第20話 魔王と初仕事

「みんなおかえりなさい! そして勇者パーティ結成おめでとー! 」


 王都のアビス邸にノワール達が戻ると、ハピが笑顔で出迎えてくれる。


「ハピは一人でちゃんと留守番できましたね。いい子いい子です」

「えへへ……」


 アビスはハピの栗色の髪を優しく撫でると家の様子が変わっているの気づいた。


「ハピ、これは? 」

「初めてみんなが集まるって聞いたからお祝いしようと思って」


 部屋には折り紙でできたカラフルな花が散りばめられ、壁にはピカピカ光るモールが飾り付けられていた。


 幼い子が必死に準備する光景を頭に浮かべて思わず嬉しくなるパーティ。そんな中、ヤミは部屋を見渡しながら口を開く。


「うわぁ、めっちゃ散らかっとるのう。ちゃんと片付けるのじゃ」

「これは私達のために飾り付けてくれてるんですよ! 」

「本当かのう? 実は家に誰もいない間にこっそり人に言えないなにか(オナニー)をしていたのではないか? 」


 ヤミはニヤニヤしながら犬のように鼻をクンクンとさせてハピの周りを回る。


「他の者は欺けても我の鼻は騙せんぞい。ほうほう、これはこれは濃厚なチーズのようなツンとくる匂いがするのう」


 バチン!


「ぎゃああああっ!? ネズミ取りに引っかかったのじゃああああっ!! 」


 ヤミの可愛らしい鼻に床に置いてあるネズミ取りがバチリと食いついた。


「すみません、こんなのが勇者パーティで……」

「お姉ちゃんが謝らなくていいんだよ。賑やかで楽しくていいじゃん」

「しかしヤミもこんな罠に引っかかるとは情けないな。俺はノーミスでもうこんなにチーズをゲットしたぞ? 」

「それできるなら直接ネズミを取れば? 」


 両手に山盛りのチーズを抱えたノワールは一旦それを机に置いて、おやつ代わりに口の中に入れる。


「それにしてもチーズが多いな。そんなにネズミに困っているのか? 」

「知らぬのか? アビ嬢の家は、別名ディズニーランドと言われるほどヤバいんじゃよ」

「それ以上ふざけたら入園料取りますよ! これは念のために置いているんです」

「わかるわかる、ボクの家もゴキブリ避けの毒餌置きまくってるんだ。いないかもしれないけど怖くて置いちゃうんだよね」

「あれはあまり効かぬぞ? この間キル嬢の家に行った時につまみ食いしてみたが、我はこの通りピンピンしてるのじゃ」

「食うなよ!? ルンバですらもう少し吸い込む物判別するよ!? 」


 目の前にあるものは食べられそうにない物も口に入れてしまうヤミに驚く一同。そんな時、ノワールが不思議そうに口を開いた。


「ディズニーランドってなんだ? 」

「…………それ聞いちゃうかー。世間知らずのノワ兄は知らないよね」

「まあ私もつい最近まで知らなかったから人のことは言えませんけど」

「ノワ坊に教えてやろう。ディズニーランドとは異世界の地球にある夢の国なのじゃ。それを模した遊園地もこの世界にあるぞ」

「異世界? 地球? 」


 ノワールは首を傾げるばかりである。それも当然だ、地球の文化が入ってきたのはヤミが魔王になってからのことなので眠っていた彼にはちんぷんかんぷんなのである。


「そこについては話すと長くなるので手話で伝える、見て盗むのじゃ。シュババババッっと!! 」

「ふむ、理解した。そういうことだったのか……」

「ボク達は何が起きたか理解できてないんだけど? 」


 ヤミの高速の手話を一瞬で見て判断し全てを理解したノワール。彼はこの世界に地球の文化が侵略しつつあることを知ったのである。


「そして、アビスのパンツは縞パンだったのか……」

「二人とも表にでてください、顔面ホーンテッドマンションにしてやります。1000人目の幽霊になれて良かったですね」

「ちなみに入園料は金貨1枚と定められておるのじゃ。地球の通貨とこの世界の通貨レートはディズニーランドのワンデイパスポートの代金が基準となっておる、1ディズニー=1金貨じゃな」

「固定相場制なんだよねー」

「もしディズニーランドが値上がりしたり休日で金額が変わったらどうなるの? 」

「もちろん金貨の価値も変わるのじゃ」

「とてもわかりづらいね……、お勉強頑張らなきゃ」


 ハピはこのメチャクチャなディズニー本位制の為替相場に驚いたものの、彼女なりになんとか対応しようと頑張る。彼女は純粋でいい子すぎるのだ。


「それで皆はこれから勇者パーティとしてどうするの? やっぱり魔王とか倒すのかな? 」


「「「「それはもちろん……」」」」


 ハピの問いに対して勇者パーティは息を合わせて頷いた。これまで戦ってきた仲間として考えることは同じである。



(勇者パーティの仲間を育てて楽しく殺し合いだろ。ついでに強敵や魔王も育てて殺し合いたいなあ)


(隙を見てパーティ全員殺して人間の希望を打ち砕きます。ノワールとヤミには気をつけないとですね)


(勇者の知名度を活かしてお金いっぱい稼いでラクして楽しく生きたいな〜)


(我の身体を集めて完全体になったら今までの憂さ晴らしに暴れまくりたいのう、気が済んだらゲームとオナニーするのじゃ)



「みんなどうしたの? 何か言いかけながら固まっちゃってるよ? 」

「まーいいじゃないですか、私達は一心同体ですから言わなくてもわかるんです。そうだ、実はハピにお土産があるんですよ。はいフェニックスの卵です」

「わー、紅くてキラキラしてて綺麗! 」


 アビスはフェニックスの卵を渡すことでハピの気をそらした。ここでいろいろ詮索されるのはアビスとしては避けたい。


「でもハピの言う通り俺達はこれからどうするか方針を決めなければいけないよな? 」

「無難なところじゃと魔族討伐に出かけるとかかのう? 」

「えー、魔族は怖いからやめよーよ。虫退治ぐらいでよくない? ボクのお腹にいるんだけど」

「それお腹空いてるだけでしょう? 」


 そうやって話し合いをしているとアビスが何かを思い出したかのように手を叩いた。


「そうでした、教会から近くの森の中にある王立墓地で夜な夜な怪しい人影が出るという噂があるので調査依頼が来ていたんです。どうでしょう、悪くない仕事だと思いますけど? 」

「夜の墓地にでる人影ってそれ絶対ヤバいやつじゃん! ゾンビか幽霊か狂人か、どれであっても危険だよ! 」

「徘徊中のお婆ちゃんかもしれぬぞ? 」

「墓石の下見してるのかな? 」

「いいではないか、相手が危険なほど燃える、俺は賛成だ」

「我もいいぞい、ホラーゲームは大得意じゃ。本気を出せば一度も敵に会わずにクリアも可能じゃ」

「それはホラーゲームとしてどうなのでしょう? 」


 キルライトはあまり乗り気ではなかったが他のメンバーが賛成したので仕方なくついていくことにした。


「それでは私達はこれから出かけますが、ちゃんとハピはお留守番するんですよ。知らない人が来ても扉を開けてはいけませんからね」

「はーい、わかってるよ。お姉ちゃんは心配症だなー」

「世の中変人が一杯いますからね」

「そうじゃそうじゃ、もしハピ嬢が変な男に付き纏われた時は我に相談せい。薄い本のネタにするからの……」


 ドゴオオオオオオオオオオ!!


 ヤミの顔面にアビスの鉄拳がぶち込まれ、壁をぶち破って家の外に吹き飛んだ。


「それでは行きましょう。キルライト合図をお願いします」

「ヤミちゃんがどっか飛んでっちゃったけど? 」

「私達の行き先は墓場ですよ、先に待ってればヤミも運ばれて来るでしょう」

「霊柩車はタクシーじゃないからね? 」

「おや、キルライトも霊柩車に乗りたそうな顔をしているな? 」

「してないよ!? 」

「ははは……、とりあえずみんな頑張ってね? 」


 ハピは不安になりながらも手を振って勇者パーティを見送るのである。

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