第2話 旧友との邂逅

 来てしまったな、チベット……。


 後悔は無い。

 貯金も無くなったけど。

 四十を前にして思い切ったとは思うけど。

 でも後悔は無い。


 




 大学時代と違ったのは、バスではなく電車でチベットの首都、ラサまで行けた事だな。

 何日も掛からなかった。

 しかもラサ、少し町になってるし。


 俺はチベットの街、ラサに着いてヤムリを探した。

 あのチャクラやオーラが気になっていたから。


 ポタラ宮殿という宮殿に行く途中、僧侶の格好をした若者に話しかけてみる。


 「ちょっといいかな? ヤムリっていう俺と同い年くらいの僧侶、知らないかい?」


 「……。はい……。ヤムリですか……。お兄さん、何者ですか?」


 「ん? 俺? 日本から来た木下矢来って言うんだけど。十五年前くらいかな? ヤムリと仲良くなってさ。また会いに来たんだ。」


 「あぁ、なるほど。それではヤムリさんがリンポチェになられたのをご存知ないのですね。三年前に前シャマル•リンポチェに変わり、ヤムリさんがシャマル•リンポチェを受け継ぎました。」


 「え?! そうなの?! リンポチェってダライ•ラマとかそういう高僧じゃなかったっけ?! ヤムリが?! マジかぁ……。じゃあ簡単には会えないかぁ……。」


 「いえ、あなたは確かにお知り合いのようですし、悪い感じはありませんしね。僕から連絡してみますよ。ちょうど僕もお世話をさせていただいている僧の一人なので。」


 そういうと、若い僧侶は案内してくれる事になった。

 しかし、ヤムリがなぁ。

 あんなけ修行について語っていたし、かなり存在感もあったから不思議ではないか……。

 昔みたいに語りたかったけど、やっぱ無理かなぁ。


 なんか思いがけない事実を突きつけられ、戸惑いながらも近くの茶屋に案内された。

 ここで待っていてくれ、と言われて大人しくバター茶を飲んで早1時間。


 「お待たせしましたね。リンポチェがもうすぐこちらに来られるそうです。あんなに驚いて嬉しそうなリンポチェは初めてみました。」


 「あ、そう? まぁ1日しか一緒にいなかったんだけどね。確かに通じ合ってた気はするなぁ。ヤムリもそう感じてくれてたなら嬉しいよ。」


 「はい。急いで来るようですよ? リンポチェも会いたかったのかもしれませんね。」


 


 

 なんか、自分だけではなく、ヤムリも会いたがってると聞くと嬉しくなる。

 あまり、恋愛に興味はなかった俺だから、同性とはいえこんな気持ちになるのは初めてかもなぁ。


 あ、俺の恋愛対象は女性だからな! って誰に言ってるんだろ、俺……。


 



 そうこうしているとバタバタと大きな音をさせて人が茶屋に入ってきた。


 「ヤクル!! やはり来てくれたか!! 待っていたのだ! ヤクルよ!」


 なんだか想像よりも慌ただしいぞ? 

 大丈夫か?

 

 「ヤムリ! 久しぶりだね! っていうか、待っていたってどういう事? 来たいとは思っていたけど、帰ってくるって言ったっけ?」


 「いや、悪いな。こちらの都合だ。ここではなんだから、宮殿の方に来てくれるかい?そこで深く話をしよう。疲れているだろうから暖かい湯も用意するよ。」




 


 そういってポタラ宮殿に向かったのだ。

 まさかこのまま宮殿から出られなくなるなんて、もちろんこの時の俺には分からなかった。

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