第4話
「こんなものは……ウソだ」
突然の絶叫にネリッサは目を見開く。
「エド? 」
あぁ。
珍しくエドは露に狼狽し、取り繕いの苦笑さえ見せた。すまない。
いや、この男は生来激情家で、思い出したように偶に浮かべる冷笑、の方が、そう見えて欲しい、装いなのだとネリッサは最近、思い至っていた。
<あれは排除すべきだな、そうだろう?>
え?。
唐突に響いた頭の声に戸惑う暇すら無かった。
ナニコレ?!?!。
直後の眼前の映像を認識する間も無かった。
政府の、艦隊。
理解した、させられた。
<やるよ?君が望むなら>
わたしの、のぞみ。
指を鳴らすよりもあっけなく、政府の派遣艦隊は消滅する。
科学もまた信仰に他ならないのだよ、と叔父は語った。事実を前に真実をではなく、自身の求道、信仰に殉じてしまう、人は弱い存在なのだと。メインベルトの発掘は連邦はもとより連合の眼さえ欺き、当然にして“開発”の名目で薄氷を踏む思いでしかし決然と敢行した。叔父が神智、ニューソート、ZEN、メディテーション、により求めた座標にそれはあった。
<ざんねんながら少し違う>
苦笑、の気配。
<私は先行人類の手になる遺跡ではないし、ベルトはそれ、君たちが妄想した者の手により粉砕された星の欠片ではない>
僅かな、間
<あれは、私と、彼とで砕いた。意図してでのものではない。星であれ元より凍て付いた只の岩塊だ。文明どころかいかなる生命も存在していなかった>
では、あなたは一体。
<私は、名乗るのであれば。君たちのいうΩだ、始まりにして終わりの者だ。>
あなたは、オメガ。
<以後、そう呼ぶがいい。>
歴史。
人類の足跡に己が名を刻銘する。それはある種の者には宿願なのだろう。承認欲求? 名欲の権化、極限まで肥大し膿み爛れた自我の果て。
その総てを、嗤う、観客席で。
表舞台の主役など最悪だ。あれは只の見世物、後から万人に弄ばれる時の道化に過ぎない。史書に実名を留めるその総てが、愚かしい、誰がそれを讃える? ネタにされ商材として素材として、大衆を恐怖させた独裁者は茶化され、聖君は祭り上げられ或いは乗っ取られ本位に染まぬ道具に堕され、名将は後知恵で批判され、才人は人格を叩かれる。ところでどうだ、全く影も残さずしかしこの手に時を握るというのは。不遜に過ぎるか、いいや、所詮人生というクソゲー、一身の裁量でどう廻そう、何を遊ぼうと自身の始末だけの事をとかく咎められる謂れはない。
Archipelago-Allies、AA、“群島勢力”を名乗る我々は、トミー・ソガメを盟主とし、地球連邦政府と戦端を開いている。
圧勝している。
こんなのはウソだ、まったく現実的じゃない。
我々は、俺は、
民意を糾合し、憤懣をベクトルに統合し、ドライヴし、
だが、至妙な手捌きで円滑な、公共の福祉に資する、今求められている真の最大幸福を実現する。
革命ではなく、改革を。
声望ではなく実績と皆が口にできる本物の果実を。
それが、なんたること。
まるでできの悪いカートゥーンのような武力抗争、「独立戦争」、だ!。
それも“しんへいき”を擁してのだ。
神輿は変わらないが、そのフィクサーが知的機械生命的何か、という目の前の現実が、エドにはどうしても辛うじて理解は出来きても受容できない受け入れられない。
だってそうだろう。
ベルト開発の現場で発見された遺跡、<眠る巨人>、あらゆる手段を尽くし調べ語りかけ理解分析解析とにかく、それが勝手に話し動き、
戦争まで始めてしまった。
しかもその<オメガ>は、ネリッサに従っているだけだ、と嘯く。
エドには、もうついていけない。
眠る巨人。
知れず凍り付いた戦慄がフラッシュバックする。
プロジェクトの主導者、“サイエンスライター”が碌でもない汚物であるのは一目に取れた。政府の資源開発支援を隠れ蓑に連合の諜者がこんなところでどんな“画”を書いているというのか、さすがに見当も付かなかった。
対象は、人智を凌駕していた。
俺が、このおれが、見つけた。
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