見つからない。なかには視聴者が、「そんなに早く食べ進めて大丈夫?」と心配する様子も多々あった。本当に心が強い。ただ、逆に言うと、「喉が焼ける」ことを今まで渋っていたが、飲まないといけない現状にまで追い詰められたという事でもある。彼女は果たして、無事に生還することができるのか。


29:15:ぷにゃじ、まさかのカミングアウト。

「よくお尻から、血でたりすんねん(笑)。」彼女から衝撃のカミングアウトを、関西弁で軽々しく語っていた言葉だが、場合によっては大きな問題にもなりかねない。血が出る理由や頻度、あるいは”生理”なのかという詳細は分からない。

「口からの嘔吐・吐血の可能性」も捨てきれない。医師からのドクターストップがかかった事実から考えても、納得がいく。だが、もう半分は…。

これ以上考えるのはやめよう。いずれにしよ、杞憂に終わればいい。

そのくらい激辛で人生が変わってしまってもいい犠牲の覚悟を相当持っているということだ。何かイヤな予感がするが…。


31:03:冷たくなってきて、食べるペースが早くなってきたようだ。

食べ始めてから約13分後、残りがほとんどスープだけになっていた辛辛魚を、時間をかけて冷ますことで、辛味成分を鈍くして飲みやすいように工夫している行為だ。

こんな辛い物を食べている途中は、思考が止まってしまうのが普通ではあるが、彼女の集中が途切れていない何よりの証拠エビデンスだ。

それと同時にネギとスープしかないのは、今考えたら彼女の勝利が自信から確信に変わる始まりだった、…ともいえよう。


33:15:顔が乾燥して痛いのか、辛さで痛いのかが分からない程の痛さを、訴える。

本当は顔だけでなく喉も焼かれていて痛いはずなのだが、視聴者に不安を感じさせないようにしているのか、言葉を濁していた。その15秒後にせき込んでいるので、やはり隠し通せなかったようだ。敵は、まるで完食させまいと胃の中で必死に抵抗してきているようだった。


35:50:ぷにゃじ、突然の大爆笑。

もう激辛スープが5~6割ほどの量になった頃、激辛の悪魔にでも囁かれたのか突然大爆笑し始めた。約20秒間も爆笑した。この状態は、はっきり言うとヤバい。身体の容量限度キャパシティーリミットが激辛の負荷に耐えられなくなり、精神崩壊メンタルブレークを起こす一歩手前、すなわち自覚症状を引き起こした。

このまま放置すると、激辛しか味が分からなくなったり、激辛しか求めなくなったり、ハーブだけでは物足りず唐辛子を直接かじったりと、完食しても後遺症として奇行的な行動を取ったりする。

最悪の場合、死に至るケースがある。(年間死亡者数:約2万人)


36:45:鼻水が止まらなくなり、耳が痛くなる。

これも、後遺症の1つである。完食しても数日後に、鼻水が止まらなくなることで過呼吸・呼吸困難になり、Vtuberの活動が出来なくなるかもしれない境地に立たされている。何とか大丈夫だったが、他人から見てみれば、命を削ってるという他に見当たらない。


38:30:ライブの視聴者から、「頑張れ」とメッセージを送られる。

ここまででも筆者の私を含め視聴者が、たくさんの応援メッセージやスパチャを彼女に送ったはずだ。この時間帯は、特にメッセージがたくさん溢れていた。一人一人が何かできることはないかと彼女と団結して戦っているように感じ取れたのは、私だけだろうか?


38:47:ぷにゃじ、突然の大爆笑(2回目)。

ここで、2回目の大爆笑を引き起こした。かなり重症だ。彼女は辛さと痛覚に戦っているが敵もまた彼女の身体に抵抗してきているのだ。


44:25:ついに完食!

食べ始めてから約25分後カップの中には、麺とスープとネギはなく、辛辛魚をついに完食した!激辛だったはずの辛辛魚ラーメンを見事に平らげてしまう彼女には、賛辞と感謝でしかない。私も視聴者も、一緒に戦った達成感を感じて悦に浸っていた。



その後は、最後まで戦った視聴者に感謝のメッセージと、スパチャを送った視聴者に感謝状を贈呈する時間があった。彼女なりの優しさだ。

文章に書き起こしてみて改めて凄いと感じたのは、激辛を食べることに飛び込む勇気があったこと、激辛ラーメンの配信が1年ぶりで大きな犠牲を伴ってしまうかもしれない。にも関わらず隙あらば挑戦しようとする野望が大きかったことだ。

これは、簡単に見えてなかなか難しい。


さて、筆者の私がここまで「彼女の奮闘する姿」を書いてきたが、なぜだか分かるだろうか。もちろん、彼女のファンだったことも1つの立派な理由ではある。

しかし、もう1つ大きな理由がある。それは…、


私が、辛い物を『自由に』食べることができないからだ…。


説明しよう。筆者の私は小学生のころ、皮膚に強い炎症反応をもつ「アトピー性皮膚炎」に罹り、家の中でも身体を掻きむしる癖がついてしまった。これが日常茶飯事になっていた。今もアトピーと戦っている。そのため、食事においても食物アレルギーはないが、辛い物は汗をかいて患部を悪化させる恐れがあるので、あまり食べない様にしていた。だから辛い物を食べるのが私にとっては、当たり前ではない。


大学生のころ、Vtuberぷにゃじと出会った。その時に見ていたのが、ペヤング獄激辛焼きそばのライブ配信だった。それが、人生を変えた。辛いはずのペヤング獄激辛を、短時間で食べきることに私は驚いた。食べすすめていく途中で”ただの自殺行為やん…。”と思ったことも確か。だが、挑戦を達成した彼女に惚れたことも確かだ。

ふと思った。失敗を恐れず、日々新しい挑戦を彼女は自分から行っている。対して、自分はどうだ?臆病になってないか。失敗やリスクを恐れて、最初の肝心な一歩をだんだんと踏み出せなくなっているのではないか。大事なことを後回しにしていないか。辛い物を完食して、自分の達成感を感じたくないのか。

考えたらキリがないほど安全に行き過ぎてる部分がどうしてもあった。

だからこそ、辛い物を少しずつでも良いから食べる意欲を感じたかった。

それを彼女に教わってくれたことが、きっかけで強く推すようになった。

身を犠牲に!とはいかないが、それでも彼女が辛い物を食べていく姿を思い出すと勇気をくれると思いたかったから。

して辛辛魚を食べ終わった後、彼女のTwitterのリプライ欄にて、こう呟いた。

            

               お疲れ様です!

            また勇気を1つ貰いました。

            ありがとうございました!


それが、”ぷにゃじ”を応援できるたった1つの言葉だと思っている。

彼女が落ち込んでいる時は、私から声を掛けたい。




数日後…。まさか、最悪な展開になるとは思わなかった。それは…。



________________________________


鑑定員「これが、筆者だと思われる ”遺書” です。」

???「”遺書”?日記では無くて?」

鑑定員「いえ。筆者の死が数日経ったころ、机で発見されました。」

???「本人の筆跡なんだね?」

鑑定員「ええ。間違いありません。」

???「………。」

鑑定員「”遺書”を、どうされるんですか?犬塚刑事。」

犬塚いちご「そうねぇ。他殺か自殺か、これで、分かればいいんだけど…。」


← to be contined……





















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る