ゆめうつつ

薄ぼんやりとした、まどろみの中。

起きて、起きて。とばかりに。

誰かがゆらゆらと、私の肩を揺すっているのがわかりました。

まだ眠いまぶたをどうにかして開くと、寝起きの安定しない視界に、人が立っているのが見えました。

パチクリと瞬きすると、眼鏡もかけていないのに視界が透き通り、一人の女の子が見えました。

女の子と言いましたが、もう成人しているのでしょう。

少し低めの身長。

しかし、すらりと伸びた手足。

桜色の……いえ、ライトブラウンです。

何故か一瞬、私には彼女の髪が薄紅色に見えましたが。確か、ライトブラウンだった気がします。

ともかく。ライトブラウンの、ウェーブがかったふわふわの髪を、肩の少し下まで伸ばした人でした。

形の良い目は珈琲色で、白い肌にはそばかすが散っていました。

万人に好かれる顔では無いかも知らないけれど、私からすれば、彼女は美人でした。

ふと、彼女はこちらに視線を向けました。

そして手を広げて、

「 call me 」

と言いました。

いえいえ、声は聞こえません。

柔らかな彼女の声は、私の幻聴です。

ただ口を "call me" と。

私を呼んで。

と、動かしただけでした。

私は彼女の名前を呼ぼうとして口を開けて、

そのまま阿呆のように固まりました。

彼女の名前を、私は知らない。

微笑みながら呼ばれるのを待つ彼女。

口の中が渇きました。

なんと間の悪い。

頭の一部が空白になったように、名前が出てきませんでした。

思い出せ、いや、考えだせ?

ふと思いついた名前を言おうとして。


◇◇◇


伸ばした手の先は空を掴みました。

ぼんやり歪んだ天井を見て、私は自分の部屋にいることに気づきました。ベッドの上で、タオルケットを床に蹴落として寝そべっていたのです。

外ではざぁざぁ雨が降っていました。

…………妙に雨の音が近い。慌ててカーテンを開けると窓が開いていて、網戸が水の膜を張っていました。窓の木枠も濡れています。

私は昨晩の自分に舌打ちして、網戸の水を弾いてから窓を閉めました。


「___廻桜みおう


声に出して呼ばなくては。そんな気がしました。

ライトブラウンで桜色の髪を持つ彼女。


私は未だに、彼女の小説を書けていません。

「 call me 」

そう言って、私を急かしてくれたら良いのに。

あの夜だけ会えた、彼女の話。

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