第15話 魔王と変態ロリ魔法使い
「結構森が深くなってきたな。この道で間違ってないんだよな?」
ボキイッ!!
心地よい音を出して、キルライトの腕の骨が折れると、彼女の腕がぐにゃりと曲がった。
「骨折音で返事するな」
「あはは、ごめん、つい折れちゃってさー。すぐ薬草で治しとくよ」
「キルライトは保険会社が泣いて謝るような身体してるな。保険に入れば儲かるのでは? 」
「うーん、残念だけど勇者は保険入れないんだよねー」
「ふむ、やはり常日頃危険がある職業は厳しいのだな」
「うん、自分のことを勇者と思い込んでる異常者として断られちゃった。アイツら全然わかってないんだよ、勇者はちゃんと王様から認められてる職業なんだよ! 」
「勇者は現代では認知度が低い精神病みたいな扱いなのか? 」
昔は全ての人々の羨望の的であった勇者も平和な時代では頭のおかしい人扱いである。ちなみにキルライトはスライムなので骨なんて元々ないが、人間の姿に形を変える時には簡易的に作っている。作り物なので脆いが痛みもなくすぐ修復可能だ。
そんなこんなしている内に彼等は魔法使いの家までやって来た。
「ふぇ〜、やっと魔法使いの家に着いたよ。もう足がくたくた」
「おぶられて疲れるとは不思議な足だな。それにしても随分と人里離れた場所にある、これは不便ではないのだろうか? 」
「あの子は普段からあまり出歩かないみたいだから、そこまで気にしてないんじゃないかな」
登山道具を持っていないと登ることが困難な道を乗り越えてきた二人の目の前には質素な木造の家が建っていた。周囲には木々しかない中、ポツンと建つその家からは不思議な空気が流れ込んでいた。
「それじゃあ早速会ってみよう。コンコン、ヤミちゃんいるー!? いたら返事してー、もしいなかったら勝手にお邪魔しちゃうからねー! 」
キルライトはノックをした後、懐からピッキング用の道具を取り出す。
「無断で扉を開けるというのはどうかと思うが? 」
「ボクはピッキング系アイドルだしセーフ、こういえば大体許されるんだよ」
「そこはせめてピッキング系勇者と名乗って欲しい所だな。勇者としての自覚を持つべきだぞ? 」
ピッキングで勝手に人の家に侵入することは人としてはどうかと思うが、勇者としては問題なしなのである。
「よしよし、いい感じ。ピッキングは便利だけど1つ大きな欠点があるんだよね」
「ふむ、それはなんだ? 」
「これ、違法なんだよね」
「当たり前だろう……」
鍵穴に入り込んだピッキング道具がカチャリと音を鳴らすと、扉は軋んだ音を立てながらゆっくりと開かれた。
しかし、その扉の向こうには銀髪のロリ美少女が上目遣いで睨みつけていたのである。早速、家の主人と鉢合わせしたようだ。
「やれやれ、穴に道具を詰め込んで掻き回すいやらしい音が聞こえてきて、喜んで駆けつけてきたと思えばお主か。全く、紛らわしい真似をするのではない」
「この場合、紛らわしくないってどんな状況なんだろ? 」
「それはバイブオナニーに決まっておろう。アヘ顔晒した機械式ゴーレムの穴に鉄製のバイブが高速ピストンする音じゃ、ガチャンガチャンプシュ〜アヘェ〜、というやつじゃ」
「あのさ、一応初対面の人もいるからそういうのは控えてくれないかな」
「むむ、そういえば見慣れない竿役がおるのう」
「言ってるそばからこの人は……」
家の中から現れたのは肩まで伸びる銀髪にルビーのような赤い瞳の女の子であった。彼女の背丈はノワールの腹部ほどしかなく、黒いローブと帽子を被り、いかにも魔女といった風貌である。彼女はファッションなのか右目の部分に黒い眼帯をしていた。
「あのねノワ兄、この子はヤミちゃん。勇者パーティの魔法使い候補なんだ、才能と実力はある子なんだよ。ちょっと脳内が性欲と食欲と睡眠欲に支配されてるんだけどね」
「俺はノワール、戦士として勇者パーティに入ることになった。よろしく頼む」
「ノワール……、どこかで聞いたような……」
小柄な魔法使いは額に指を当てて考え込む。彼女は記憶を掘り起こすようにブツブツと呟いた。
「……ティラミス、モンブラン、ラーメン、おはぎ二つ、たくわん五つ」
「それヤミちゃんがお昼に食べた物じゃない? 」
「ほっほっほっ、そうじゃった。すまんのう、最近物忘れがひどくてのう」
「いや、十分鮮明に覚えていると思うぞ」
「まだまだじゃ、この歳になると一年前のお昼に食べた物くらいしか思い出せないのじゃ。それでは次に三百六十四日前のお昼の献立を教えてやろうかのう」
「昼飯の羅列で俺達を餓死させるきか? 」
ノワールがツッコミを入れるとヤミはケラケラと面白そうに笑う。そして一通り笑った後、彼女はルビーのような瞳をキラリと光らせて、頭を軽く下げる。
「キル嬢に紹介された通り、我はヤミというのじゃ。見ての通り、勇者パーティでの役割は魔法使いじゃな」
「ヤミは学園の首席と聞いたがこんな辺鄙な場所にいては通学が大変なのではないか? 」
ヤミは身長よりも少し長い木の杖をついてヨロヨロと歩いている。ここまでの険しい山道なら、彼女のような幼い子は行き来するだけでも数日かかってしまうのではないかとノワールは思った。
「その心配は無用じゃ。なぜなら我は学校に行かずとも首席になれるからのう」
「……その話は聞いたことがあるが実際のところ本当なのか? 」
「ならばちょうど良い、そろそろ学園の試験の時間じゃ。お主に見せてやろう」
「ヤミちゃん、まさかあれやるの? 学園にはちゃんと警報だした? 」
「だすわけなかろう、痴漢しますよと予告して痴漢する奴がおるか? それではただの企画物ではないか。我が求めるは真の素人物(リアル)のみ」
「いまいち俺にはヤミの言葉が理解できないのだが、魔術用語なのか? 」
「理解しなくていいよ、犯罪用語だから……」
キルライトは不安そうな顔をするが、そんなことは気にする様子もなくヤミは自分の身長くらいある木の杖をつきながらゆっくりと階段を上がり、二階へ移動する。
そしてヤミが窓を開けてベランダに出ると、遠くにうっすらとお城のような建物が見えた。全体的に白を基調とした美しい建物である。
「あそこに見えるのがラブホじゃ」
「いや、魔法学園だからね!? 」
「どうせ先生と生徒がズコバコやっているのだから同じじゃろう。ともかく、学園ではちょうど今の時間は炎魔法の実技試験が行われておる。地面に置かれたターゲットに炎魔法を当てることができれば合格というものじゃ」
「……まさかここから魔法を出してターゲットに当てるつもりか? 道中障害物もあるし、目標を視認できないし不可能ではないか? 」
「ほほう、そう思うかのう? 」
ヤミはニヤリと笑うと杖を天へ掲げ呪文を詠唱する。
「天より授かりし炎よ、暗闇を照らし道を示せ! 『ファイヤー』 」
それはノワールも知っている初歩の初歩の炎魔法であった。マッチがない時に火をつけるために使う程度の魔法、到底これではターゲットに当てることなど不可能と思われた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
「なんだこの振動は? 」
突如鳴り響く地響きにノワールは周囲を警戒するとヤミが言葉を発する。
「この周りを確認しても何も見つからないぞ。それ、あそこじゃ」
ヤミが指差した先には天空から巨大な炎の球体がゆっくりと学園に近づいていた。巨大な隕石のように見える炎の弾がジワジワと空から落ちていたのである。
その炎に目掛けて学園からは様々な属性の魔法が放たれるものの、その努力も虚しく、炎は学園へと到達して全てを飲み込んだ。
「ぐわああああああああっ!? あっちいいいいっ!! 」
「ちくしょおおおっ、またヤミの魔法だああああっ!? 」
「くそおおおっ、燃えないゴミを燃やしちまったああっ!? 清掃員さんに怒られるううう!? 」
遥か彼方の炎に包まれた魔法学園から聞こえてくる人々の阿鼻叫喚を聞いてノワールはたずねる。
「……お前はいったい何をしたんだ? 」
「見たままじゃ、炎魔法の実技試験をしたのじゃ、学園ごと全て燃やせば問題なかろう。我ほどの魔法使いなら初級魔法で都市一つ焼け野原にできる。これでターゲットは全て破壊したから我は無事に合格ということじゃ」
「そういう問題か? 」
ノワールは鋭い目つきでヤミを睨みつけるが彼女は笑みを崩さない。そのピリピリした空気を読んでキルライトが割って入る。
「ノワ兄が怒る気持ちも分かるけど、これは魔法学園側も了承してることなんだよ。いや、むしろやって欲しいという感じかも」
「それはどういうことだ? 」
「ああやって、ヤミちゃんがここから魔法で全てをぶち壊して試験を突破するのは学園のルールとしては問題ないんだけど生徒や先生達としては気持ち的に絶対に許せないよね? 」
「ああ、学園に通って努力している人間達からすればヤミの強さは認めたくないだろうな」
「うん、だから皆で力をあわせてヤミちゃんを邪魔して不合格にしようと頑張ってるんだよ。さっきも学園から対抗魔法がとんでたでしよ? 」
「地上から飛んでた魔法だな。なるほど、もしヤミの魔法を打ち壊せればヤミは試験に不合格になり、首席の座から落とすことができるということか」
ここまでの話を聞いてヤミはご名答と言った感じでコクリと頷いた。
「そういうことじゃ、我は学園にとって討ち果たす敵でなければならぬ。それに先程の魔法程度ではそこまで大きな被害は出ないからのう」
再び学園の方を見ると先程まで立ち昇っていた火柱はみるみるうちに小さくなり、後には小さな黒い煙がヨロヨロと揺れるだけであった。どうやら彼女なりに手加減をしていたらしい。
「だが、ヤミは試験のためだけにあれだけの人々を恐怖させたことには変わらん」
鬼のような形相でノワールは剣を抜いてヤミに突きつけると、キルライトが間に入る。
「でもノワ兄、あれは試験があったからしょうがないんだよ」
「そんなことはどうでもいい! ヤミ、どうか俺と戦ってくれ。頼む、なんでもするからお願いだ!」
「それはやっぱり人々を苦しめたからお仕置き的な意味だよね? 」
「そんなわけないだろう、俺のためだ。俺は強いやつを見ると思わず殺したくなる性格なのだ」
「革命者かな? 」
強い物いじめが趣味のノワールは興奮しながらヤミに決闘を挑むと彼女は唸り声を出す。
「うーむ、タダで戦うのも気が進まんのう。そういえばお主、なんでもするって言ったじゃろ? 」
「ああ、キルライトができることならなんでもしてやる」
「ちょっ!? 急にボクがでてきた!? 」
「よかろう、実は我は魔法使いであると同時に魔道具開発者でもあってな、ある道具の開発を手伝って欲しいのじゃ」
「なんだ、それぐらいならボクも手伝えるかも。何を作りたいの? 」
ヤミのお願いを聞いてキルライトは安心した様子で一息ついた。
「AVじゃ」
「ダメに決まってるでしょ!? ボクは現役アイドルなんだよ! 」
「アイドルのAV落ちなぞよくあることじゃ。キル嬢も早く高みに昇ってこい」
「落ちるのに昇るとか、なぞなぞ問題かな? 」
「別に俺はいいと思うけどな、悪い提案ではない」
「ノワ兄はAVの意味知ってるの? 」
「All Violence 、すなわち皆殺しだろ? 面白そうじゃないか」
「もしかして思春期のステータスを厨二病に全振りしてる? 」
一応ノワールにも性欲という概念はあるものの戦闘欲が遥かに上回ってしまっているため、ちょっとだけ頭が愉快な殺人鬼みたいになっている。
「我もAV作成のためにいろいろと準備はしているのだが、まだ足りないものがちょっとだけあるのじゃ」
「それはなんだ? 」
「女優と男優じゃよ」
「それもうAVの全てだよね? もう他に何もいらないじゃん」
「何をいうのじゃ、濃厚なストーリー、気づく人は気づく社会批判、最新CG技術、監督のオナニー思想、様々なものがAVには必要なのじゃ」
「もう映画作れよ……、それらは全部AVには過ぎた代物だよ」
「それでヤミは今回はどんなストーリーを作ったんだ? 」
「うむ、出会って十秒で青姦セックスする男女の涙あり笑いありのワンナイトラブストーリーじゃ」
「昆虫でももうちょっと工程踏んでから交尾するよ? 」
ヤミが黒板にチョークでAVの内容を書くが、そこにはどうして十秒でセックスするかについての理由が鮮明に説明されていたが映像内では表現されないらしい。そして女優にはキルライト、男優にはノワールの文字が書かれる。
「てゆーか、女優ならヤミちゃんでいいじゃん。女の子でしょ? 」
「残念ながら、我は未成年なので法律に違反してしまうのじゃ」
「今さら法律守ろうとする!? それだったら、ボクだって十六歳だから出演不可能でーす! 」
「おや、アイドルは永遠の十八歳と聞いておるが? 」
「それは年下には適用されないから! 」
「俺は強ければ相手が何歳でも構わんがな」
「……いつまでノワ兄は勘違いしてるつもりなんだろ」
各々には違った思惑はあるのもののこの場の主導権を持つヤミによってAV撮影に向かって流れは進んでしまっている。
「まあよい、これから撮影するからノワ坊とキル嬢は適当に演技を頼む。必要に応じてアドリブもオーケーじゃ」
「ちょっと!? ボクはこういうの初めてだから演技なんて無理だよ! 」
「ほほう、初回ガチャ無料キャンペーン中とはラッキーじゃ。それならギャラは払わなくてもよいのう? 」
「マジこの人なんとかしろよ……」
「キルライトは俺とのあの夜のことを忘れたのか? あれだけ特訓したのに……、じゃあ思い出させてやろう」
「それとこれとは別の話だからあっ!? お願いだから剣をしまってえええっ!? 」
一言喋る度に自分の立場が危うくなる現状を嘆くキルライト。彼女が部屋の隅に追いやられ絶体絶命となった時、窓から一匹の鳥が部屋に飛び込んできた。
「あっ、ヤミちゃん見て見て見て見てええええっ!! 伝書鳩がきてるよおおおお!! ほらチェック、早くチェック!! 」
「テンション高すぎじゃろ。ひくわ……」
「ヤミちゃんには言われたくないよ!? 」
自分から注意を逸らす絶好の機会にキルライトは歓喜するがそれはパッと見ではキチガイのそれである。ヤミはキルライトにドン引きしながらも伝書鳩から手紙を受け取って、中身を広げる。
「ふむふむ…………、なるほどのう」
手紙の文面に目をやった後、ヤミはつまらなさそうにビリビリと破り捨てた。
「くだらんのう」
「ヤミちゃん、いったい何が書いてあったの? 」
「……………………なんだろ? ちゃんと読んでなかったからわからんのじゃ」
「なんで読まないのに破り捨てたの!? 」
「でも、格好良かったじゃろう? 」
「覚えてなきゃ台無しだよ。あーもう、世話が焼けるなあ! 」
キルライトはセロテープで手紙をくっつけて頑張って復元する。自らの貞操がかかっているので必死であった。
「よし、これで元通り。書いてある内容は……」
『親愛なる生徒ヤミヘ 貴殿の度重なる学園に対する破壊行為に一同感謝の念が溢れて止まりません。その感謝の気持ちに貴殿には卒業試験を与えたいと思います、この試験を突破すれば晴れて勇者パーティに正式加入です。試験会場は学園で行いますのでご足労願います、どうか首を洗ってやってこい!! 絶対にぶち殺してやるからなあああっ!! 貴様の卒業進路は死体安置所だあああっ!! 教師、生徒一同より』
「果たし状とは生徒想いの良い教師だな」
「そう思うのはノワ兄だけだよ。それでヤミちゃんはどうするの? 」
「受けて立つかのう。それではまずは我によく似た人を探すとするか」
「替え玉!? 」
「ヤミの実力なら代わりの者をたてなくても余裕なのではないか? 自分で行けばいいだろう」
「家から出たくないのう。今日はあいにくの天気だしのう……」
「今日は晴れだけど? 」
「まさかキル嬢は我に紫外線を浴びろというのか? 」
「それいい始めたら天気関係なく一生引きこもりだよ? 外に出ようよ、卒業できなくなっちゃうよ? 」
キルライトはヤミの腕を引っ張るが小さな身体は岩のように動かない、無駄な体幹能力を発揮している。
「仕方ない俺がヤミを背負っていこう。寝てる間に学園まで連れて行ってやる」
「えー、ノワ兄の背中はボクの指定席なのにー」
「甘えるな、俺の背中は誰のものでもないんだよ」
「いや、ノワ兄のものではあるんじゃない? 」
「……仕方ないのう、たまには身を委ねて好きなようにされるのも悪くはないのじゃ。気持ち良く頼むのう」
ヤミはノワールの背にしっかりとしがみついた。そしてノワールが立ち上がると彼は不思議な感覚を覚える。
「……やけに軽いな」
「お主はおんぶ童貞か? この年齢の女性はこの程度であろうて」
「そうか? キルライトと比べてもだいぶ軽いが」
「それはキル嬢が重いだけではないかのう」
「ガーーーーン!? ボクってそんなに重かった!? 確かに最近食レポの仕事は多かったけどさ……」
体重を比較されてガックリと肩を落とすキルライト。年頃の女の子にとって体重は乙女の秘密なのだ。
「さあさあ、そんなことは気にせず先に進むのじゃ」
「あ、ああ……、そうだな」
違和感を感じながらも人間の女性はこんなものかと思いつつノワール達は卒業試験を受けに魔法学園へと向かうのであった。
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