第3話 魔法合戦

 昼過ぎ 仕立て屋


「また成長してしまいましたか」


「いやぁ~困ってしまいますね~」


 口ではそう言うものの、むしろ嬉しそうなアイリス。

 制服の採寸でどうやらバストサイズが大きくなっていたようだ。すでに同世代の女性より、確実に大きく育っているにも関わらずさらに成長したらしい。アイリスはどや顔で、控えているマリアを見るも――――


「お可哀想に……栄養が頭にいかず胸ばかりにいってしまう病気ですね。今度王都にある病院を予約しておきましょう」


 なかなかパンチの効いたコメントをする。


「まあ冗談はさておき、あまり巨乳アピールばかりしていると男性からモテても女友達ができなくなりますよ」


 実に現実的なアドバイスを送るマリア。


「あ……はい……すみません……」


 アイリスも素直に従うしかなかった。






 15時。仕立て屋を後にして2人は適当な広場に出る。広場と言ってもただの草原のような場所だ。


「この辺りなら人もいないのでよいでしょう」


 そう言ってマリアはアイリスと10メートル程距離をとる。アイリスも少し真剣な表情でマリアと対峙する。マリアは口元で何かを唱えると右手を開く。するとステッキが現れマリアはそれを持ち――――


「ではお嬢様。いきますよ」


 短く言うとステッキをアイリスに向ける


「ハッ!」


 風の魔法を放つ。かまいたちのような鋭い攻撃だ。肉眼では風の魔法は分かりにくいが、地面の草が裂かれたように舞い上がっているのが視認できる。アイリスも30センチ程の杖を出して、マリアと同じ風魔法を放つ。


「えいっ!」


 同じように地面の草が裂ける。そして両者の魔法が交わった瞬間、大きな破裂音のような音を立て魔法は消えた。風魔法に対して、風魔法を放ち互いを相殺したのだ。アイリスがボールを投げるようなフォームで杖を振る。


「でぇぇーい!!」


 轟音をあげ鞭のようにそり曲がりながら、炎の蛇がマリアを襲う。炎の魔法だ。

 うねうね動いているが、真っ直ぐこちらに向かってきており動きは直線的。魔法で返さなくても避けられる。そうマリアが判断して風の魔法で空中に移動した瞬間。


「か~ら~の~!!」


 アイリスは右手一本で持っていた杖を両手で持ち、大縄跳びの回し手のようにぐるんと大きく弧を描く。

 すると杖から一本しか伸びていなかった炎の蛇の頭が、ぷっくりと膨れパァンと破裂する。そして先端から新たに数匹炎の蛇が現れ、地上数メートルにいるマリアを包囲する。


「せぇい!!」


 一斉に炎の蛇がマリアに襲いかかる。


「くっ」


 一瞬遅れをとったが、ステッキで自分を囲むように回す。すると綺麗な水の球体が現れてマリアを囲む。水の魔法だ。直径180センチ程の、美しい水球が炎の蛇からマリアを守る。炎と水。属性の相性は言うまでもない。

 激しい水流で回転する水球すいきゅうの中央で、涼しい顔をしているであろう、マリアのことがわかっているようにアイリスは――――


「まだまだ~!!」


 水球に触れて威力が落ちた炎の蛇に、魔力を注ぎ込みさらに太く、長く、大きくさらに龍の形への形態変化させる。アイリスの杖から伸びる龍の炎は、既にマリアの水球を完全に包囲して余りある巨大な炎龍になっていた。


「パワー! イズ! ジャスティース!!!」


 そう叫んで水球ごとマリアを飲み込もうと炎龍がうねりを上げたその時――――


「合体魔法」


 口元に笑みを浮かべマリアが小さく呟いた瞬間、水球が先程の風の魔法のようなかまいたちになり、炎龍を切り裂いた。右手で水、左手で風を、それぞれ違う魔法を発動させたのだ。合体魔法、高度な魔法である。切り裂かれゆっくりと消えながら地面に落ちていく炎龍に――――


「マジですか……」


 唖然とするアイリス。


 宙に浮いたまま、ステッキを天高く掲げるマリア。そのステッキの先からは激しくバチバチと弾けるような電力が溜まっていく音がする。


「いぃい!?」


 驚くのも一瞬だった。アイリスはとっさに土の魔法でかまくらのような防御壁を作る。マリアがステッキを振り下ろした瞬間、1メートル程の雷の矢がレーザービームのようにアイリスへ降り注いでいく。都合4発アイリスの防御壁に直撃する。

 アイリスは防御壁を破壊され、ゴロゴロと何回か転がりながら後ろに吹き飛ばされる。


「あたたた……」


 起き上がろうと顔を上げた瞬間、ピタリとマリアのステッキが喉元に当てられる。


「ここまでですね。お嬢様」

 

 勝負あったようだ。


「ああ!! もー!!! また負けました!!!」


 大の字に地面に転がりアイリスが叫ぶ。この魔法勝負もお馴染みらしい。


「いくら魔力が底無しだからといってもゴリ押しだけでは勝てませんよ?」


「くそー!!! くそー!!! 悔しい!!!」


 アイリスはそれどころではないらしい。


「こんなはずでは……首席合格の天才アイリスちゃんがこんなはずは……」


 うわ言のようにぶつぶつ言っていると――――


「首席合格って何のことです?」


 マリアが真面目な顔で聞いてきた。


「は? 何って学院のことに決まってるじゃないですか」


 当然でしょ、と言わんばかりにアイリスが答える。するとマリアが「はぁ?」という顔をしながら


「何を勘違いされているか分かりかねますがお嬢様は首席合格ではありませんよ」


「へ?」

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