第8話 魔王とドジっ子アイドル勇者
アビスとの対決の翌日の朝、いつものようにノワールはアビスの家で朝食をとっていた。
「お兄ちゃん、今日は勇者パーティに入ったことを王様から正式に任命されるんだよね。遅刻しちゃダメだよ、服装もしっかりね」
「ああ、大丈夫だ。朝から一時間ほど悩んでしまうほど、下着には拘っている」
「それ見せる機会ある? 」
「世の中何があるかわからんからな。何かあってからでは遅いのだ」
「下着を見られる時点で手遅れだと思うけど……」
もし任命式で不意のバトルが起きたら服が破けて下着が見える可能性がある、ノワールはそのことを心配していたのだ。彼は魔王らしい真っ赤なパンツをちゃんと身につけているのを確認して一安心する。
「よしよし、流石にノーパンでは不味いからな」
「色とかそういう問題じゃなかった!? 」
「そう驚くな、それでアビスはどこにいる? 」
「……えっと、お姉ちゃんなら先に王城に行ってるってさ」
「そうか俺と戦ったばかりで顔を合わせ辛いのだろうか? 」
「えっ、お兄ちゃんは気づいてたの!? 」
ハピは心の底から驚いた表情をした、まさか戦いのことしか考えない鈍感野郎が気づくわけないと思っていたからだ。
「当たり前だ、あの拳の構えを見ればアビスと同じことはすぐに判断できるし、ヒントもあったからな」
「ヒント……? 」
「ああ、アビスの蹴りを受けた時に、アイツの靴の裏に『あびす』という名前が書いてあったんだ」
「それはヒントではなく答えだよ」
あまりの呆気ないオチに脱力したハピはトーストをゆっくりと口に入れると、パリパリという良い音が鳴った。
「でも靴の裏に名前書くかなー? 普通は後ろとか表に書くと思うけど」
「その理由はわからんな、アビス家の文化だったりするのだろうか」
「もしくは靴に慣れてなかったりとか? まっさかー、靴は絶対履くでしょ。蛇じゃないんだしさ」
「まあ裸足が好きなタイプということもある。一応、俺がアビスのことに気づいているってのは秘密にしてくれ」
「わかったよ、あんな変装までして実はバレバレでしたなんてわかったら数日寝込んじゃうかもしれないからね」
ハピは指でオッケーマークを作ると時計を指差した。
「お兄ちゃんもそろそろ出ないと間に合わないよ。自分はお留守番してるから、何があったか後でちゃんと教えてね」
「うむ、良い報告ができるよう努力する」
ノワールはハピに手を振りながら家を出て王城へ向かう。王城は王都の中心にあり、王都にいれば誰もが見ることができるものの、厳重な警護がされており中に入ることは容易ではない。
(魔王であった時には勇者パーティや強力な冒険者達に阻まれ、到達できなかった王城にこうもあっさり入れるとはな)
自分の姿を見て、敬礼をしながら城の門を開ける兵士を見てノワールは不思議な気持ちになった。
そして出迎えてくれたメイドの指示に従って王城の中を進んでいくと、ノワールは大きな広間の壇上に連れて行かれた。
壇上の下では人々がおしくらまんじゅうをするように詰め込まれていて、ノワールのことを期待に満ちた目で見つめていた。
(これは大層なお出迎えだな、どれだけ勇者パーティが注目されているかがよくわかる)
大勢の人々の視線を集める壇上にはノワールの他に王様と二人の少女がいた。
「あれはアビスと、もう一人は誰だ? 」
ノワールの姿を見た瞬間、彼のことを親の仇のように睨みつけてくるアビス。その横には桃色のセミロングの可愛らしい十代半ばの女の子がいた。
(随分と華奢な娘だ、王様の娘か何かだろうか? )
彼がじっとその少女を見ていると彼女は可愛らしい笑顔でピョコピョコとスキップしながらやってくる。フリルのついた服にキラキラ光るミニスカートの彼女は元気よく手をあげた。
「こんにちはー、ボクはキルライトっていうんだ。キミが戦士の人だよね、よろしくねっ! 」
「ああ、よろしく。キルライトは王様の知り合いの者なのか? 」
チラチラと王様の様子を伺うノワールを見て、キルライトは明るく笑う。
「ちがうって、ボクは勇者。キミのリーダー的存在なんだよ! 」
「なにぃ!? 」
(馬鹿なっ、これが勇者だと!? 全く魔力や闘気が感じられん!? まだハピの方が強いとまで言えるぐらいだぞ! )
あまりの弱さに驚くノワールであったがなんとか心を落ち着かせようとする。
(いや、見た目で判断してはいけないのは当たり前ではないか。もしかするとこの勇者も隠された力があるはずだ)
「どーしたのさ、ボクのことをジロジロ見ちゃって。確かにボクは可愛いけどじっと見られるのは恥ずかしいなー」
「いや、少し変わった口調だなと思ってな」
(そういえば俺の仲間のオーク隊長が言ってたな。『ボクっ娘はヤバすぎブヒ。あまりのヤバさに、ボクという単語を聞いた瞬間、オイラは即死するレベルブヒ』と、まさか『ボク』という単語は即死魔法なのか!? だとすると即死魔法を容易に使いこなすキルライトは最高峰レベルの魔術の素養がある)
ノワールは焦って周りを見渡すが、キルライトのボクという言葉を聞いても人間達は全く即死する様子はなかった。
(まさか、人間達は即死魔法に対する耐性を得ているのか!? この千年の間にとんでもないことが起きていたとは……)
「あのー、緊張してるのかな? キョロキョロしたりボクを見てポカンとしたりさ? 」
「い、いや。即死魔法がこうも簡単に使われているのを見て驚いてな」
「えっ、即死魔法だって!? いったいなんのことかな!? 」
「いや、その『ボク』っていうやつ。即死魔法だろ? 」
「ええええっ!? そうだったの、ボク知らなかった……って、言っちゃったよおおおっ!? ボクまだ死にたくないいいっ!? 」
壇上で慌て騒ぐノワールとキルライトをアビスは冷ややかな目で見ていた。
「大丈夫ですかね、この人達……」
☆ ☆ ☆
キルライトが叫び回るというちょっとしたアクシデントはあったものの、アビスがなんとか取りまとめることで落ち着きを取り戻し、無事に王様によるノワールの戦士任命式は完了した。これで晴れてノワールは勇者パーティの一員として公式に認められたこととなる。
「ふと思ったのだが、ここにいるのは俺とアビスとキルライトだけのようだが、魔法使いはどこにいるんだ? 」
「魔法使いはほぼ内定していて、後は任命するだけというところまで進んでいるのですが、これがまたちょっと癖のある子でしてね」
「その魔法使いの子もアビスに言われたくないとは思うがな」
「ああ、なんか言ったか!? ちょっ、痛てててっ、女神様許してええっ!? 」
「ふむ、アビスはこんなところでも腹筋トレーニングとは精が出るな」
悶え苦しみながら地面を転がるアビスを見て、ノワールは思わず感心する。キルライトもその光景に慣れているようで、アビスのことを気にする様子もなくノワールに話しかける。
「魔法使いは引き篭もりがちで普段は山奥に一人でいるんだよ」
「聞いた話だと魔法使いは学園の主席のはずだが学園には来ないのか? 」
「うん、あまりに魔法の才能がありすぎて学園に一度も出席せずに主席になった凄い子なんだ」
「それは学園の存在意義あるだろうか? 」
不登校者に主席を取られる生徒や学園に不安を覚えるものの、逆にそれだけの人材がいることにノワールは期待で胸を膨らす。
「今までは引き篭もってたけど戦士役も決まったことだし、そろそろ出て来てもらわないとね。ということでボク達で迎えに行ってあげようと思うんだ」
「それはいいな、俺も早く会ってみたいから都合がいい」
「私は教会の仕事があるのでパスです。ハピのことは面倒みとくのでノワールはさっさと行ってください、しっしっ! 」
野良犬を追いやるように手を払うアビス、彼女は人を思いやる気持ちがさっぱり抜けてしまっている。
「えーっ、アビ姉来てくれないのー? みんなで行った方が楽しいよー、教会の仕事って言っても、アビ姉はふんぞり返って部下をアゴで使うだけでしょ? いてもいなくても一緒じゃん、お願いだからいこーよー」
ウインクをして可愛らしくテヘペロするキルライトにアビスは眉をピクピクとさせる。
「とてもお願いをする態度ではありませんよね? 」
「じゃー、お願いじゃなくて命令だよ! ボクは勇者でリーダーなんだからアビ姉は言うこときかなきゃダメ! 」
「……はあ、キルライトのワガママはしょうがないですねえ。それじゃあ貴女のことは、半殺しで勘弁してあげます、覚悟しろよ?」
「ちょっとアビ姉、目が笑ってないよ? ボク痛いのはいやなんだけどなー? 」
「じゃあ痛くないように、優しく骨を一本ずつゆっくり折っていきますね」
「ひいいいっ、殺されるうううっ!? 」
ボキボキと指の関節を鳴らしながら迫り来るアビスから逃げるようにキルライトはノワールの背中に隠れた。
「おお! アビスがやる気になってくれたようだな、それじゃあ俺がキルライトの代わりにアビスとの殺し合いに参加してやろうではないか! 」
「……ちっ、ノワールとは戦いたくないんですよね。面倒だしダルいし」
アビスは呆れたように肩をすくめると一人そそくさと壇上を降りていく。ノワールが懸命に呼び止めるが彼女は聞く耳も持たずどこかへ行ってしまった。
「ふぇーん、マジでアビ姉に殺されるかと思った。ノワ兄も助けてくれてありがとう! 」
「別に助けるつもりはなかったが? 」
「またまたー、照れちゃってさ。男の人ってそういうところあるよね」
キルライトは照れ隠しだと思っているが実際そんなことはない。ノワールの頭の中は200%戦いのことだけで占められている。しかしそんなことは知らずにキルライトは命を救ってくれた彼に感謝の言葉を何度も口にしていた。
そして、結局アビスを説得することは諦め、ノワールとキルライトの二人で魔法使いを迎えにいくことにする。
「だけどいつにも増して、アビ姉はイライラしてたねー。また回復魔法使わなきゃいけないからかな」
「アビスは回復魔法嫌いなのか? 」
「うん、どうやら光魔法自体がダメみたい。使ってると女神のことを考えてムシャクシャするんだって」
「相変わらずどうやって聖女になれたのか不思議なやつだ」
王城を出て二人で街を歩きながらのんびり雑談をする。ふと気づいてみるとキルライトは黒いサングラスをかけていた。
「そのサングラスはなんだ? 」
「ああ、ボクは超人気アイドルだからこうやって顔がわからないようにしてるんだよ。こうしないとサインねだられて困っちゃうんだよねー」
口ではそう言っているがとても困っている様子には見えない。むしろ自慢げである。
「アイドルとな? 」
「うん、歌も出してるんだよ。ボクのデビュー曲『恋のトロトロハート♡ 』くらいは聞いたことがあるよね? 」
「……いや、聞いたことないが? 」
「えええええっ!? あの超美少女アイドルのボクが歌う『恋トロ』を聞いたことがないだって!? 」
なんだかお腹が空きそうな略称である、キルライトは驚きつつも小さな装置を取り出した。これは音楽再生用の魔道具であり耳にはめることで装置に記録された音楽が聴けるのである。
♪キミのことを考えると〜、胸が熱くて苦しくて溶けてしまいそうなの〜、トロトロになったハートは前より大きくほろ苦く〜♪
「これは炎属性の攻撃を受けて大火傷を負ってしまった時の話か? 」
「違うよ!? 恋愛の話だからね、ノワ兄は比喩ってわかる? 」
「知ってるぞ、まるでキルライトは勇者みたいだ、というやつだろ? 」
「それは単なる事実だよ!? っていうかもしかしてノワ兄はボクの事を勇者っぽくないなー、と思ってるでしょ! 」
「そんなことはない、パッと見では確かにちょっとだけ勇者っぽくないところはあるが、よく見てみると全然勇者っぽくないよな」
「ほらー! やっぱりそう思ってんじゃん! 」
両腕をブンブンと振り回して駄々をこねるキルライトの煌びやかなドレスとミニスカートには至る所に文字が書いてあった。
「まず服装だが野外の運動に適さない衣服と靴に、キラキラ光って敵にみつかりやすい文字もある。いったいこれはなんだ? 」
「この文字はスポンサーのロゴだから目立って当たり前だよ」
「スポンサーとは? 」
「勇者の活動を支援してくれる団体だよ。こうやってボクが歩いて宣伝してあげることで定期的にお金をもらえるんだ。それにスポンサーの系列店ならタダで宿に泊まれるんだよ」
「ふむ金か、それは一理あるな」
流石のノワールもお金の大切さは理解している。自給自足も悪くはないが、何をするにも金があるとスムーズに物事は進む。安定して得ることができる収入源があるのは強いだろう。
(なるほど、この仕組みにより勇者は安心して冒険できるということか)
「だが、そんな目立つ格好をしていたらサングラスなど無意味では? 」
「……あっ、そうか!? 」
キルライトが気づいた時には時すでに遅し。超人気アイドルのサインを求めて群衆が集まり、押し合い、争い合っていた。人間とは醜い生き物なのである。
なんとかその群衆からこっそり抜け出したノワール達はキルライトの行きつけの道具屋に向かった。どうやら魔法使いがいるという山までは歩くと一週間はかかる距離らしい。道中は起伏が激しく馬車は通れないという自然の要塞のような場所なのだ。そのための準備が必要なのである。
二人が道具屋の扉を開けると店番のお婆さんが笑顔で話しかけてくる
「あら、キルライトちゃんじゃない。今日は何しに来てくれたのかしら? 」
「へへへー、なんとついに勇者パーティの戦士が決まったんだよ。これから魔法使いを迎えにいくところなんだ」
キルライトがノワールの肩をポンポンと叩くので頭を下げるとお婆さんも丁寧に挨拶をする。
「それはよかったわ、どうか戦士さん。この子を助けてあげてくださいね、とっても優しくていい子なんですから」
「いやー、照れちゃいますね。ってことでノワ兄はしっかりボクを守ってね! 」
「ああ、まあそのつもりだが……」
(俺としては、この勇者の実力も早く知りたいものだがな)
店で準備をしている最中、キルライトは老若男女から笑顔で話しかけられては楽しそうに会話をする。彼女は人とのコミュニケーションを取ることが比較的得意らしい、まあだからこそアイドルとして人気が出たのであろう。
道具屋で一通り薬草や食料を袋に詰め込んで、さあこれから王都を出発するぞという時、彼等は二刀流のファイと出会う。
「おいノワールじゃねえか。勇者パーティの戦士になったんだってな、やっぱり俺様を倒した男だぜ! その隣にいるのは…………」
ファイはキルライトを見た瞬間、顔をしかめた。
「なんだ、キルライトか。ノワールはこんなやつと一緒にいない方がいいぜ、せっかくの腕が腐るぞ」
「どういうことさ! ボクになんの文句があるの? 」
「なんでお前が勇者になったのか納得いかねえんだよ」
「だってボクはみんなから勇者と認められたんだもん」
「みんなあ? 言っておくが王都の冒険者でお前が勇者だと思ってる奴は誰一人としていないぜ? 」
ファイが言葉を吐き捨てるとキルライトは『むむむ……』と可愛らしい唸り声を出した。
「まあノワールもそいつと一緒にいればすぐにわかるだろうよ。それじゃあな! 」
「へんだ、もう二度と顔見せないでよね! 」
キルライトはぷんすか怒りながら立ち去るファイを睨みつけていた。
「冒険者達とはうまくいっていないのか? 」
「まあ、あんまりね……。戦闘能力じゃなくて、人気があったおかげで勇者になれたボクのことが気に食わないみたい。ノワ兄はボクのことをどう思う? 」
「それは俺の目でゆっくりと判断させてもらう。ファイの言うことをすんなりと信じるほど俺はお人好しではないからな」
「そう、じゃあボクもできるだけ頑張んなきゃね! 」
意気揚々とノワールを先導するキルライト。彼等が王都を出てしばらくすると一匹の魔物が現れた。モコモコの丸い毛玉に猫耳がついた可愛らしい魔物だ。
「あれはF級モンスター『毛玉猫』、人懐っこくて直接攻撃はしてこないんだけど大量に発生して人間にアレルギーにしたり、毛を人の鼻に詰まらせて呼吸困難にしたりする結構怖い魔物だよ。見つけたら討伐するようにギルドは公表してるんだ」
「なるほど、それでは勇者のお手並みを拝見させていただいてもいいかな? 」
「うん、まかせて! 」
キルライトは腰から聖剣を抜いた、聖剣は日光に当たってキラリと輝く。
(あれはまさしく聖剣そのものだ。しかし、俺を貫いたものと同じではあるものの、どこか違和感を感じる……)
聖剣を振りかぶって毛玉猫に駆けていったキルライトは攻撃を行う。
「受けてみろっ! ホーリー勇者スラッシュ! 」
スカッ。
キルライトの攻撃は見事に空振りをする。
「あれー、おかしいなー? えいえいえーい! 」
スカ、スカ、スカカッ!
何度も攻撃をするものの聖剣が毛玉猫に当たることはない。そして毛玉猫が反撃をして来た。
「ニャー! 」
「ちょっ、来たー!? キャハハ、くすぐったいって、そこはダメだよおおっ!? 」
毛玉猫に乗っかられて身体を舐め回されながら笑うキルライト。ノワールは毛玉猫をつまみ上げて助けてあげた。
「大丈夫か? 」
「いやー、助かったよ。身体がふやけて溶けちゃうかと思った」
「まさかお前はこんな猫にも勝てないのか? 」
「いやいや、普段は勝てるんだよ? 今日はたまたま調子が悪くて負けちゃっただけ。次は絶対に負けないよ! 」
「なるほど」
ぽいっとノワールはつまんでいた毛玉猫をキルライトの胸の上に置く。
「ニャー! 」
「うわあああっ!? 助けてえええっ!? 」
(これが勇者だというのか? 小動物にいいように弄ばれているこいつが? )
三十分程の格闘の末、見事キルライトは毛玉猫に敗北した。顔面猫の唾液だらけになったキルライトは再びノワールに助けられる。
「ふぅ、危なかったね。もうちょっとでボクは負けるとこだったよ」
「いや、負けてたと思うが。それで確認したいがお前は勇者なのだよな? 」
「うん、ボクはちゃんとみんなに選ばれた立派な勇者だよ」
「みんなとは? 」
「街のお婆ちゃんとか子供とかボクのファンだよ。ほら、ボクはアイドル的存在だから応援してくれる人はたくさんいるんだよね。他にも勇者候補はいたんだけど、一番多くの支持を受けたのがボクだったのさ」
キルライトはニコリと笑って簡単なダンスを踊る。それに伴って彼女のミニスカートがヒラヒラと揺れた。
「まさか、そのやけにヒラヒラして動きにくそうな服装はアイドルの時の衣装なのか? 」
「そーだよー、可愛いでしょ。ちょっと動きにくいけどボクの美貌で魔物を悩殺するよ! 」
フリフリのドレスの様な服にピカピカ光る髪飾りを身につけているキルライトは可愛らしく決めポーズをする。
「さてノワ兄、この調子で魔法使いのところまでゴー! だよ! 」
「ああ、そうだな……」
(勇者についてはしばらく様子を見よう。誰もは最初は初心者だからな。しかし、もし成長する様子がなければ……、その時は見切りをつけるだけだ)
少し歩いては小石につまずいてスッテンコロリンするキルライトの姿を眺めながら、ノワールはそう考えていた。
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