第1章 イヴ王子[Lux-race]②
思ったよりもずっと楽しく、私も
王城へ帰るイヴを見送りに、四人で
夕日が玄関の
「ごちそうさま、ミセス・グリズル」
「はい、お
「はっはっは、もうイヴ様も十三歳だ。いつまでも子ども
あらいやだ、とミセス・グリズルは笑います。イヴは不服そうですが本当に
「エスター、お前と話すのは面白かった。またな」
晴れ晴れと、イヴはそう言って帰っていきました。その様子を見ていると、どう見たって王子様ではなくて、年相応の愛らしい少年です。密偵とか、
「やれやれ、イヴ様もすっかり大人になられたなぁ。アマンダ
「本当ですねぇ。お
ミセス・グリズルと先代ブレナンテ
イヴは、プレツキ
私はつい、口を
「やめられないのですか? 聞けば、プレツキ公爵令嬢もテネブラエにつけ込まれるくらいには、イヴ様との結婚を
うーん、と二人は
「何といっても、先代国王陛下が……ああ、これはエスター嬢の母君の悪口を言うわけではないのだが、十五年ほど前にオーレリアを王城から追放したことで王家が
「そ、そんなにですか。母は一体何を」
「いやいや、オーレリアは何も悪くない。むしろ、
その話に、私は、
「王城を辞めて、それから父と出会ったとしか聞いていませんでした」
「まあ、別に言い
「はあ、なるほど」
「とはいえ、貴重な光魔法、それも王城全体を照らせる使い手を
お母様、自覚はまったくなかった、というか当時は想像もつかなかったのでしょうが、
運命の
「ド・モラクス公爵領は政治的にも経済的にも大規模で、半ばリュクレース王国から独立しているようなものだ。それだけの大貴族の
政治
あの宰相閣下の胸中など私だって
母が王城を辞めさせられた
だから私は、少しでも先代ブレナンテ伯爵が救われるよう願って、私が知っているかぎりの、母の実家と我が家の話をすることにしました。
「父と結婚したことで、母は実家のロスケラー
プレヴォールアー家はド・モラクス公爵家の
その決断は、きっといいことだったのです。だって、私はたまにプレヴォールアー家を訪ねますが、
それを、私は
「そうか……それなら、いや、やはり私は、オーレリアとその家族の
「お気になさらず。母は、結果的には父とともに幸せなのですから、
私は
ミセス・グリズルが
「そうよね、そうだわ。エスターちゃん、
先代ブレナンテ伯爵は──どことなく、表情が明るくなった気がします。少しでも、その心が救われてくれれば、と私は願ってやみません。
それはさておき、私は自分の今の運命を
「なのになんで私はテネブラエを
「まあまあ、
「うむ、そうだね。期待していていいと思うよ」
「はーい、期待します」
本当に、期待だけはしたいです。
話をそこそこに切り上げ、私はミセス・グリズルと夕食の
二日後、イヴがブレナンテ
リビングのテーブル上に整然と広げられていく書類の表紙には、『
「実はね、二年前、私がニュクサブルクに
ミセス・グリズル、さりげに
とはいえ、論文をぱっと
「これが……うーん、私もあまり頭がいいほうではないので、読めるかどうかも」
「貸してくれ」
イヴの求めに応じ、私はすぐにイヴへ
すると、イヴはあっさりとページをめくり、
「
イヴはそうつぶやきながら、最後まで読み終えてしまいました。
まさか、そんなに簡単に読んでしまわれるとは。もしかして、ここにいる三人のうち、読めないのは私だけでしょうか。そんなはずはないと信じたいです。
何とか話に置いていかれまい、と
「紫外線、ってなんですか?」
私の問いに、イヴはすらすらと答えます。
「太陽の光には、紫外線というある波長の光も
イヴ様、その説明で私が分かるとでもお思いでしょうか。分かりません。申し訳ございません、私は
「待って、イヴ様、もしかしてとても頭がおよろしい?」
「なんだその表現は。別に、家庭教師をやっているシャルトナー王国出身の若い科学者に教わっただけだ。こういう勉強は
イヴは
「というか、お前のあの文字を光らせる光、あれも一種の紫外線だぞ」
「えっ!?」
何と、私も『紫外線』というものを発していたようです。光
しかも、イヴはちゃんと私のあのほの暗い光と
「あれから王城で科学者に聞いて、調べたんだ。お前の言ったとおり、シナモンなどに含まれる成分は、特定の条件下で光を受けると蛍光反応をするらしい。ただ、その特定の波長の紫外線を人工的に照射できる照明器具は、今のところリュクレース王国にもシャルトナー王国にも存在しない。ニュクサブルクの機密指定の論文、これに何か手がかりがないかと思って、もう一度精査してみたかったんだ」
ははあ、なるほど。私とミセス・グリズルはすっかり、イヴの
とはいえです、賢くない私でも、疑問に思ったことがあります。
「あれ? じゃあ、テネブラエはどうやってあの文字を読んだのでしょう?」
それはごくごく根本的な話です。文字は読めて伝わらなければ意味はありません。紙に書いた文字を
しかし、ある種専門家であるミセス・グリズルは、その私の疑問と考えを否定はしませんでした。
「普通に考えれば、ニュクサブルクの新技術か、テネブラエはエスターと同じ光魔法の使い手なのかもしれないわね。それ以外となると、現状、私たちの想像を
「まあ、この論文によれば、技術的には確かめる方法自体はあるようだ。ただ、
うらやま、なんです? なんて言いました、イヴ様?
私とミセス・グリズルの視線から
「とにかく、見えないインクで書いた紙を使って伝達を行う方法が実在する、ということは確実で、ニュクサブルクはそれを使っている。それが
「ええ、私や兄の
私の言葉に、ふふっ、とミセス・グリズルは笑っていました。私としましてはジョークのつもりはなかったのですが、そう聞こえたかもしれません。
そうこうしていると、イヴが
「まあいい、このことはこれ以上ここで考えても分からないだろう。しかし、十分に知識を得て
イヴはさらりと、自分の興味だけでなく、私への手助けでもあったことを明かします。
イヴはミセス・グリズルの伝手で王城でも機密だった外国の論文を入手し、今回の事件のキーである見えないインクで書かれた文字に関する仕組みを知り、私へ伝えた、ということです。確かに気になりますし、いちいちそんなことをウォールドネーズ宰相閣下や
「じゃ、この話はおしまい。二人はお買い物に行ってきてね、これがおつかいリスト」
計ったかのように、ミセス・グリズルは私へメモを一枚、それと
「えっと……パンですね、承知いたしました」
私はおつかいに行くくらいなんともないのですが──なぜか、メモを
「ミセス・グリズル」
「なぁに?」
「いや、いい。行くぞ、エスター」
「はい!」
公爵令嬢エスターの恋のはじまり 王子様は私のよわよわ光魔法をご所望です ルーシャオ/角川ビーンズ文庫 @beans
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