第4話 補欠合格
魔法勝負を終えて帰宅したアイリスとマリア。
「合格証書はどこですかぁ!!」
「こちらに」
興奮気味のアイリスに淡々と答えるマリア。アイリスは合格証書をこれでもかと、マリアに見せつけて凄む。
「ほら! ちゃんと見て下さい!」
「近いです」
「いーから、こ・こ!!」
「ちゃんと『特別合格』って書いてあるじゃないですか!!」
確かに合格証書には「特別合格」という文字が記載されている。その文字を眼前に突き付けられても、マリアは一切表情を崩さない。
それもそのはず、アイリス・アンフィールドの受験手続きから、合格後の入学手続きまで全てこのメイドのマリアが行っているのだ。その文字の存在を知らないはずがない。
「特別合格! つまり特別な合格! 首席ってことじゃないですかぁ!!」
アイリスは先程の魔法勝負の鬱憤を晴らすように、精一杯マリアにどやってみせた。マリアはアイリスから突き付けられた合格証書を受け取り「はぁ~」とため息をついてから答える。
「よいですかお嬢様。これは『特別な合格』という意味ではありません」
マリアは合格証書をアイリスに見せながら、特別合格の文字に指を添え答える。
「『特別
「……んん?」
アイリスは意味がわからないという表情で首を傾げる。やれやれと言わんばかりに、もう一度ため息をついてマリアは答える。
「簡単に言えば補欠合格ということですよ」
「…………補欠?」
「はい補欠合格です。または繰り上げ合格とも言いますね」
「うえええええぇっええええぇぇ!???」
アイリスは絶叫した。
「待って下さい!! 待って下さい!!」
「私つまりギリギリ試験に合格したアホの子だということですか!?」
王立魔法魔術学院は、名門中の名門なので補欠合格であっても決して「アホの子」ではない。しかし自身を首席と信じて疑わないアイリスはそうは思わなかった。興奮した今のアイリスに、補欠合格も決してアホではないと説明するのが面倒くさいと思ったマリアは答える。
「はい、お嬢様はアホの子です」
「そ、そ、そ……そんなはずは……」
アイリスは
「でも私! 魔力試験ではぶっちぎりのトップでしたよ!? 試験官の方からは開校以来の好成績だと……」
「はい。間違いありません。お嬢様の魔力は新入生の中では間違いなくトップでしょう」
「じゃあなぜ!?」
「魔法、呪術、薬草学、
「あ、あ、ああ……」
徐々に状況を飲み込みんできたアイリスは言葉が出ないようだ。
「だから普段から勉強しておけと言ったでしょう」
マリアはまるで母親のような説教をする。
「で、では……合格なのは……」
意気消沈という具合でアイリスはマリアを見る。
「合格通知に添えられていたこちらの紙はお読みに?」
アイリスの記憶にない手紙をマリアは見せる。
「見たことないです……」
「全く……合格証書に浮かれてちゃんと読んでなかったのですね。いいでしょう。要約すると――――」
・選考した結果、合格水準に達していなかった
・しかし魔力に関して類い稀な才能を認める
・将来性を考慮し特別に合格とする
形式だった諸々の文章を省いて、マリアはアイリスに理解できるよう要点のみ抜粋して伝える。
「とまあこんな感じです。決してお嬢様が首席合格だと事実はありません。よいですか、今後はギリッギリの補欠合格だということを胸に刻み真面目に勉強を――――」
説教モードに入りかけたマリアをアイリスは遮る。
「つまり学院はアイリスちゃんの偉大な魔力と、大いなる将来性に惚れ込み欠点を差し引いても入学してほしいというわけですね!!」
何を思ったのか突然大きな胸を張り、自信たっぷりに答える。直後マリアの表情が固まる。
「いいんです! いいんです! 補欠とか首席だとかはどうだって! 天才はいつだって世に理解されないものですからね!」
「え、ぇ~……」
ドン引きと言った具合でマリアはアイリスを見る。
(さっきまでやれ首席だと拘っていたのは貴女でしょう……そもそも補欠合格ってちゃんと理解できてますか……)
問い質したいことは山のようにあったが、マリアは全てを飲み込んだ。なぜなら、そうアイリスは――――
(アホの子でしたね……)
アイリス・アンフィールド。生まれ持った無尽蔵の魔力と、恵まれた容姿。そして後天的に身に付けた最低限の学力を併せ持つ純白の髪色の美少女。
彼女の性格はよく言えば超ポジティブ、悪く言えば無計画、無鉄砲のアホであった。
「まあ入ってしまえば同じですしね!」
1人で納得して自己肯定に浸るアイリスを、呆れた顔で眺めていたマリアは今日何度目かわからないため息をつく。
「さっ……夕食の支度でもしますか。下ごしらえなど色々とやらなけばならないこともありますからね」
アイリスを放置してマリアは夕食の用意を始めた。
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