第17話 魔王と校長&教師

 圧倒的な強さを持つノワールをなんとかするためにアビスは一つの案を思いついた。


「ノワール! よければ私と殺し合いしませんか? 」

「ようやくその気になってくれたかああああっ!!!! 」


 その瞬間、ノワールはアビスの背後に音速にも勝る速度でまわり込みつつ、手刀をアビスの首に放つがそれは彼女に受け止められた。


「マジでバケモンですね、ノワール」

「俺の刹那の攻撃を受け止められる者はなかなかいないぞ! これは楽しくなりそうだ! 」


 ノワールとアビスはお互いに肉眼で確認することが困難なスピードでバトルを始める。もし常人が巻き込まれてしまったらあっという間に美味しいミンチの出来上がりだ。


「まずい、ノワ兄がアビ姉との勝負にのっちゃった! こうなると戦えるのはヤミちゃんしかいないよ! 」

「すぴぃ〜、ぐがあああっ〜? 終わったら起こしてなのじゃ……」

「誰のために戦ってると思ってんだよ……」

「ふぉふぉふぉ、これはチャンスです。生徒は逃げ出してしまいましたが、ワシら教師達が力を合わせてメスガキに教育してやりましょうぞ」


 今まで物陰に隠れていた魔法学園の教師達がゾロゾロと現れる。卑怯かもしれないがこれも立派な作戦なのだ。


「腐ってもワシ達は教師。若い頃は高名な冒険者であったり、王様直下の魔道部隊所属であったり、幾多の魔族を討伐していた、という設定です」

「設定だけかい!? ボク達芸能界も人のこと言えないけどさ! 」

「だが、魔法の腕はそれなりにある。それこそ生半可な魔族なら瞬殺できる程度のな」


 教師達が呪文を詠唱すると彼等の周りに様々な属性の魔力が渦を巻くように集まる。これにはキルライトもごくりと唾を飲んだ。


「……こうなったらボクだって考えがあるんだから! すんなり負けるわけにはいかないもん! 」


 キルライトは目をキリリとして教師達を睨みつけると、腰に手を当てながら叫び声を上げる。


「白旗あげまーす! ボクの負けでーす! 」


 パタパタと白旗を上げるキルライトの姿はとても勇者とは思えないものであった。


「ふぉふぉふぉ、メスガキが白旗あげたくらいで許すわけありません。メスガキは大人の一方的な合意レイプによって負けなければいけないというのが校則なのです」

「ヤミちゃんはなんでもっと早くこの学園を破壊し尽くしてくれなかったのさあ!? 」

「あれ、よく見るとキルライト殿は『ワシだけを無償で愛してくれるロリビッチ処女サキュバス』に似ていますね」

「もう侮辱罪で訴えるよ? 」

「これは好都合、キルライト殿はワシの運命の相手だったのですね。それならワシの童貞、プレゼントフォーユー。お主はワシの赤ちゃん上手に産めるかな♡? 」

「いやああああっ!? 助けてええええっ!? 」


 このままではキルライトの大した価値のない貞操が危ない! そんな時、一人の少女が立ち上がった。


「やれやれ、そろそろ我の出番か」

「ヤミちゃん! ボクを助けるために目を覚ましてくれたんだね! 」


 涙目のキルライトに向かって、ヤミは得意げな笑みを浮かべてグッジョブする。


「仲間の貞操の危機、これはじっくり観察しなければならぬからのう。ビデオ撮影なら任せるのじゃ」

「このクズ! ゴミ! 悪魔! ちょっとでも信用したボクが馬鹿だったよ! 」

「ふぉふぉ、さすがヤミ殿は話がわかりますね。それではヤミ殿はワシの腕が動かないようにしっかりと押さえてください。ワシの足はキルライト殿に頼みます」

「……それ逆じゃない? なんでボクが押さえるの? 」

「ワシの童貞はロリビッチ処女サキュバスに逆レイプ騎乗位されながらプレゼントフォーユーすると決めているからです」


 地面に横たわりながら息をはあはあと切らしているコーチョー。彼の股間はプレゼントフォーユーのタイミングを今か今かと待ち望み、バベルの塔が建設されていた。(15度くらい右に傾いている)


 そんな彼の股間をキルライトはゴミを見る目で全体重をかけて足で踏み潰した。


「ぐはああああっ♡!? 」


 コーチョー、戦闘不能!!


「クズが……」

「ふむ、キル嬢の覚悟、しかと受け取ったぞい。それでは残りの奴らは我が倒してやろう」


 大人の階段を一つ登ったキルライトに感銘を受けたヤミは残りの教師達の前に歩みを進める。


「ふっ、コーチョー校長を倒した程度でいい気になるなよ? 」

「ああ、コーチョー校長は我ら教師の中でも最強……」

「生徒ごときにやられるとは教師の面汚しよ」

「「………………コーチョー校長がやられたああああっ!? 」」


 最強のコーチョーがやられ、慌てふためく教師達はお互いに押し合いながらヤミとの戦いを避けようとする。


「どうしたのかのう、早くかかってくるのじゃ」

「ヤ、ヤミがきたああっ!? 」

「お、おちけつ!? 首席とはいえ相手は一人、全員で袋叩きにすれば俺達は全身不随程度で済むのでは? 」

「そうと決まればお前は俺を置いて先に行け! 後は任せたぞ! 」

「やれやれ、哀れな教師達よのう……」


 ヤミは呆れ顔をしながら教師達を眺めると腕を大きく回して準備運動する。


「それではハンデをやるのじゃ。我は口を開かないでやろう」

「ヤミちゃん、それって無詠唱ってこと? 」

「そうじゃ、詠唱なしで勝負じゃ」

「でも無詠唱ってめちゃくちゃ威力が弱くなるはずだったけど? 」


 魔法を使うためには詠唱が必須である。魔法の行使のためにはこの世界に住む精霊達の力を借りる必要があるのだが、その精霊達の呼びかけこそが詠唱なのである。すなわち無詠唱であるとどんなに強力な大魔道士さえ、子供の詠唱ありの魔法よりも弱くなるのが通説だ。


「無詠唱の魔法使いなんて怖くないぜ、みんなでヤミに強姦補習授業を受けさせるぞ! 」

「「「おおおおおおっ!! 」」」


 教師達は涎を垂らしながら、勢いに乗ってヤミに向かってダッシュしてくる。そんな彼等の姿を見てニヤリと笑った。


 バババババババッッ!!!!


「「「ぐはああああっ!? なんだこれはあああっ!? 」」」

「これは我が開発した魔道具『ガトリングガン』じゃ。高速で銃弾を連射できるぞい」

「魔道具ってつければなんでも許されると思ってない? 科学兵器使うのは魔法使いの卒業試験としてどうなのかな?」

「この試験はルール無用のデスマッチじゃからのう」

「中忍試験かな? 」


 無数の銃弾に身体を撃ち抜かれた教師達は地面に倒れる。こうして見事ヤミ達は魔法学園の生徒&教師を殲滅することに成功したのである。


「ノワ坊、もう終わったから勝負はそこまでじゃ」

「おっ、もう教師は倒したのだな。ついついアビスとの勝負に夢中になってしまった。アビスもありがとうな、楽しかったぞ!」

「はぁ、はぁ……、そうですね……、私もそれなりに楽しめました……」


(こっちは命懸けだっつーの!? 一応仲間なんだから、もうちょい手加減しろや! )


 肩で息をするアビスはノワールに殺意の目線を送っていたが彼はそんなこと気にするそぶりもなくニコニコ笑っていた。


「でもこれでヤミちゃんも無事に首席で卒業で勇者パーティの仲間入りだね。ようやく全員が揃ったよ、やったね! 」

「うむ、我は魔法使いのヤミ。これから世話になるから覚悟するのじゃぞ? 」

「俺は強いやつが仲間にいるのは大歓迎だ。いつでも気軽に殺し合いしようぜ! 」

「……まともな人間が私しかいませんが大丈夫ですかねえ」


 こうして見事狂人だらけの勇者パーティが成立された。道でばったりあったら誰もが目を逸らして他人のふりをしたくなる素晴らしいパーティである。


 そんなほんわかムードをぶち壊すように遥か彼方の空から無数の飛行物体がやってくる。


 それは魔法学園に大量の影を落としながらノワール達の頭上で止まった。


「愚かな人間よ。勇者パーティを結成したタイミングで皆殺しにして魔王様への手土産としてやろう。自分は八魔将軍のフェニックス、魔王軍直属の空軍部隊によりこれより殺戮を開始する」


 ノワール達の前に現れたのは灼熱の身体を持つ鳥フェニックス。城のような巨体に加え、その周囲には飛龍やアークデーモン、ハーピィなど飛翔能力に優れた魔族が勇者パーティを品定めしていた。


「八魔将軍って現魔王選りすぐりの実力者だよおおっ! いきなり攻めてくるなんて卑怯すぎるよ!? 」

「勇者がレベルアップする前に潰す、それは至極当然のこと。勇者になった己の不運を嘆きながら死ぬがよい」


 勝ち誇るように鳴き声をあげるフェニックスであったが、キルライト以外の面々は慌てる様子はなかった。


「ちょうど良い感じの殺し合い用のサンドバッグが来たな」

「ちっ、フェニックスですか。面倒なやつが来ましたねえ。どう利用しますか……」

「ほほう、飛龍が我に仇なすか。これはきつい調教が必要じゃのう」


 そう魔族達は気づいていなかったのだ。目の前の勇者パーティはその後、歴史上において『最悪の勇者パーティ』と呼ばれるほどのメンバーであったことを……。

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