第9話 リームスのある生活【ニコ視点】
「ふわあ……」
研究所にて。私の研究室。サンプルの光泥機と頑強ガラスをルミナに見せる。
今彼女が手に持っているのは、『
「ガラスって、硬いものだと思ってました」
「
そう。
知らないのだ。貧民街出身のルミナは。
あそこはまだ、
それほど、今の人間には格差がある。
「
「……光る、泥。……一体あれは何なんですか?」
知識欲。
ルミナからそれを感じた。知らないことはなんでも知りたがっているような。
恐らくは、『次の賭博』に備えて。要不要を問わずに知識を蓄えたいのだろう。何が使えるかは分からない、いつ賭博になるか分からないから、とにかく知れる時に『
そういう、『生き方』なのだ。
「……正体は、溶けた岩よ」
「えっ」
良いわ。全てを伝える。
今更、初等教育レベルのことだけど。私は好きなものを語るのが好きだし。
【人生に意味は無い。つまり好きにしろ】。……インジェン準新作『哲学の灯火』から引用。
「私の一族は、代々『原液』を管理して、受け継いできた。ずっと研究をしていて、成分や性質は分かってる。『泥』の名の通り、これの本質は『岩』なのよ」
「……岩」
「岩を超高熱で溶かすと溶岩になるでしょう?
「……昆虫、ですか」
「ええ。知ってる? お尻がこう丁度、
「……ホタル、ですか?」
「そう。『アサギリホタル』という種類。けど、自然界では殆ど
アサギリホタルは、たまに夜の公園で見掛ける。市街区の外、工業区のある川の方まで降りるともっと居ると思う。まあ、その辺に居る普通の虫だ。
「今となってはこのリームス文明の生活必需品だけど、基本的には危険物で有害物よ。それは忘れないでね。直に触ると皮膚が持っていかれるわよ」
「えっ」
私の脅しに、ルミナは尻尾をピンと立てた。ああ、触りたい。明日の賭けはそれにしようかしら。
「『融解と増殖』。一度定量の
「そうなんですか?」
「……だから、貴族街は綺麗なの。分かる?」
「…………」
顎を撫でるルミナ。
「……ゴミを入れてリサイクルを」
「そう。『廃棄物』の処理に困ることが無い文明なのよ。トイレ、見たでしょ?」
「あ。用を足したらこのボタンを押せってチルダさんが……。蓋が勝手に閉まりました」
「
初等教育どころか、一般家庭では生まれた時から知っているようなこと。
ルミナは、知らない。
ええ。良いわ。全て。
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