第16話 魔王と卒業試験
『ダメなのじゃ、こんなところで誰かに見られたら……♡ 』
『くくく、そんなこと言って、ここはこんなにヌチョヌチョだぜ。おや、まさかこれは初回ガチャ特典がついてるなあ? 』
『ダメなのじゃ! それは結婚する人にあげなければいけないものなのじゃ! 』
『うるせえっ! これは天井叩くまで子種を出して着床ガチャしてやるぜえ! まずは十連ピストンだあああっ! 耐えてくれ、俺の精巣! 』
『いやあああっ、精液リボ払いでお腹一杯になっちゃうううう!? 子宮満タンで最高レア引き換え確定!? 』
「あのさあ……、ヤミちゃんは小鳥の性の営みに変なアテレコするのやめてくれる? 」
「ふむ、なかなか泣けるストーリーとは思うがのう。ここから調子に乗って精液の出し過ぎで、竿役の精巣が借金まみれになる展開なのじゃが? 」
「ごめん、マジ理解できない。ノワ兄はよくこの呪文聞いてて正気たもてるね」
「うむ、あの小鳥から生まれる子供が強かったら殺し合いたいな」
「正気じゃなかったかあ……」
草むらの中で仲良く子作りしている小鳥を見かけただけでノワール達の会話が弾む。とても微笑ましい光景であるが、そんなほんわかムードも束の間、三人の目の前に大きな建物が姿を表す。
「……いったいなんなのじゃ、この建物は? 」
「これは魔法学園だよ? 自分の学校くら分かろうよ」
「ヤミは本当に出席したことがないのだな」
「だって近くで見ると印象が違うからのう、こんなみすぼらしい学校とは想像してなかったのじゃ」
「それはヤミちゃんが毎回魔法でボロボロにしてるからね……」
「毎回ボロボロは言い過ぎであろう。たまには美味しそうにこんがり焼けることだってあるわい」
「ほう、それならバターを持ってくれば良かったな」
「ノワ坊、忠告しておくが学校は食べる物ではなくて学ぶところじゃぞ? 」
「そう思ってるなら、学園を燃やすのは防災訓練の日だけにしとけ」
そうして三人が学園の門をくぐり校舎の前の広場に向かうと、そこでは髭を蓄えて黒いローブを身に纏ったお爺さんがいた。
「うむ、なかなかの魔力をあのご老人から感じるな。相当な実力者だろう」
「ふぉふぉふぉ、ヤミ殿の初登校お祝いいたします。ワシはこの学園の校長であるコーチョーと申します」
「それもし校長になれなかったら恥ずかしい名前だよね。教頭止まりだったら可哀想」
「その時は役所に行って、読み方をコーチョー(きょうとう)にしてもらいます」
「校長という言葉のゲシュタルト崩壊を起こしそうじゃのう」
「その場合、飲食店の順番待ち名簿にはどのように書くべきだろうか」
「複雑すぎてわかんないよ、戸籍の新宿駅かな? 」
新たに登場したコーチョーに対してノワール達は各々の意見を述べていると、いつの間にかコーチョーの周囲には黒いローブを着た魔道士達が集まってきていた。
「お待たせいたしました、コーチョー校長! 」
「ふぉふぉふぉ、その名前で呼ばれると脇がすぐったくなります。コチョコチョだけに」
「「「……………………………………」」」
「さて、これからヤミ殿の卒業試験を行います。試験内容は明快ですが非常に困難なものになります。魔力だけではなく、人としての強さである決断力、責任感、根性を問われるでしょう、その覚悟がありますか? 」
「うーん、そうじゃのう……。どちらかといえば大丈夫かのう。だるくなったら全部破壊すればよいし」
「決断力も責任も根性もなにもかもない回答きた!? 」
「うむ、良い答えです。それではヤミ殿に与える卒業試験の内容を伝えます。ジャカジャカジャカジャカ……」
自分の声で太鼓の音真似をしつつ、コーチョーはどこからともなく巻物を取り出して広げて見せる。
「ヤミ殿には、この世界のどこかにいるはずであろう『ワシだけを無償で愛してくれるロリビッチ処女サキュバス』を探してきて欲しい」
「コイツ、俺達をランプの魔人か何かと勘違いしてないか? 」
「まるで都市伝説の調査番組みたいだあ」
「煩悩まみれじゃのう、恥を知るのじゃ」
キルライトは心の中でお前が言うなと思ったが事態がややこしくなるので、ヤミに対するツッコミを胸の中の押し入れの中にそっとしまっておいた。
「文句を言いたい気持ちはよくわかる。しかし、これはヤミ殿の卒業試験であると同時にワシの卒業もかかっているのだ、童貞のな! ふぉふぉふぉ、ここ笑うところね」
「「「……………………………………」」」
「もしこの試験を受けられないのならヤミ殿は卒業できず、首席も取り消し。さあどうする? 」
「…………でもどうしても嫌なら、魔法学園の人間を全員ぶちのめすことでも卒業とします」
「だ、誰だ!? 勝手にワシの卒業試験にオマケをつけるやつは! 」
慌てるコーチョーの横に金髪ロングの美少女が現れる。それは聖女アビスであった。その姿を見てコーチョーは唇を震わせた。
「お、お前はオッパイデカデカ聖女……、ぐへぇぁぁぁっ!? 」
「スコア157本ですか、前回の148本より少し上がりました」
「アビ姉、ゲーセンのパンチングマシン感覚で人の骨折ってるよ……」
セクハラ発言をしたコーチョーの腹を殴ることで人体の半分以上の骨を即座にバキバキに粉砕したアビスは手をハンカチで綺麗に拭く。
「アビスはどうしてここにきてるんだ? 」
「アビ嬢も勇者パーティの一員じゃからのう。我の卒業試験を見学する権利はある」
「それもそうか、それじゃあアビスは俺達のことを応援しにきてくれたのか? 」
ノワールがそう言うとアビスは天使のように微笑みながら手をゆっくりとあげる。
「死ね♡ 」
上げた手の中指をピシッと立てて可愛らしい声で熱い応援をしてくるアビス。
「ちょっとなんでアビ姉は怒ってんのさ!? ボクなんか悪いことしたあ? 」
「俺も思い当たる節がないが……」
「貴方達のせいで教会のガキ共からのあだ名がオーガになったんですよ。せいぜい魔法学園の連中に痛ぶられながら死んでください」
※アビスがキレている理由を知りたい人は第10話『魔王と食レポ』を見返してみよう。
「おやおや、あれだけ激怒しているとはノワ坊はまさか二股でもしたかのう」
「いや、その心配はないはずだ。俺はいつも身体だけの関係だし(戦闘的な意味で)」
「文面だけだとクズ野郎だよねえ。まあ、ノワ兄は恋愛ごととは無関係なのはわかってるけど」
ノワール達とアビスが睨み合っている横で全身複雑骨折したコーチョーがヨロヨロと立ち上がる。
「ふう、魔道具『接着剤』で骨をくっつけてなんとかなったぞい」
「ガキ向け雑誌の付録みたいな身体ですねえ」
「ふぉふぉふぉ、アビス様のお言葉耳が痛い。しかしワシ達全員をぶちのめせば卒業というのはよいですが、ヤミ殿一人だけでは難しいのでは? 」
「それならノワールとキルライトも一緒に戦って良いことにしましょう。勇者パーティの仲間としてです」
「ええええっ、ボクも戦うのおっ!? もうヤミちゃん留年でいいでしょ、決まりね」
「でも留年するとサークルやクラスの人と会話しづらくならないかのう。敬語使われたりとか変な感じしないかのう」
「ヤミちゃんは元々出席してないでしょうが!? 」
「一年生になったら〜、学園全員殺れるかな? 」
「ノワ兄は学園七不思議入り目指してるの? 」
どこの学校にも快楽殺人鬼にまつわる七不思議はあるだろう。しかし、そんな彼等に待ったをかけたのがコーチョーである。
「ですが卒業試験に魔法学園とは無関係の人間を参加させるのは校長として許可できません」
「なるほど一理ありますね。それでは教会と交渉してみようと思います。ちょっと待っててくださいね」
アビスは純白のローブのポケットから小型の魔道具『携帯電話』を取り出して誰かに電話をかける。
トゥルルルル、トゥルルルル、ガチャ!!
『アビス様!? どのようなご用件でしょうか? 』
「ワンコール以内で取れっていつも言ってるよなあ? 」
『い、いや歳をとって耳が遠くて腕も痛くて、腰も少し痛くて……』
「どこが悪かったんだか教えろ、そこ潰すから」
『ひいいいいっ、命だけはお助けを!? 』
「命を潰せばいいんだな? 」
『あわあわあわあわわ……』
「ちっ、はっきりしねえ野郎だなあ。とりあえず用件を伝える、教会には魔法学園への留学生枠があったよな。それ二つ借りてもいいか? 返さねえけど」
『どうぞどうぞ、アビス様の御心のままに』
「ちっ、普通はこのぐらいのこと言わなくてもやっておくんだけどなあ? 」
『申し訳ございません、気が利かなくて……』
「あ、あと最後に言い忘れたことがある」
『ひいいいいっ!? もしかして影でオーガって言ってたのバレた!? 』
「私の家にいるハピに王城前のデザート屋のプリンを買っていってあげてください。もちろん、てめえの金でな」
『そ、そのぐらいでしたらいくらでもやらせていただきます! 』
「よかった、じゃあ私が帰ったら殺すから遺書準備しとけよ。保険金の受取人は私な」
ガチャ! という音を出してアビスは携帯電話をポケットにしまってニコリと笑った。
「なんとか教皇様と交渉してノワール達を留学生として魔法学園に入れることができましたよ。これで良いでしょうか? 」
「…………………………」
「返事は? 」
「イエス、マム! ノワール殿とキルライト殿の入学を許可します! 」
「それではさっさと殺し合いのデスゲームを始めてください」
「よし、まずは生徒達からヤミ殿を倒しに向かうのだ。ワシはまだ命が惜しい! 」
「学徒出陣かな? 」
初級魔法で都市一つを消滅させるだけの魔力を持つヤミに怖気付いたコーチョーは生徒達に命令する。コーチョーとは違い生徒達はノリノリでヤミの討伐に向かう、日頃のストレスが相当溜まっているのだろう。
「家で寝てるだけで首席とか許せねえ! 私達の力でぶっ殺してやる! 」
そんな怒号を上げながら五人の生徒達が箒に乗ってノワール達の前に飛び出してくる。
「いきなり本気でいかせてもらうよ。魔法学園が誇る最強の五人『五星杖』が相手だ。私は灼熱の炎を操る『炎帝レイム』! 」
「自分は凍てつく北風の使者『氷王ブリザー』、以後お見知り置きを」
「拙者は全てを駆ける疾風の化身『風皇ウィンドル』よろしくでござるよ! 」
「…………暗黒の支配者『闇神シャドウ』。死にたくなければ近寄るな」
「大地と共にある者『地将アース』、我ら五人揃って……」
「「「「「五星杖!!!!! 」」」」」
「ふむ、大層な名前の割にはたいして強くなかったな」
「「「「「えっ……………? 」」」」」
自己紹介が終わった瞬間、五星杖の面々は口から泡を吹いて気絶する。その場にいた一部の人間以外は何が起こったのか理解できなかった。
「まさかノワ兄がやったの? 」
「ああ、まさか手刀一発程度でダウンするとは期待はずれだ」
「見えない速さから繰り出される手刀はもはや兵器だと思うけどな」
「ノワ坊はなかなかやるのう。そんな強さを見せつけられたら我も黙ってられないわい、ゆっくり惰眠を貪るとするかのう。ぐぼがあああっ!! 」
「いびきで対抗し始めた!? 」
魔法学園最強の五星杖がやられたことを知った生徒達はノワールを見ると悲鳴を上げながら散り散りと逃げていく、まるで宇宙人が侵略してきたパニック映画のようだ。
「生徒たちよおおおっ!? どうして若い命が犠牲にならなければいけないのだ!? このような老いぼれがどうして生き延びなければならぬ!? 」
「貴女が行けって言ったんでしょうが。しかし、やはりノワールは厄介ですねえ。仕方ありません、ここは私が一肌脱ぎましょう」
アビスはため息をつきながらノワールを見つめる。こうして戦いの舞台は子供達から教師達含む大人の段階へとレベルアップしていくのである。
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