Part4
(暗い……)
どれだけの時が経ったかはわからない。そもそも何故ここにいるのかもわからない。
そんなクラリスが暗闇で目を覚ますと、光を求めて手を伸ばした瞬間だった。
「っ……」
手に重さが伝わると共に、突然眩い光が目に射し込んで思わず目を閉じる。
そんな彼女の様子を目の当たりにした神官は、信じられない様子で目を見開いていた。
「な、そんな馬鹿な!?」
「確か私、草原で獣に殺されて……」
クラリスが目を開けると、そこは大神殿の中の小聖堂。それも普段の聖堂ではなく、死者を弔う葬儀の準備が整えられた状態だった。
草原の獣に食い荒らされ、惨殺されていた筈の自分が何故教会にいるのか。意味がわからない様子のクラリスに対し、神官の顔は恐怖に染まっていた。
「死者が生き返るなど、そんな筈は……!」
死者が生き返る。確かにそのような魔法の研究はされているが、未だ実用に至ってはいないし、そもそも彼女の死体に魔法など使っていない。
なら何故、この少女は生きているのか。そもそも無残に食い荒らされて原型も留めていなかった筈の身体は、いつの間に元通りになったのか。
もしや、悪魔なのではと。そんな考えも頭によぎり、処刑も考えた矢先だった。
「これは、紋章が光って……まさか!」
神官は目撃した。クラリスの手に、他者には見た事がない程の光を放つ加護の紋章を。
その瞬間、彼の考えは180度入れ替わった。
「素晴らしいッ! まさに神が与え給うた奇跡!」
「私、どうなって……」
「かつてこれ程までに、神に愛された人間はいただろうか! 否、いる筈がないッ!」
状況がまるでわかっていないクラリスの問いが聞こえない程に、興奮を顕にする神官。何せ彼は未だ誰も、大神官も、大神殿の中枢の者たちも見た事のない、前代未聞の神の奇跡を目撃したのだから。
「もはや加護などではない、これは祝福だ! 神の寵愛だッ! 祝福の剣士クラリスよ、光栄に思うがいい! 君はたった今、神の一族へと迎え入れられたのだ!」
加護の剣士を生み出し続けて百年以上経って初めての奇跡。後にこの出来事は、聖女の降臨として大神殿を震撼させる事となる。
こうしてクラリスは世界で唯一の「祝福の剣士」。例えその身を切り裂かれようと、焼き尽くされようと、決して死する事のない「不死者」となった。
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