第25話 真実【ニコ視点】
夜が更ける。
けれど、明るい。
「私をここに留めて隙を作るためだけに……『自殺』したのか。お前を拾ったご主人様を殺したのか」
「……わたしは、ニコに救われた。だから、ニコの望むことはなんでもするんだ」
ルミナは毅然として答えた。
「……狂ってるな。お前ら。合理性の欠片も無い。私の読者とは思えない」
インジェンはそう吐き捨てて、ようやく私と目を合せた。
「たとえ客観的に見て狂っていても。それで結果あなたを捕まえられたなら。それは『合理的』なのよ」
「……はっ。確かに、『結果』が全てだ。なんだ、論戦でも敗けてしまった」
諦めたように。彼女は可笑しそうに笑った。
「…………何故捕まえなかった。タンクを割った時点で警備兵を突入させて、『獄中で論戦しましょう』と言わなかった。そこはお前の隙じゃないのか」
『対等な話し合い』には。
背景に武力が必要だ。でないと舐められる。最悪殺せる、暴力で言うことを聞かせられると思われれば。まともに話などできはしない。
「あなたはまだ、身体のどこかに『小瓶』を隠している。翼用のあの1本だけの筈は無いわ。だから、これで良いのよ」
状況は五分だ。ただそれは『
『
この人は、私がインジェンファンだからと。私がこの人に付いてクーデターに賛同すると思っていた。
化けの皮が、剥がれた。
「…………
「そうね。あなた達が
「はっ。私以外が聞けば立派な『差別主義者』の台詞だな」
「価値観が同じだから仲間なのよ。違えばそれは『敵』。隙を見せれば足元を掬われてすぐに滅びる。私は『人間』だから」
結局のところ。
この問答にはさほど意味が無い。この人は全て知っていて、私も全て知った。お互いの目的は共有されているし、状況も分かっている。
議論の必要が無いのだ。もう答えは出ている。
「……どこまで『良い敗け方』をさせてくれる?」
「そうね……」
人を溶かす
後はせめて、その『敗け方』。彼女にとってそれが焦点だ。
「あなたとの共通点は、『
「…………ああ。仕方無い」
これはもう、論戦とかじゃなくて。
もはや『戦後処理』だ。
「……ニコ」
「なに? ルミナ」
私の後ろに控えるルミナが、口を開いた。
「訊かないの?」
「…………」
私は、『これからのリヒト公国』の話をしていた。ルミナは気になったのだろう。
私が、自分のことを話さないのが。
「なんだ? 私がこの
「…………」
もう勝った。気は抜かないけれど、後のことはある程度父に任せても良い。
「……私の母についてよ。
「…………ああ。それか。『
「えっ」
イストリア家は、
それで死んだのか。母は。
「その性質は、『受胎』だ。人間のイストリアの
「!」
違う。
……それで生まれたのが、私なのか。
「ああ、事故だったよ。あのルミナスが溶けたのは。それで、さらに再構築しようと生み出されたのがそっちの『失敗作』だ」
「えっ。わたし?」
ルミナを見る。
……その名前は。
ルミナス・イストリアを蘇らせる予定で名付けられたということか。
「……分かるだろ。失敗した。だから捨てられた。失敗作を貧民街に捨てるのはいつものことだ。…………その後、その失敗を元に『創造』されたのが私だ」
「!!」
『哲学の灯火』曰く――【真実は意外としょうもない】。
インジェンとは。
……この人は。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます