6.は・や・く

 いつにも増してソワソワしている、彼。

 なんだか、可愛い。

 今日は初めて、彼の部屋に泊まる。

 ただ、泊まるだけ、って言ったのに。


「風呂、先入る?」


 ご飯は外で済ませてきて、彼の部屋で少しだけ飲み直し。

 いい感じに酔いが回ったところ。

 なんていい、タイミング。


「じゃ、先に入ろうかな」


 一人暮らしの割には広めのお風呂。

 ゆったりと、足を伸ばして、湯船に浸かって。

 ほどよく温まった体を彼の用意してくれたバスタオルでしっかり拭いて、裸の上に彼のTシャツをかぶる。


 …もうちょっと、丈が長いほうが、有り難いんだけど。


「お先に」


 部屋に戻ると、バスタオルを手に彼が立ち上がる。


 目が泳いでるよ?

 分かりやすいね。


「体冷えちゃうから、ベッド入ってるよ」

「うん、わかった」


 思わず、お風呂に向かいかけた彼に、後ろから声を掛けた。


「はやくね」

「…えっ?」


 キョトンとした顔の彼に、あたしはもう一度、ゆっくりと言った。


「は・や・く」


 顔を赤くした彼が、あたふたとお風呂へと駆け込む。


 大丈夫かな?

 鼻血出てたりして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る