第9話 あやめの家に行く

 九郎、あやめ、つよし、美琴の4人は、午後の講義を受ける。つよしと美琴は、レポートを書きに図書館に行く。

 九郎とあやめは、2人で帰宅する。2人とも歩きである。

 あやめが九郎に言う

 「私の家に寄って行かない。」

 「うん、ぜひとも。」

九郎は、女友達は普通に家に誘ってくれるのだろうかと考える。彼は、これまで友達を家に誘ったことも誘われたこともない。

 玉枝が九郎に言う

 「これは誘っているのよ。2人きりになったら押し倒すのよ。」

九郎はぎょっとする。もし、あやめにその気が無かったら社会的に身の破滅である。

 何よりあやめに嫌われてしまう。押し倒すことなどできるわけない。

 九郎はあやめと歩いていく。彼は心の中で何が起こっているのか必死に考えるが答えが出てこない。人付き合いの少なさが致命的であった。

 あやめは九郎に聞く

 「翼君は霊が見えるけど、霊はたくさんいるの。」

 「場所によるよ。大学は多い方かな。」

 「教室にもいたの。」

 「2人いたよ。1人はいつも教室にいるよ。」

 「そうなんだ。怖い目に遭ったことある。」

 「そういうのは避けているから、図書館の霊は怖かったかな。」

 「私、初めて幽霊見たのよ。突然、翼君の隣に現れるから怖かったわ。」

 「あの霊は、最初、本棚の通路の奥にいたんだ。気づいたら隣にいてびっくりしたよ。」

 「青い炎に焼かれて消えて見えたけど、まだいるの。」

 「いいや、燃えて消えてしまったよ。」

 「翼君が消したんじゃないの。」

 「僕には何もできないよ。」

2人は話しているうちに久沓神明社くぐつしんめいしゃに着く。

 あやめの家は神社と聞いていたが道路から境内まで坂道が50メートルほど続き、登りきると鳥居がある。正面に拝殿がある。

 あやめは拝殿の右手にある屋敷に九郎を連れていく。玄関の引き戸を開けるとあやめは「ただいまー」と声をかける。

 すると廊下の奥から足音が聞こえてくる。50歳位の男性が現れる。

 あやめが紹介する

 「おとうさん、こちら翼九郎君。」「こちらは、父の社本一久しゃもとかずひさです。」

 「翼九郎と言います。社本さんとは同じ大学の友人をしています。」

 「翼君のことは、あやめから聞いています。歓迎するよ。」

 「いきなり親に紹介なんてお婿さん決定かな。」

玉枝がはしゃぐ。

 九郎は居間に通される。彼がソファに座ると一久が話し始める。

 「翼君のことはあやめから聞いている。霊が見えるって本当かい。」

 「はい、霊とか妖怪を見ることが出来ます。」

 「除霊はできるのかな。」

 「いいえ、僕は見えるだけです。」

 「そうか・・・」

あやめがコーヒーを運んでくる。一久は話を続ける。

 「今日は、私があやめに頼んできてもらったんだ。」

あやめが黙って手を合わせる。

 「今度の日曜日にお祓いをするんだが手伝ってもらいたいと考えている。どうかな。」

 「僕は見えるだけですが、役に立てますか。」

 「見えるだけでも助かるよ。」

 「分かりました。」

 「ところであやめとは仲がいいのかい。」

 「まだ、話をするようになって数日です。」

 「あやめと仲良くしてくださいね。」

 「はい。」

あやめは赤くなる。

 「これでお父さん公認の仲ね。」

玉枝は嬉しそうに言う。

 九郎とあやめは居間で雑談した後、あやめが神社を案内する。神社は広く本社の裏手の奥に奥宮まである。

 案内を終えると夕方になっていたため、九郎は下宿に帰る。

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