Part2

「ここだよ、あたしの家」

「ここって……」


 サラの後を追って山を下り、麓を少し歩いた先の町。その奥に堂々と佇む立派な家の前に着いたクラリスは、驚いたような表情を見せる。


「パパ、ママ、ただいま! お客さんが来てくれたんだけど……」


 そんなクラリスより先に、サラは両親に来客の許しを得る為に家に入っていく。

 結果は了承を得られたのだろう。しばらくして再び出てきたサラは、玄関の中から手を振ってクラリスを招いた。


「お、お邪魔します……」


 ぺこりと一礼。その後靴を脱いで家へと入ったクラリスは、辺りを見渡す。

 貴族の豪邸程ではないが大層立派な家で、クラリスの故郷の家とは比べるべくもない。短い間とはいえこんな立派な家で過ごすのかと、クラリスは内心少し浮かれていた。


「ようこそ我が家へ。娘が迷惑かけてすみません」

「どうかくつろいで言ってくださいな」

「どうも……」


 サラの母と父に出迎えられ、案内されるままにリビングのテーブルの椅子に座るクラリス。その前にこの家の主であるサラの父が座ると、早速互いに自己紹介をする。


「私はこのクルムの町の町長のブラウンです。よろしく」

「クラリス。ギルドの依頼で来た……」

「なんと、あなたがクラリスさんでしたか」


 互いに驚いたことだろう。サラに連れられて来た家がクラリスの目的地の依頼主の家であり、娘が連れてきた友達がギルドの依頼で来ると伝えられていた剣士だったのだから奇遇なものである。


「あれ、パパ知ってるの?」

「あ、ああ。ちょっとね。パパはクラリスさんとお仕事の話があるから、少しお部屋でいい子にしていてくれるかな」

「はーい」


 偶然にもこのような巡り合わせとなった以上、まずは依頼の案件についての話から。ブラウンはサラを一旦部屋に行かせると、改めてクラリスと向かい合う。


(なんて華奢な身体だ。まるで病人じゃないか)


 だが同時にブラウンは、不安を感じずにはいられなかった。クラリスという女剣士が来るという事はギルドから伝えられていたものの、まさかそれが病的なまでに華奢で今にも折れそうな身体の少女が来るとは思っていなかったのだ。


「信用、できない……?」

「っ!?」

「大丈夫、慣れてるから。それより内容は」


 そうした目で見られるのも、クラリスにとっては慣れた事。舐められるなど日常茶飯事だ。相手が敵であればそれすらも利用している節さえある。


 そんな事より本題をと、クラリスに急かされたブラウンは依頼内容を説明し始める。


「一ヶ月前、都市からこの町に物資を運ぶ輸送隊がここ、ドラン峡谷で火吹き鳥に襲撃されて全滅しました。それ以降人の味を覚えた火吹き鳥は度々渓谷を通る輸送隊を襲撃して、今も物資が十分に届かない状況が続いています」

「つまり……火吹き鳥を、殺せばいい」

「申し訳ありませんが……お願い致します」


 火吹き鳥。その名の通り火を吹く能力を持った怪鳥で性格は獰猛。輸送隊を襲うこの火吹き鳥を討伐せよというのが、今回の依頼だ。


 だがクラリスは、テーブルをドンと叩くと睨みながら言う。


「嘘はやめて」

「な、なんの事でしょうか?」

「火吹き鳥は確かに荷物目当てに輸送隊を襲うけど、積極的に人は殺さない。荷物を盗んで逃げるだけ。食べて人の味を覚えるなんて以ての外だし、襲われて全滅なんて聞いた事もない」

「それは……そう、特殊な個体の可能性も……」

「予想はついてるからいい」


 この件、火吹き鳥の仕業と考えるにはおかしい点があり過ぎるのだ。

 そもそもクラリスの言うように、火吹き鳥は人を襲いはしても殺しは殆どしない生物である。火を吹いて人を脅かし、怯んだスキに荷物を強奪するというのが火吹き鳥の人間相手の狩りのやり方だからだ。人を殺して喰らう。そんな例など皆無である。


 狼狽え方も見るに、町長ブラウンが嘘をついていたのは間違いないだろう。真実の目星はついているので問い詰めるつもりはないが、呆れと失望のこもった視線をブラウンに向けてクラリスは言う。


「でもお金がないから嘘をついたとしても、その嘘で死ぬ人がいる。忘れないで」


 そしてそれだけ言い残すと椅子から立ち上がり一瞥。玄関の方へと歩いていった。


「ど、どちらへ……」

「下見」

「あの、シチューは……」

「物、ないんでしょう。家族で大事に食べて」


 見捨てられた。否、先に彼女の生命を見捨てたのはこちらだと。騙そうとした以上当然だとは解っていながら、ブラウンは去っていくクラリスの背中を呆然と見送るしかなかった。

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GOSPEL PAIN ~「穀潰し」と呼ばれ村を追われた病弱少女、不死の力を授かり世界を救う聖女となる~ スグリ @sugurin

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