5.なきたくなるほど

「じゃあ…おやすみ」


 久し振りの、デートの帰り。

 彼は、いつものようにあたしを家の前まで送ってくれた。

 そして。

 いつものように、名残惜しそうに背を向ける。


 その、彼の腕をそっと掴むと、驚いたように振り返った。


「おやすみのキス…して?」


 いつもはこんなことしないけど、なんだか彼の背中がいつもより寂しそうに見えて、つい。


 まん丸に見開いた目をゆっくりと細めると、彼はあたしの体を優しく抱きしめて、そして。


 あたしの額に口付けた。


 そのままじっと見つめていると、再び彼の顔がゆっくりと近付き、あたしの唇に軽く触れる。


 だから、あたしは。


 彼の首に手を回して、思い切り唇を押し付け、素早く離した。


「じゃあ、またね。おやすみ」


 ニッコリと笑うあたしを見る彼の目は、嬉しそうに細められていて。

 キラリと光るものが見えた。


 そんなに?

 なきたくなるほど?

 でも。

 あたしも…かな。


 あなたの唇は、なきたくなるほどに温かくて。

 あなたはいつだって、なきたくなるほどに優しいから。

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