第4話 魔王とギルド
ハピを助けた後、ノワール達は飛竜に乗り継いでいくと数日で王都へ到着する。
王都の中心には巨大な城がそびえたち、それを囲むように貴族の美しい豪邸が建ち並び、さらにその周りに商店街やギルドなどの施設が存在する。
王都はどこも石畳で街が整備されており、そこを馬車や人々がひっきりなしに往来する。人々が作り出す賑やかさを感じながらノワールは感想を述べる。
「これが王都か、賑やかでいいな。それにしてもあれだけの距離をわずか数日で移動できるとは飛竜とは素晴らしいな」
「飛竜は便利ですが数が少ないので普通の人は使えませんけどね」
「アビスお姉ちゃんのおかげで飛竜に乗れたんだね。ありがとう」
「ちっ、人間に褒められたってなあ……。こほん、いやー、照れちゃいますねー、あはは」
恥ずかしそうに頭をかきながらアビスは二人を自分の家と案内する。王都の中心からそれほど離れていない便利な場所に彼女の家はあり、三階建ての庭とプール付きの豪邸であった。
「おお、アビスはなかなか良い家に住んでいるな」
「聖女ですからね、プールまでついている家は王都でもここぐらいではないでしょうか」
ここまで立派な家は魔族でもなかなかいないだろう。胸を張ってエヘンといばるアビスをノワールはじっと見つめる。
(水泳は全身を使う運動、そのトレーニングのためにプールを準備するとは流石だな、魔族の仲間にも見習わせたいものだ)
ノワールは心の中で感心しながら家に入ると、意外にも中は女の子らしく綺麗に整理整頓されており、部屋には良い匂いのする香水が撒かれていた。
「へー、アビスお姉ちゃんの家はとても綺麗ですね」
「ちゃんと掃除してますから、貴方達の部屋は二階にそれぞれ空き部屋があるので自由に使ってください。ただし、三階の私の部屋には絶対に来ないでくださいね? 」
「ふむ、三階にはなにがあるのだ? 」
「話聞いてたか!? 私の部屋があるんですけど、乙女のプライベートが! 」
大理石でできた階段に向けた視線をゆっくりと上に登らせると三階の辺りで白い扉が見えた。どうやらあそこがアビスの部屋なのだろう。
「別に部屋ぐらい入って構わないだろう? 」
「ノワールお兄ちゃん、女の子は他人に部屋を見られたくないものなんだよ? 」
「……そうなのか? 」
(俺の昔の女性仲間は部屋に置いたあるトレーニング器具を嬉しそうに見せびらかしてくるものだったが、人間は自分の鍛錬風景を見られるのが恥ずかしいのだろうか? )
「わかった、そこまで隠したいのなら部屋は見ない。しかし中で何しているかくらいは教えてくれてもいいのではないか? 」
「いいのではないか、じゃねーよ!? 私はふつーに生活してます」
「いや、俺に見せられないようなことをしているのだろ? ならそれを言葉でいいから教えてくれ、そこからは俺の想像で補う」
「……なんだこの変態、こえーよ」
アビスは目の前の男を家に入れてしまったことをひどく後悔した。一瞬家から放り出すことも考えたのだが、勝手に動き回られるのもまた困る。彼女は頭を痛めながらも必死に考えているとハピが助け舟を出す。
「お兄ちゃん、きっとアビスお姉ちゃんは家に着いたばかりで疲れちゃってるんだと思うよ。この話は後にしようよ」
「そうだったか、気を使わせてしまってすまない。ところで少し話が飛ぶのだが、アビスの部屋には何があるんだ? 」
「飛んでねーよ!? いや、むしろ全てを通り越して一周してループしてるだろうが!? 」
「うむ、つい気になってしまってな」
「とにかく、とにかくですよ! 無断で私の部屋に入ってきたらぶち殺すからな! 」
「おお、殺し合いができるのか! アビスもついにその気になってくれたか、俺はもちろん受けて立つぞ」
「もうやだ……」
八方塞がりとなってしまい流石のアビスと膝から崩れ落ちる。
「お兄ちゃんはとりあえず自分の部屋を覗いてみようよ。何かいいものが見つかるかもしれないよ」
(確かにここはアビスの家なのだから、各部屋に良いトレーニング器具が置かれていてもおかしくない。まずはそこをチェックするか)
「よし、行こう」
「てめえはもう絶対に私の部屋に来るんじゃないからな! 」
アビスは眉間に皺を寄せてノワールを睨みつけた後、彼を警戒する様に足を震わせながらゆっくり後退りして階段を登っていった。
「変わった階段のあがり方だ、あれは良いトレーニングになるな」
「あれを見てトレーニングと思えるお兄ちゃんはポジティブすぎる気がするよ」
「もしや、ハピはあんなものはトレーニングにすら入らない準備運動だと思っているのか? それは違う、物事は小さな積み重ねが大事なのだ。俺から見たら単純な階段登りもしっかりしたトレーニングなのだ」
「……やっぱりポジティブすぎるよ」
アビスから軽蔑された扱いを受けていたにもかかわらず、それをポジティブに受け止めて笑っているノワール。その様子はハピにちょっとした衝撃を与えたのである。
ちなみにノワールとハピに用意された部屋は一人暮らしをするのには十分であった。トイレやキッチンは一階の共同スペースにあるものの、ベッドや本棚や勉強机などの家具は部屋に一つずつ置いてあった。
「うわー、自分だけのお部屋なんて初めて、嬉しいなー」
「作りも良いし、ゆっくり落ち着ける部屋だ。この腰掛けもなかなか気持ち良いしな」
「それはベッドだよ? 」
「なにっ、この硬さがベッドなのか!? 」
(魔族のスライム製ベッドに比べたら岩ではないか。人間はこの硬さに体を慣らすことで野宿時でも安眠できる様に事前訓練をしているのか! )
ノワールは人間の気持ちを理解しようとベッドに横になって『ふふふ……』と笑みを浮かべていると、アビスがゴミを見る目でやってきた。
「あまり人の家の中で気持ち悪いことはしないでください。これから私はバーディにボロボロにされた村人達の件について教会へ報告しに行きます」
「ふむ、俺もついて行っていいか? 」
「ダメに決まってるだろうがボケッ! って内なる女神よ!? どう考えても悪いのはコイツで……、すみません許してくださいいいいっ!! 」
アビスは膝から崩れ落ちてビクビクと痙攣しながら謝罪の言葉を何度も発する。それを眺めながら『いいトレーニングだ』と頷くノワール。そんな二人を眺めながらハピはポツリと呟いた。
「村の外の人達って、みんなこんな感じでちょっとおかしいのかな……? 」
そんな感じでちょっとしたトラブルはあったものの結局アビスは一人で教会へ出かけてしまった。二人は一階の共同スペースに降りて、のんびり紅茶を飲んでいた。ハピはバーディの世話をしている時に紅茶の淹れ方を教わっていたらしく、美味しく作り上げていた。
「さてと、お姉ちゃんは夕方まで戻ってこないみたいだけどそれまで何する? 」
「ふむ、暇だから王都でも散策するか、道中面白そうな場所もいくつかあったからな」
「でもお姉ちゃんは『家から出ずにおとなしくすること』って言ってたけど? 」
「アビスに内緒にすればバレないだろう、ハピだって王都を散歩してみたいのではないか? 」
ハピの耳に入ってくるノワールによる魔王の囁き。なんだかんだいって、まだ幼い彼女は好奇心に負けてコクリと頷いてしまった。
そして二人は王都をのんびり観光する。彼等は道の前に並べられている果物を眺めたり、時々やってくる兵士達の行進を見たり、鳥に餌をやろうとして身体中に群がられたり、どれもハピにとっては新鮮な感覚であり楽しい経験であった。
(魔族の街とは違って全体的に明るく見える。魔族であれば大抵街のどこかで力比べの戦闘を繰り広げているものであったが、人間の街は何もなく平和なのだな)
ノワールがそう思っているとちょうど武装した集団がある建物に入っていくのが目に入った。その建物の前には『冒険者ギルド』という看板が立っている。
「ここが冒険者ギルド、俺の記憶では人間の強者どもが集う場所であったはずだ。ハピは来たことがあるか? 」
「気になることはあったけどまだだよ。お兄ちゃんはギルドに用があるの? 」
「うむ、興味がある。それでは少しだけ覗いてみるか」
ギルドの扉を開いて中に入るとノワール達は冒険者達からの視線を集める。見慣れない人間が子供を連れてくればそうなるのも無理ない話である。
そして軽装のノワールを見たギルドの受付嬢は彼のことを冒険者ではなく依頼人と判断し、声をかけてきた。
「お客様、本日はどのようなご用件でしょうか? 当ギルドでは魔物討伐や物品収集もできますし、アイテム調合ができる調合師も所属していますよ」
「ふむ、それではとりあえずこのギルドで一番強い者を頼む」
『とりあえず生! 』と言った感じで最強の冒険者を依頼するノワール。受付嬢は呆気に取られて目をパチクリとさせた。
「えっと、強い冒険者をご希望ということは厄介なモンスターでも現れたのでしょうか? 」
「そうではないが、できれば戦って欲しいと思っている」
「……ん? 厄介じゃないモンスターなら何と戦うんでしょう? 」
「それは決まっているだろう、俺だ」
「えええええええっ!? 」
予想外の発言に受付嬢は大声で叫んでしまったため、ギルド中の注目がノワール達に集まった。
「どうして驚く? このギルドの最強の冒険者を倒してみたいだけだ」
「お兄ちゃん、それは道場破りっていうんだよ。たぶんギルドはそういうところじゃないと思うよ」
「……そうなのか? それではここにいる冒険者は日々どうやって実力を磨いているのだ? 」
頭にクエスチョンマークを浮かべるノワールに受付嬢は手元にあったカタログを広げて見せる。そこには丁寧に描かれた絵と一緒に説明が書かれていた。
「冒険者達はここにある魔物を退治することで経験を積んでいるんです。当ギルドならB級モンスターまで常時対応してます、お金を上乗せすればA級も対応可能です」
受付嬢がパラパラとカタログをめくるのをノワールは一言一句見逃さないようにしっかり見る。
(……どれもこれも野良犬や害鳥駆除のような子供のお遣いのようなものしかないな)
「魔物であれば、ドラゴンゾンビやフェンリル程度の相手でないと弱すぎて実力が磨かれないのではないか? 」
「……そんなSSS級モンスター、国が軍隊を出して倒すレベルですよ? 個人で倒す倒さないとかそんな話じゃありません」
「そうなのか……」
(この本にあるような雑魚を倒すだけで実力をつけることができるとは人間とは恐ろしい吸収力を秘めているのだな。そしていざSSS級モンスターが出現した時には軍隊で戦うことで、一度に大勢の経験として国を一気に強くする。これは非常に効率的なやり方だ、魔族も油断できんな)
ノワールが一人で納得をしているとギルドの奥から体格の良い五十代くらいの男性がやってくる。
「なんだなんだ、叫び声がしたと思ったら子連れだと? 」
「ギルドマスター!? 実はかくかくしかじかでして……」
「なにっ、最強の冒険者を求めているだと!? 」
経験豊富なギルドマスターも流石にこれには驚きを隠せない。そんなギルドマスターを見てノワールは思う。
(かくかくしかじか、という不思議な呪文で全てを理解するとは人間は意思疎通にも優れているのだな。魔族の通信網にも是非採用してみたい)
「このギルドの最強って言えばアイツしかいないだろ。相手させてやればいいじゃねえか」
「えー、あの人ですか。私苦手なんですよね」
「皆苦手さ、だが腕が立つから仕方ねえ。ここはそういう場所さ」
ギルドマスターの話を聞いて受付嬢がため息をつくと、ちょうどその時ギルドの扉が勢いよく開かれて一人の青年が入ってきた。
「ういーっす、俺様のご登場だぜえ? 」
金髪の頭を逆立てた青年はドスドスと足音を鳴らしながら受付嬢のところに向かう。
「おいおい、俺様が帰ってきたというのにただいまもなしかい、つれねえな? 」
「はいはい、それで依頼はちゃんとクリアしたんですか? 」
「もちろんだ」
青年は机の上に牙を三本置くとギルドマスターは頷いた。
「流石はこのギルド最強の戦士ファイだ。たった一人でC級モンスターを三匹倒せるほどの冒険者は王都でもお前くらいだろう」
「オッサンの感想なんていらねえんだよ。受付嬢ちゃんのラブコールが俺様は欲しいのよ、どうかな今日仕事が終わったら一緒にディナーでも? 」
「ギルドマスター、特に仕事はありませんけど今日残業してもいいですか? 」
ファイという冒険者に詰め寄られて困り顔をしていら受付嬢。しかし話を聞くに彼がこのギルド最強の男らしい、ノワールは興味津々だった。
「お前がこのギルドで一番強い人間か? 」
「誰だてめえ? ここはガキ連れてくるようなところじゃねえ、引っ込んでな」
ノワールの言葉に中指を立てながら威嚇するファイ。彼を怖がったハピは、そそくさとノワールの背中に隠れた。
「落ち着けファイ、その方はお前との試合を申し込んで来たんだ。ちょっと運動がてら相手してやってくれないか? 」
「ああ? なんで俺様がそんなことしなきゃならねえんだよ」
「もしお前が勝ったら、受付嬢にお前の夜の相手の残業命令を出してやるぞ」
「ギルドマスター!? 何かってなことをしてるんですか! 」
「別にお前がどうなろうとワシは関係ない。後は野となれ山となれだ」
「このクズ……」
「うっひょー! やるやるぅ、じゃあこのアホをさっさとボコボコにしようぜえ! 」
意気揚々と外へ跳びだしていったファイを見送ってからノワールはギルドマスターにたずねる。
「あれがこのギルド最強の冒険者か? 」
「そうだぜ、A級ランクの冒険者ファイ。この王都にはいろんなギルドがあるがアイツはトップレベルの剣士だ」
(なるほど、この時代の人間の戦闘力を調べるにはちょうどいい相手だ)
「お兄ちゃん大丈夫なの? あの人結構強そうだったよ? 」
「問題ない、むしろ強くなきゃ困る」
ノワールはギルドマスターから練習用の木刀を受け取って、外で待っているファイと対峙した。
「遅いぜ、ビビって小便ちびってんのかと思ったぜ」
「すまないな、それでは試合をしようか」
「お兄ちゃん頑張ってー! 」
剣を構えるノワールを明るい声を出して応援するハピ。ファイはそれを見て苦い顔をする。
「ちっ、あのガキは俺様の妹にそっくりだぜ」
「お前には妹がいるのか? 」
「ああいるぜ。だが妹は昔、魔族に襲われたんだ。卑怯なことに夜道を俺様と一緒に歩いていた時に魔族達は集団で襲いかかってきた。なんとか逃げて生き延びたが、深いトラウマを負ってしまった。だから俺様は魔族を皆殺しにするために冒険者になったんだ! 」
「そうか、魔族にやられたか……。それは妹殿もさぞかし辛いだろう」
「ああ、今でも妹は夜ゆっくり寝ることができねえんだぞ! トラウマのせいで俺様は夜一人でトイレに行けなくなっちまったから、毎晩妹を起こさなきゃならねえ! 」
ファイは目に怒りの炎を燃やしながら叫ぶとハピが呆れ顔になる。
「あの人の方がトラウマ負ってるんですか……」
(一人でトイレに行けなくなるほどのトラウマを抱えながらも宿敵である魔族に立ち向かう強さ。この男はなんて強靭な精神力を持っているのだろうか、これは油断できぬ)
ノワールが気合を入れ直しているとファイはニヤリと笑いながら剣を二本取り出した。
「お兄ちゃん気をつけて、あの人は二刀流の使い手みたいだよ! 」
「面白い、構えを見るに我流ではあるがなかなかなものだな」
「よし二人ともそれではこれから練習試合を始める。ルールは簡単、先に死んだ方が負けだ」
「ちょっと物騒すぎじゃない!? 」
「……と思うくらいの気合で戦ってくれ、以上だ! 」
ハピにツッコまれてギルドマスターが言い直すとノワールとファイはお互いにぶつかり合う。
「まず俺様からいくぜっ! 一瞬で命を奪う『瞬殺撃』、必殺の百連撃を受けてみなあっ! 1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11……」
ファイは数字を数えながら素早い斬撃を繰り出す。しかし、ノワールは全ての攻撃をかわし続けている。
「ふむ、どの一撃も研ぎ澄まされていていい動きだ。かなりの鍛錬を積んでいるだのだな」
「うるせぇっ! いま俺様に話しかけるんじゃねえ、数え間違えるだろうが! 1,2,3,4,5,6,7,8,9……」
再度、剣を振りながら最初から数字を数え始めるファイ、意外と几帳面な性格のようだ。
ノワールは余裕で攻撃を避けているものの観客達から見ると一方的に攻撃を受け続けているように見えていた。
「お兄ちゃん……、大丈夫かな? 」
「ワシのギルドマスターとしての長年の経験から見るに、実力は五分五分といったところだな。しかしあのノワールという男、このままでは負ける」
「どうしてそう思うの? 」
ハピが不安そうに尋ねるとダンディなギルドマスターは低い声で答える。
「闘志さ、ファイはムカつくやつだが戦いにかける闘志は誰にも負けない。一方ノワールは落ち着いていて闘志を全く感じさせない、この差は歴然だ」
「そうなのかな……」
「ああ、それにファイの目はワシの若い頃に似ている。だからワシにはアイツが強いってことがよくわかるのさ。もしファイが負ける相手がいたとしたら、それは常に強くなることしか考えてないキチガイ魔王みてえな奴ぐらいだ」
ギルドマスターは自信を持って頷いた瞬間、ファイは空高く吹き飛ばされてコマのように高速回転する。
「ぐはあああああああっ!? この俺様がああああっ!? 」
「旋風刃、剣の衝撃で相手を吹き飛ばす。鋼鉄でできたゴーレムすら宙に浮かぶぞ」
「そんな馬鹿なあああっ、ぐへえええっ!! 」
百メートルほどの高度まで飛ばされたファイは自由落下により地面に叩きつけられてノックダウンする。普通の人間であれば死んでいる可能性もあるが、A級冒険者として鍛えられていたファイは気絶程度ですんだ。
「やったー、お兄ちゃんが勝った! やーい、オジサンの嘘つき! 」
「馬鹿な、ファイがやられたなんて……」
ハピは喜びながらノワールの元へ走っていく。そして仲良く微笑み合う二人を見てギルドマスターはダンディな笑みを浮かべた。
「よく見たらあのノワールって男、全てがワシの若い頃にそっくりだぜ。そりゃあファイも負けるわな」
「ギルドマスター、さっきはファイが若い頃に似てるって言ってませんでした? 」
「ん、そんなこといったか? 今思い返すと全然似てねえよ、他人のそら似だな」
「他人のそら似なら、見た目は普通に似ているということになりますけど? 」
「おいおい、あまり細かいことを気にしてると彼氏できねえぞ。お前もワシに似たダンディな彼氏欲しいだろ? 」
「とりあえず、ギルドマスターを討伐するクエスト発行しときますね。報酬はギルドマスターの髪の毛一本です」
「おいっ、ワシに残された最後の毛を報酬にするな! 」
プチッ! おめでとう受付嬢はギルドマスターの髪の毛を手に入れた。(再入手不可)
髪をロストしたショックで気絶するギルドマスターと討伐クエストを受注するために行列を作る冒険者達。とても平和なギルドの風景である。そして、ひと暴れしてスッキリしたノワールは大きく伸びをした。
「さてハピ、そろそろ夕方だし家に帰るか」
「うん、そうだね。あっ……」
ハピが苦笑いをしながら視線を向けた先には、アビスが怒りで眉をピクピクと動かしながら仁王立ちしていた。
「二人とも家でおとなしくしてろって言いましたよねえ? なのに、こんな騒ぎ起こして! せっかく美味しい肉を買ってきてやったのによお! 」
「おっ、気がきくな。それでは今晩は俺が肉を使った料理を作ろう。実は結構料理は得意なんだ」
「ノワール? 料理するのはいいけど、貴方は肉なしですからね? 」
「…………すまぬ」
ブチギレていたアビスであったが、その後に内なる女神の天罰を受けて苦しんだことで、結局みんなで仲良くお肉を食べることにしましたとさ。
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