第18話 天才少年

 「まぁ、世界では三才からラリーが上手く出来てたっていう選手もいるし……。うーん……。もういいや! 俊介! 君は天才! そういうことで! みんなもいいね?!」


 「まぁ後藤コーチが言うなら……。」「っていうか誰も信じないよ。」「初めてなんでしょ? ラケット持つの……。」「私なんていまだに打点理解できてないのに……。」「天才かぁ……。」


 ……


 うん……。


 ごめんね?

 みなさん本当に。

 でもね、まだオーラを纏わせてないんだよ?

 それでこれだよ? 

 纏わせたらどうなるんだろ?


 怖くて出来ないよ!!!


 「なんでだろ? 身体が勝手に動いたんですよね? 前世でテニスやってたのかなぁ……。なんてね!」


 「! いや! それかもしれない! 僕もね、俊介。異世界転生ものの小説を読むんだよ! そうかもしれないよ! 前世の俊介はもしかしたら世界的な選手だったのかも! 言われてみたらバックハンドはデフェラーより昔の打ち方してるし……。うん! そういうことで!」


 いや、それでいいのかよ、後藤コーチ……。


 まぁこれくらいの脳筋の方が助かるか……。


 「はい! ドンドン打ちたいです! コーチ!」


 「よし! 本当は今日は参加させるつもりなかったんだが……。通常メニューに参加するか?!」


 「はい! 先輩方もよろしくお願いします!」


 こうして共通の秘密を抱えた、北テニスアカデミーの育成コースは連帯感を強めていくのだった。


 でも流石にオーラは纏わないよ?

 あれやったら多分中学生くらいの球が打てそうだから。




 楽しく汗をかいてママと帰宅。

 パパも帰ってきて三人で楽しく食事……。


 ってことにはならなかった。


 「ちょっとあなた! 聞いてよ! 俊ちゃんは天才らしいわよ!」


 「ん? さやか。少し落ち着こうか。天才って? 何があったんだ?」


 「落ち着けないわよ! テニスのね、体験に行ったのよ、今日。で、試し打ち? みたいなのをしたの。小学生のみんなに混じって。そしたらね! 初めてラケットを持つ俊ちゃんが一番上手にボールを打ってたのよ! 初めてよ?!」


 いやいやいや。

 流石に一番じゃなかったよ。

 タカシさんとキョウコさんは群を抜いて上手だったし、中には光るものを持ってる先輩もいたし。


 「へえ、そうなのか? 俊介?」

 

 「うん。一番ではないけどね。なんかデフェラーのように! って思ってたら上手く打てたんだ。みんなビックリしてたけど僕が一番ビックリしてるんだけどね。」


 「そうかあ。こりゃオリンピックも目指してみるか? なぁんてな! ハハハハハ。」


 「オリンピックどころじゃないかもよ!! 世界一も目指せるかも! もう! 私たちにも取材来るかもだわ! ああ、新しいお化粧品買わなきゃ! いやお洋服もいるわね……。」


 うん


 ママが嬉しそうでよかった。


 でもこれでトレーニングにも時間を使えそうだな。


 興奮したママはその後も妄想を続け、僕は一人2階の部屋に上がり今日の修行をして寝たのだった。

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