第25話 魔王と勇者達(後編)

 ジャックを倒したアビスに仲間達が声をかける。


「凄かったよ、アビ姉かっこいい! 」

「流石は俺が見込んだ猛者だ。俺はレイとの勝負に集中してるから残りの2人も頼んだぞ」

「ええ、ですが疲れたので少し休憩させてください。その間、ヤミには負担をかけますがお願いしますよ」

「えっ、ボクは? 」

「貴女はトライアウトで頑張ってください」

「戦力外!? いや、確かにそうだけどさ。ヤミちゃんは戦ってくれるよね? 」

「うむ、相手が勇者となれば我もウカウカしてられないのう」


 ニヤリと笑うヤミとその背中に小さく隠れるキルライトの前に、アイドル勇者アイとゲーマー勇者子供Aが立ち塞がる。


「ボク、アイちゃんとは戦いたくないな。やっぱり友達を傷つけるのは嫌だよ……」

「じゃろうな、なら我がアイ嬢の相手をしようかのう」

「ヤミちゃんは絶対魔法で消し飛ばしたりちゃダメだよ! なるべく優しくダメージを与えてあの世に返してあげてね」

「うむ、任せてくれなのじゃ」



☆ ☆ 十分後 ☆ ☆



「よしよし、アイ嬢は無事に無力化したぞい」

「あへぇ♡ お尻でイクッ♡ 」

「アイちゃん!?!?!?!? 」


 ヤミが作り出した謎の魔法空間に連れ込まれていたアイは変わり果てた姿で戻ってきた。目隠しをされ、全身を紐で縛られ、尻に卒塔婆をぶち込まれていた。


「あの魔法空間の中はこちらの1分が100年の時間となっていて、みっちり1000年分尻穴開発をしておいたぞい」

「しておいたぞい、じゃねーよ!? 返してよ! ボクのアイちゃんを返してよ! 」

「大丈夫じゃ、前の穴には手を出しておらん。アイドルじゃから身体は大切にせんとな」

「アイちゃん……、どうか気を確かにしてよお」

「あへぇ♡? 」

「別に心配せずともこのアイ嬢は体験版の魔法陣で生まれたゾンビじゃから、本人のコピーみたいなもので本人ではないのじゃが? 」

「偽物のハピちゃんを助けたアビ姉の気持ちが今ならわかるよ……」

「これと比べられるのは甚だ心外ではありますけど? 」


 SM衣装を着せられて身体をビクンビクンとさせるアイの尻に突っ込まれている卒塔婆をヤミが握る。


「ちなみに調教の成果として面白いものができたのじゃ。この卒塔バイブを激しく上下するとのう」

「おぼっ♡ なんみょ〜、ほーれん、げ〜きょ〜♡ 」

「日蓮宗!? 」

「宗教冒涜するために生まれてきたオルゴールですね」

「ギャアアアア、このお経を聞いていると某の身体が天に昇っていく気持ちになるのデス!? 」

「思い込みの激しいリッチが消えちゃう!? 」


 アイドルのオホ声お経を聞いて天へと昇るリッチ、ある意味全男性の夢であろう。その顔は安らかなものであった。



 八魔将軍不死王リッチ、成仏!!



「リッチが逝ってしまいましたか、まだ使い道はあったと思いますが残念です」

「リッチさん、どうかあの世に行ってもアイちゃんの無惨な姿のことは言いふらさないでください」

「まあリッチの性格を考えると大丈夫じゃと思うぞい、知らんけど」

「いつかきっとアイちゃんの仇取ってやる……」


 絶頂していたアイは激しい快楽に疲れてしまったのか汗だくでその場に倒れるとだんだんと身体が薄くなって消えていく。どうやら彼女の魂も無事? に天へ昇って行ったようだ。


「さあ次はゲーマー勇者だね。ヤミちゃんは適当にやっちゃってよ」

「うむ、身体を原子レベルに分解して凌辱した後、すり鉢ですり潰してその粉をウンコにかけて太陽に向かって投棄してやるのじゃ」

「殺意が高い!? ヤミちゃんはそんなに恨みがあるの? 」

「恨んでないぞい、個人的理由で抹殺したいだけじゃ」

「よくわかりませんが、相当ムカついているようですね」


 ゲーマー勇者はヤミを見てせせら笑うとどこからともなくテレビとゲーム機を取り出して電源を入れる。


「おい雑魚、ゲームで勝負しよ。それとも怖くて戦えないのかな? 」

「はあああああっ!? このガキぶっ潰すのじゃ、このゲーム負けたら全身の穴という穴を犯されるということを知っておるよなあ? 」

「闇のゲームかな? 」

「いいよ、どうせ雑魚には負けないし」

「コイツ、死刑決定じゃ! 」


 ヤミはコントローラーを握って吠える。特に意味があるのかわからないが全身念入りストレッチしている。


「じゃあ勝負内容はマリオカートね。そこの二人も一緒に相手してあげる」

「ボク達もやっていいの? 」

「いいよー、キミ達の内で誰でもいいからボクより順位が上なら勝ちだよ」

「よいか? 参加するのは勝手じゃが我の邪魔だけはするでないぞ? 」

「私はこういうのはあまり得意ではないのですが……」


 キルライトとアビスもコントローラーを手に取ってゲームに参加する。アビスは簡単な回復魔法で猛毒と骨折を簡易治療していた。


「徹底的にボコボコにして二度と我に逆らおうと思えなくしてやるのじゃ! 」

「それはこちらのセリフさ、じゃあ勝負だよ! 」



☆ ☆ 10分後 ☆ ☆



「くっそがああああっ、コントローラーが壊れてたせいで負けたのじゃああああっ!! 」


【順位表】

1位 ゲーマー勇者

2位 キルライト

3位 アビス

4〜7位 CPU

8位 ヤミ



「なんでヤミちゃんはボク達にも負けてんの? 」

「というか最下位ではないですか? 」

「うるさいのう! だからコントローラーが壊れていたと言っておるだろうが! 」

「いや、ヤミちゃんは壁にぶつかりまくってたじゃん。アイテムも取った瞬間、考えもせずに使ってたし」

「無茶苦茶な動きをする邪魔な障害物があるなと思ったら、一周遅れのヤミだった時は目を疑いましたよ」

「ね、言ったでしょ? コイツ雑魚なんだよ」

「があああああっ、このクソガキ殺してやりたいのじゃあああっ!! 」


 ヤミはコントローラーを放り投げて地面をゴロゴロと転がる。アビスとキルライトは冷ややかな目で年長者である彼女を見つめていた。


「ヤミちゃんって、もしかしてゲーム下手くそなのかな? 」

「もしかしなくてもそうでしょう。とりあえずゴリ押しすればなんとかなるというプレイングしてますよ、確かに現実ならそれもできるんでしょうけどね」

「じゃあゲームじゃなくて現実で勝負すれば? 」

「嫌なのじゃああっ!! 我はゲームで勝ちたいのじゃああっ、我TUEEEEしたいのじゃああっ! 」

「ヤミちゃんの実力なら現実でいくらでも俺TUEEEEできるでしょ? 」

「やだやだやだあああっ、ゲームで勝ちたいいいいっ! 」

「所詮ゲームになに熱くなってんでしょうね……」


 玩具屋の前で駄々をこねる子供のようにジタバタするヤミ。彼女は地球の文化を持ち込んだ張本人としてゲームに対するプライドがあるようだ。一方、同じ子供であるゲーマー勇者は勝ち誇っていた。


「キミ達の実力じゃあ百万年たってもボクには勝てないね」

「百万年たったらキミ死んでない? 長生き対決ならヤミちゃんが有利だよ? 」

「ものの例えも知らないなんでバカなアイドルだなあ? まあ頭空っぽのオタサーの姫みたいな奴には負けないけどねえ? 」

「イラッ!? 」


 キルライトが眉をピクピクさせると、ちょうどその時テレビ画面からピコンと効果音が鳴る。


『ユーザー【キルちゃん親衛隊413号】がログインしました』

『ユーザー【キルちゃん親衛隊98号】がログインしました』

『ユーザー【キルちゃん親衛隊1号】がログインしました』

『ユーザー【キルちゃん親衛隊7777号】がログインしました』


「なんだ? 勝手に変な奴らが勝負に参加してきたぞ? 」

「あっ、それボクのファンかも。さっきの試合をボクの動画チャンネルで配信してたんだ。ルームIDを見てやってきたのかも」

「ふうん、まあ何人来ても一緒だよ。いくらでも勝負を受けてやるさ」

「ボクのファンが勝っても、ボク達の勝ちにしてくれる? 」

「いいよ、勝てたらね! 」


 ゲーマー勇者は勝利を確信した表情でそう言い放った。



☆ ☆ 30分後 ☆ ☆



「もうやめてよおおおっ!? ゴールさせてよおおおっ!! 」


 ゲーマー勇者は泣きべそをかきながら震える手でコントローラーをガチャガチャしていたが、それは無意味であった。


『このガキよっわwwwwwww』

『キルちゃんを煽るとか万死に値する』

『おらおらかかってこいや(笑) 』

『トイレから帰ってもまだ1ミリも進んでなくて草』


 キルライト親衛隊は集団でゲーマー勇者に集中攻撃をしてボコボコにしていた。本来の目的であるレースなんて関係ない、ただのリンチが繰り広げられていた。


「この親衛隊の人達、無駄に技術高くないですか? まるで生きてるように動いてますよ? 」

「ボクのファンはゲームとか好きな人多いからねえ。やり込んでる人も当然いっぱいいるよ」


 キルライト親衛隊の中には全てをゲームに捧げた選ばれし者、別名『人生の落伍者』が大勢いる。そいつらにとってゲーマー勇者など日々のストレスを解消するためのサンドバッグでしかなかった。


「もうやだあああっ、こんな世界大っ嫌い、ボクもうあの世に帰る! 」


 ゲーマー勇者は試合放棄をして泣きながら走り去ると、その身体は光に包まれて消えてしまった。


「おや、敵前逃亡とは我に恐れをなしなたかのう? はい、それなら我の勝ちー! 」

「ヤミちゃん? もし次に悪いことしようとしたら、ヤミちゃんのゲームにボクの親衛隊送りつけるからね、そして延々と邪魔してあげるよ」

「ひっ!? わ、わかったのじゃ!? アイ嬢にした仕打ちについては謝るのじゃ! だからそれだけは勘弁なのじゃ! 」


 ヤミは大袈裟なくらい土下座をして頭を何回も下げる。


「あの竜王がスライムに土下座とか不思議な世の中になりましたね」

「それよりも残る勇者はノワ兄が戦っている初代勇者レイだけだよ。勝負はどんな感じなんだろ」


 キルライト達がノワールの様子を見にいくと、ノワールとレイはまだお互いに向かい合いながら戦闘を繰り広げていた。


「さらに腕をあげたなレイ、あの世でも修練をつんでいたのか? 」

「…………はい」

「そうか、それならば俺に遠慮せず全力で来い! お前の剣には少し迷いが見えるぞ! 」

「…………はい」


 その瞬間、ノワールの脇腹が裂けて鮮血が噴き出した。


「ノワ兄が攻撃を受けたあああっ!? 」

「しかもあのノワールはマジ本気モードです。それに傷を与えるなんて、初代勇者は神か何かですか? 」

『いい質問ですね、アビスちゃん』

「クソ女神は何か知ってるんですか? 」

『ええ、そりゃあもちろん。初代勇者は私が唯一女神の力を与えた勇者ですからね』

「どうして女神の力を与えたの? 勇者になりそうだとか、心が綺麗だとか感じたから? 」


 ごく平凡な質問に対して、女神エステリアは少し勿体ぶったようにためてから話した。


『やべえからですよ、アレは……。アレに私の力を与えたらどうなるのか、ハラハラドキドキの期待をしてしまったのでつい、ね』


 普通の人間には視界に入れることすらできない無数の攻撃がノワールをじわりじわりと傷つけていく。当然、ノワールも反撃はしているのだが、不自然なくらい動きを先読みされ、的確な場所に打ち込まれる剣撃におされつつあった。


「俺の攻撃や動きを次々と先読みするその力、心を読む能力でも身に付けたか? 」

「…………いいえ」

「そうか、俺も不規則な動きで先読みできないように気を付けていたが、まだ甘かったということか」

「…………いいえ」

「お前の考えていることはさっぱりわからん。だがそれも立派な強さだ、やりにくいが楽しいな!」

「…………はい」


 そんな常人を超えた戦いを眺めている仲間達だが、いつもと違い彼女達の表情には不安が浮かんでいた。


「ノワ兄が押されてるなんてヤバすぎるよ。もしノワ兄負けたらボク達も殺されるよね? 」

「魔王を殺したいみたいだからそうでしょう。ここはなんとか勝ってもらいたいところですが、私達にはなにもできません……」

「いや、できるぞい。ノワ坊が攻撃を当てる隙を作り出すことくらいはのう」

「どうやるのヤミちゃん。ふざけた冗談言ったら親衛隊だからね」

「わかっとるから脅すのはやめい! 」


 ヤミは勇者の方をチラリと眺めると、アビスの手をとって大声で叫んだ。


「ノワ坊しっかりするのじゃ! この勝負に勝てばアビ嬢が結婚して毎晩あんなことやこんなことやセックスしてくれるそうじゃぞ? 」

「あんなことやそんなことには何が代入されるの!? 」

「ってなんで私がノワールと結婚しなきゃならないんですか!? 」

「いいから見てみい」


 レイはヤミの言葉を聞くと、兜をアビスに向けた。その瞬間、光速の斬撃がアビスに放たれたが、それを全てノワールが撃ち落とした。


「戦闘中によそ見か? 俺を舐めてもらっては困るぞ! 」

「…………いいえ」


 アビスに注意が向けられていたためか反応がわずかに遅れノワールの攻撃はレイの兜を直撃し、破壊した。


「しまったっ、兜が壊された!? 顔が見られちゃう!? 」


 壊れた兜は地面に落ち、勇者の素顔が月夜に照らされる。


「お前……」


 ノワールの目の前には、晴天のように優しい水色の長い髪をした美しい少女が焦り顔で立っていた。エメラルド色の瞳を細かく左右に震わせて動揺している彼女に向かって、ノワールは言葉を続ける。


「お前……、『はい』か『いいえ』以外にも話せたのか? 」

「そこは普通『お前……、女だったのか? 』っていうところだよ!? 」

「そこ関係あるか? 」

「関係あるでしょ!? レイちゃんの身体を張った一発ネタをスルーしちゃダメ! 」

「ふむ、そういうものなのか。お前……、女だったんだな? 」


 ノワールの訂正に戸惑いながらもレイは深呼吸をしてからコクリと頷いた。


「そう、自分は女よ。そして魔王を倒すべき勇者でもあるの」

「しかしそれを隠すために兜を被り、口調まで誤魔化すとはやりすぎではないか? 俺は相手が女だからという理由で差別はしないぞ? 」


 レイはその問いに対して剣をゆっくりと構えて答えた。


「それは全て貴方のせいなのよ、ノワール! 」

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