第23話 魔王と不死王


「不死王リッチって、魔王直属アンデッド軍のリーダー。無限に湧くゾンビ達を操ることで、優秀な冒険者達を何人も倒しているって噂だよ! 」

「某の知らぬところでそのような噂になっていたのデスね。デスがそれに嘘偽りはなし、某は不死の無敵の体を持つのデス。どう倒しますか? 」


 象牙のように白い骸骨はニヤリと笑う。アンデッドならば物理攻撃で破壊する程度ではすぐ復活するだろう。


「どうしよ、みんな!? リッチを倒すいい案はないかな? 」

「我に任せい、9000年生きてるのだから知識は豊富じゃ。ちょっとまってろ、今攻略Wikiで調べるからのう」

「自力攻略派と喧嘩するタイプの人だ!? 」

「よしよし、なるほどのう。女神の力でこの世界ごと破壊すれば倒せるとある」

「当たり前だよねえ!? でも女神の神聖な力ならアンデッドには効果抜群のはず。エステリア様! 」

『起こさないでください』

「勇者の声で目覚めて! モーニングコールパンチ! 」


 バキィバキィ!!


 キルライトはアビスのお腹を殴ろうとするが、アビスのカウンターで全身の関節を外された。


「……アビ姉、ボクがスライムじゃなかったら大変なことになってたよ? 」

「それはとても残念ですねえ、お線香あげる準備はしていたのですが」


 チーン! とアビスが仏壇の前によくあるアレを鳴らす。


「ぐはああああっ、成仏するデスウウウウ!? 」

「効くんだアレ!? じゃあもっと鳴らしちゃお! 」


 チンチンチンチンチンチンチーン!!!!


 キルライトはドラマーのように鐘を鳴らしまくる。子供の頃、みんなやったことあるよね?


「どんだけチンチン好きなんじゃ? 肉棒しゃぶしゃぶ系アイドルは同人誌の中だけにして欲しいのう……、リアルは普通に引くのじゃ」

「てめーに言われたくないよ! 」

「ギャアアアア、身体が……、消えていくのデス……」


 どんどん身体が消えてしまうリッチ。悪しき魂は信仰心のかけらもないチンチンで浄化されていくのである。


「この程度で消えるとはリッチもたいしたことないな、これは俺の出る幕ではなさそうだ」

「しかし妙じゃのう、リッチはこの世界の魔族じゃから地球の儀式は効かないはずじゃが? 」

「なんデスって!? そういえばよく考えると効かない気がしてきたのデス! ふはは、パワー全開なのデス! 」

「じゃあどうして今まで効いていたのでしょう? 」

「効くと思っていたから、効いたのデス」

「プラシーボ効果!? それで自己啓発本書けば一攫千金だよ!? 」


 思い込みの激しいリッチは骨だけの体でボディビルダーのようなマッチョポーズをしながら、聖女であるアビスをじっくりと見つめる。その目は強敵であり天敵でもあるライバルを見定める目であった。


「…………オッパイ」

「男ってマジそこしか見ませんよね? 」

「仕方ないのデス、それに貴女はアンデッドの天敵である女神の力を宿す聖女。ここは某の最大級の魔法で潰させてもらいますデス」


 リッチは神経を集中させながら静かに低く詠唱を始めると、リッチの周りにドロドロした怨念のようなオーラが漂ってくる。


「深淵より覗きし悪魔の瞳に映るは世界の終焉。人々の絶望に歓喜した悪魔が口を開きし時、再び世界は原初へと回帰するだろう。そして全てが無となった0の世界で生まれた赤子が産声をあげると時は再び動き出す。その時の流れと共に巡り巡るは運命の歯車、それがかみ合わさると世界を滅ぼす鉄の悲鳴が森羅万象を包み込む! 飲み込まれた万物は渦を巻き銀河となりて世界再生への道標となりて……」

「詠唱が長い!! 」

「ギャアアアアアアアアアアア!? 」


 バキバキバキィ!!


 アビスのパンチによってリッチの全身の骨はボキボキに折れた。


「スコア195ですか、また強くなりました」

「アビ姉はどうやって折った本数を数えてるの? そんなたくさんの骨折ったらカウント大変じゃない? 」

「簡単ですよ、折れてない骨の数を数えればいいんです」

「逆転の発想!? 」

「あれ、詠唱は終わったのか? あまりに長かったから準備運動に世界一周してきたぞ。これは手土産のバナナだ」

「モグモグ……。いや、長かったので途中でストップかけました。そんじょそこらの子守唄以上に眠気を誘う戯言でしたよ」

「何回世界滅ぼして、また作ってんだっていう詠唱だったよね」

「しかし、リッチは全身ボロボロじゃないか、それなら俺が直してやろう」


 ノワールは接着剤でリッチの体の骨をペタペタするとあっという間に元通りになる。


「敵に情けをかけられるとは……、礼はいいますが手加減はしませんデスよ? 」

「当たり前だ、ふんっ!! 」

「ギャアアアアアアアアア!? 」


 バキバキバキバキッ!!


 ノワールがパンチするとリッチの骨がさらに細かく分解される。


「よっしゃ、スコア208! アビスに勝ったぞ! 」

「ちっ、負けましたか……」

「二人はリッチのこと、サンドバッグくんと勘違いしてない? 」

「バクバク、ほねっこ美味しいのじゃ」

「某の身体を食べないで欲しいのデス!? 」


 粉砕された身体から転がり落ちる骨にヤミが跳びかかってボリボリと食べる。アンデッドモンスターを食ってお腹は大丈夫かと心配になるが、彼女はブラックキャップを丸呑みしてもピンピンしてるほど丈夫な身体なのだ。良い子のみんなはブラックキャップ食べたらちゃんと病院へ行こうね。


「そ、某の骨、返してデス。折れた骨は魔力で再生できますが食われたら難しいのデス……」

「ふむ、お主の骨をどこから出して欲しいのじゃ? 上の穴、下の穴、それとも中の穴♡? 」

「中の穴ってなに? 」

「膣内の穴、すなわちマンコ&子宮口じゃ」

「聞かなきゃよかった……」

「それでは上の穴でお願いデス」

「ファイナルアンサー? 」

「ファイナルアンサー! 」

「うげえええええええええええっ!! 」

「このボケ老人、介護施設にぶち込んだ方がよいのでは? 」

「絵面が酷すぎる……、見た目が可愛い幼女でも中和できてないよ」

「知らないのか? 竜の出す吐瀉物はマナが多く含まれており大地を肥やすのに必須なんだ。ほら見てみろ、地面から芽がポンポンと生えて来てるだろ? 」

「汚いトトロじゃん」


 ヤミから吐き出されたゲボは地面に付着すると緑豊かな草原が広がる。その草原の中をリッチが自分の骨を探しながらスキップしていた。


「ラン、ランララランランラン」

「リッチ……、魔族領へお帰り。この先はお前の実力ではついて来れそうにないんです。ねえ、いい子だから」

「風の谷の天津飯? 」

「というか今のセリフで一つ思いついたのだが」

「今のゴミみたいなセリフから何かを思いつけるとかノワ兄は錬金術師なの? 」


 キルライトの言葉に対して首を横に振った後、ノワールは口を開けた。


「俺達が魔王ということを明かせばリッチとは戦う必要はないのでは? 」

「「「…………あ」」」


 いつの間にか始まっていたリッチとのバトルについて新たな視点が生まれた。勇者パーティとしてなら戦う必要はあるが、今の彼らは魔王としての一面があることを全員が知っている。過去とはいえ魔王の言葉なら魔族であれば聞く耳は持つだろう。


「つい自然と八魔将軍を倒す流れになってましたが考えてみるとそうですね。それにしてもノワールからよくそんな提案が出て来ましたね? 」

「俺だって馬鹿ではない。戦う相手くらいちゃんと見るさ。リッチのような伸び代のないザコとは戦わん」

「やっぱり判断基準はそこですか……」

「というわけでリッチよ、聞いてくれ実は俺達は魔王なんだ。かくかくしかじかというわけだな」

「ふむふむ、なるほどデス……」


 リッチはうんうんと頷いた後、首を傾げる。


「で? それを某に信じろと? 魔王を語るのであれば相応の証拠を見せて欲しいものデス」

「もっともな意見だね、それならボクがリッチの個人情報を喋ってあげようか? 住所や好きな人、生まれて初めてタンスの角に小指をぶつけた日まで知ってるよ? 」


 キルライトは物覚えがいいので魔王であった時に幹部の個人情報などは全て覚えてしまっているのだ。ちなみにリッチは750歳だぞ。


「その手にはのりませんデス。某はエロサイト視聴と引き換えに全個人情報を世界中にばら撒いていますデス、某の住所など知っていて当たり前デス」

「セキュリティがガバガバすぎる!? 」

「はぁ、魔王軍の情シス部門はいったい何をしているんでしょう? 」

「某が以前、情シスを覗いた時には部門全員がそりゃあもう真剣にエロサイト見てましたデス」

「この世界エロサイトが支配してない? 」


 キルライトがこの世界の真理に気付きつつあったが今はとりあえずリッチに魔王であることを証明しなければ前に進まない。そこでノワールが一つ提案をする。


「ならばお前の両親のことを話すのはどうだろうか。俺は顔見知りだぞ? 」

「本当デスか!? 某のパパとママは若い頃の話をしてくれないので教えて欲しいのデス」

「うむ、リッチパパとリッチママは俺も一目置く強者だったな」

「なんかバーバパパみたいな言い方だね」

「それってシュークリーム作りが趣味の髭面のオッサンのことかのう? 」

「それはビアードパパです」


 ノワールは昔のことを思い出しながらリッチの両親のことを語り出した。


「リッチパパは凄腕の闇魔法の使い手でな。指を鳴らすだけで相手を催眠や洗脳状態にすることができたんだ。俺も是非とも手合わせしたかったのだが、どうやら戦う相手を選んでいるようで結局戦えなかった」

「そうなのデスね、パパはどんな相手と戦っていたのデス? 」

「年齢が一桁の女性としか戦わないのがリッチパパの主義らしい。戦いの後は相手全員が虚な目をしていたな」

「それ違うバトルやってない!? 」

「洗脳からの催眠セックスじゃのう」

「よくリッチママは黙ってましたね? 」


 実の子供の前で明かされる父親の衝撃の事実(ペドコン)。果たしてリッチママの心情はいかに。


「リッチママは年齢一桁の男性と戦っていたから似たもの同士気があったのだろう」

「……その二人、もしかして仮面夫婦だったのでは? 」

「リッチはちゃんとDNA鑑定した? リッチパパは実は他人だったりするかもよ?」

「それは大丈夫デス、パパとママが言うには奇跡的に一致したということデス。10万分の1くらいの確率だったらしいデス」

「どんだけショタとヤリまくってたんですか……? 」

「デスがおかげで貴方達が魔王であることを確信できましたデス! 八魔将軍として現魔王様に迷惑がかからない範囲であればご協力するのデス」

「よくこれで確信できたよね? 」

「思い込みが激しいタイプみたいですからねえ」


 何はともあれリッチはノワール達のことをちゃんと魔王と認識してくれたようだ。これで話は進めやすくなっただろう。


「それじゃあリッチはゾンビ軍団で王都を襲ってください。神聖魔法を使う教会の奴らは私が全員ボコボコにしておきますので」

「ちょっと待ってよアビ姉。王都を襲うって人間を攻撃するってこと? 」

「当たり前でしょう、私達は魔王なんですよ? 人間を滅ぼして何が悪いんです? 」

「ボクとしては別に滅ぼさなくてもいいんじゃないかなーと」

「まあこの思想は弱者には理解できませんよね。ノワールはどうです? 」

「俺も襲う必要はないと思う。これから強くなる人材の芽を今すぐ摘む必要はないだろう」

「そのせいでノワールは勇者に倒されたんでしょう!? また同じ過ちを繰り返してどうするんです! 」

「もしそのせいで俺が死んだ時はそれまでの男だったってことだ。そうなったら俺は潔く死ぬさ」

「ぐぬぬぬぬ、じゃあヤミはどうです! 」


 アビスがヤミに問いかけると彼女は答える。


「我としては人間が滅びてくれた方が身体を見つけやすくて良いのう」

「よしなんとか引き分けですね、じゃあリッチの意見を聞きましょうか? 」

「えっ、なぜ某が? 」

「リッチは現魔王の命令か何かでここに来ているのでしょう? なら現魔王の意思がどうであるのか確認してみましょう」

「確かにリッチがなぜここにいるかの理由は気になるな」


 リッチはふと周りを見渡すと、その中でもとりわけ大きい墓石に視線を向けた。


「この王立墓地には国に貢献した人々が眠っています。そこで現魔王様はその死体を利用して強力なゾンビを作るように命令をしました」

「へー、それってどんな人を元にするつもりなの? 」

「勇者デス」

「「「勇者!? 」」」

「はい、この墓地に眠る歴代の勇者を蘇らせて人間殲滅に利用しようとしているのデス」

「それ普通にまともそうな作戦だね」

「ええ、勇者を魔族が従えられるのならこれは超強力です」

「しかしそんなことができるのか? 」

「そのために何度も墓地にやって来て少しずつ魔法陣を作成しました。そして今晩が完成の時なのです」

「随分とタイミングが良いのう、ご都合主義かのう? 」

「た、たまたまデス。いやこれ本当デスよ? 」

「ならば早速やってくれ、現魔王の策略がどのようなものかこの目で見てみたい」

「わかりましたデス、はああああああっ!! 」


 リッチが雄叫びを上げると墓地中の地面に描かれていた魔法陣が淡い光を発する。そしてその魔法陣の中心にある巨大な墓石に光が集まっていくと、雷鳴と共に複数の人影が地面から這い上がって来た。


「本来、死体は骨だけの状態で埋められるのですが、某の魔力によって元の人間の肉体に近い身体と思考能力を持っています」

「それは予想以上にすごい魔法ですね。どうやって身につけたのですか? 」

「エロサイト巡りの最中に『淫乱な人妻が墓場で貴方を待ってます、死体を蘇生してエッチしよ! 』という広告をクリックしたら魔法陣の書き方が出てきたのデス」

「あっ、それ我が遊び心でいれた魔法陣エロ広告じゃ。まさかクリックする強者がいたとはのう」

「あの系列の広告クリックする人いたんですね。それにしても魔法に関わる広告をクリックできるとは運が良かったですね」

「恥ずかしながら某は目に入った全てのエロ広告をクリックしていますのデス」

「何がリッチをそこまで突き動かすの!? 」

「魔王軍の仲間達は言いました、エロ広告に出てくる淫乱人妻なんていないと。デスが某は追い求めたい、エロ広告の淫乱人妻は必ずどこかに存在する! 」

「リッチママ十分淫乱じゃない? 」

「某、肉親で興奮するのはちょっと……」

「妙なところで真面目なんですね」


 そんな雑談をしているうちに勇者達がゆっくり歩いてやってくる。ゾンビ化しているためか肌は少し青白く、瞳に光はなかった。


「とりあえず歴代全員の勇者を復活させても良かったのですが、一度にたくさんやると収集がつかなくなるので皆様のお知り合いの方達だけ呼びましたデス」

「えっ、それってまさか……」


 ノワール達の目の前には、過去に彼等を倒した勇者達四人が立っていた。初代勇者、殺人勇者ジャック、アイドル勇者アイ、ゲーマー勇者子供Aである。


「わーっ、アイちゃんだ! 久しぶり! 」

「………………」

「反応しないけどちゃんと蘇生できてるの? 」

「魔法の手順に間違いはないはずデス。勇者ゾンビ達よ、このお方達は過去の魔王様達デス。これからちゃんと言うことを聞くのデスよ? 」

「「「魔王? 」」」


 魔王という単語を聞くと勇者ゾンビ達がピクリと動きノワール達をじっと見つめ、そして一言喋る。


「「「……魔王、コロス!! 」」」

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